兵器達の末路

何も分からない。

今までの生も、これまで何をしてきたのかも。

「なんだ?君、記憶喪失か?」

そうかもしれない。

「それは、気の毒に。でも、ここは戦場だから」

戦場?自分はここで何をすれば?

「僕達はただ戦っていればいいんだ」


周りには同じ様な者達がいた。

彼らも戦っているのだという。

十二年、戦場ではない場所で訓練をしながら過ごし、戦場へとおもむき戦うのだそうだ。

ならば自分は、と考えた瞬間、何も分からないことを思い出す。

自分は何も分からないから、とりあえず彼らの真似をした。

きっとこれが、“分かる”ようになる手段のはずだった。

装い、戦い方、全てを真似する。

どれだけ装いが間違っていても、どれだけ兵器の扱いが間違っていても、教えてくれる者はいない。

ここは戦場。皆が自分自身のことで限界だった。

“分かる”ようになるのは、一体いつになることやら。


さて、どれだけの時間が経ったのだろうか。

夜が訪れる回数を数えていたが、

五千を超えた辺りから数えるのをやめてしまった。

あれからおそらく、数えていた数の十倍ほどの夜は越したように思う。


また夜が訪れる。

空を彩る光が随分と眩しい。

それを眺めながら口に出すのは、最初に少しだけ言葉を交わした者の言ったこと。


僕達は戦っていればいい、僕達は……おや?

はて、僕達とは?

もう周りに“僕達”はいない。

とうの昔からだ。

はて、はて、はて、…………


数多に重なる死体の上で、その者は首を傾げる。

おや、分からないことが分からない。

……でも、戦っていればいい。

僕達もそうしていたのだから、自分もそうするべきなんだろう。

そんな言葉を呟いていた。


その者は、

自分が何者かも分からず、

自分が何をしているのかも分からず、

長い年月の摩耗の中で、次第には考えるということもしなくなるだろう。


積み重なる死体の上。

そこにいたのは、憐れなただ戦うための兵器だった。

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