カナラ

第1話

「私、猫に憧れてるの」


 雲一つない青空が広がる夏の日、小学生とは思えない表情で君はそう言った。


「好きなように生きたいから、なのかな」


 私は臆病者なんだ、と続ける君の瞳には、僕なんかよりよっぽど自由の色が宿っているように見える。

 それでも君は、逃げたいというのか。

 何故、どうして、気になって仕方ない。

 それなのに僕は聞くことすら出来ない。


「まあ、貴方は興味もないし、分からないよね……」


 違う、そんな事、言わないでくれ。

 不自由な自分がもどかしい。君みたいな人間だったら、こういう時何か言えたのだろうか。

 見つめあってしばらく。雫が数滴落ちた。


「あぁ、雨が降ってきちゃったね。どうしよう……」


 ボロボロの傘を両手で握りしめる君は、わずかに逡巡した後、守るように傘を置いた。

 君をまだ見ていたかったから傘を出る。

 空は痛々しいほどに晴れていた。


「じゃあ、バイバイ」


 傷だらけのランドセルを抱えて走る後ろ姿を、僕はただ見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カナラ @nakatakanahei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ