第23話 vsホウキ
「
「「「おおおおおおぉ……!」」」
「「「ファイアボー! ファイアボー! ファイアボー!」」」
実況の呼び出しを受けて、俺は観客席からの歓声に手を上げて応える。
すげえ。音圧が。地響きが。視線が。熱気がビリビリと伝わってくる。スタジアムが揺れてる。実況の声が掻き消される。
冷静に考えれば、ここ武道館よりデカいし、観客もずっと多いんだよな。ヤバい、そう考えたら緊張してきそうだ。
「……地下闘技場! オサーン! “
なんとか聞き取れた呼び出しに、だが対戦者は何の反応も見せない。そりゃ敵地の観客に愛想を振りまくとは思ってないが、俺を見据えたまま無表情で突っ立っている。
「始め!」
俺たちを中央に呼びつけた審判員が、試合開始の合図を告げる。その間もずっと、オサーンは俺を見たまま動かない。
なんだこいつ。
身長は百八十前後で、体重は九十そこそこ。元いた世界での、俺の身体に近い。“地下闘技場の壊し屋”とは聞いているが、エイダもこいつの試合を見てはいないそうな。
姿勢が直立なので格闘の形式は不明。耳も
見て取れる情報はないな。形式としてあまり決まった格闘技というのは多くないようなので、こいつも喧嘩殺法というか我流なのかもしれん。
「しッ」
短い息吹と共に、オサーンは直立のまま蹴り上げてきた。素早く鋭いが、スナップを効かせた格闘技の蹴りではない。伸ばした脚を水平まで上げるバレリーナのような蹴り。
俺は頭を振って避け、相手の出方を窺う。威嚇にしても牽制にしても、いまのだけじゃ意味がわからん。……と思ったが、オサーンは直立に戻って、俺をつまらなそうに見た。
いや、こっちから行かなきゃダメなのかよ。
これまで戦った相手の中では大きい方ではないが、それでも身長差が頭ひとつ違うので、直立されているとやりにくい。
「しッ」
踏み込もうとしたところで、今度はパンチ。フットワークも使わず棒立ちのまま、肩も腰も入らない
あるいは、中央闘技場の興行を盛り上げる気はないという意思表示か。
前の試合で同僚のグンサーンが――結果的に、ではあるが――バロンの咬ませ犬にされたことを考えれば、それが最も腑に落ちる。
「しッ」
今度はハエでも払うような横薙ぎの平手打ち。頭を振って避ける。いい加減イラッとしてきた。観客からも、ブーイング混じりで困惑したざわめきが聞こえてきている。この辺り、元レスラーのプロ意識として許せないのだ。
オサーンにどんな意図があろうと勝手だが、
どうしたもんか。“たとえホウキが相手でも、名勝負にするのが真の名レスラー”というが。これでは本当に、ホウキを相手にしてる気分だ。
「しッ」
サッカーボールキックに来た脚をキャッチして軸足を払う。一瞬身体を泳がせたオサーンだが、くるりと半回転すると払われた脚で蹴り飛ばしてきた。
反射神経もバランスもいい。勘も鋭いし対処能力も高い。当然だが、やればできる選手なのだ。無気力試合は、ただの
俺は蹴り飛ばされてよろめく。まともに喰らったのは事実だが、突き放されただけでダメージはそれほどない。こちらのフリに乗ってくるかと思ったが、オサーンはつまらなそうに背を向け、ダラダラと試合開始地点まで戻っていく。
「おい! なにやってんだ!」
「やる気がねえなら帰れ!」
客のヤジが降ってくる。同感だが、その責任の半分は俺にある。
「おい」
俺はオサーンに声を掛け、振り返った顔の前に炎の玉を吹き掛ける。
「ッ⁉︎」
一瞬ハッと飛び退ったオサーンは、俺が大笑いしているのを見て顔色を変えた。むろん俺の得意技にして唯一の特技であるファイアボールだ。威力もサイズも大道芸レベルでしかないが、腕に纏う以外にもお手玉くらいはできるようになったのだ。
使い道などないと思っていたが、意外なところで役に立った。
「ビビッた? ねえビビッた? うひゃひゃひゃひゃ……!」
「くッ、そガキがぁッ!」
打ち下ろしの掌底を見舞ってきたオサーンを、今度は俺がつまんなそうにスカす。一歩動いてリーチの外に出ると、俺は対戦相手に背を向け観客席に肩を竦めた。
「こいつ! デッケー図体して! 俺のファイアボールが、怖いってよ!」
「「「ぶはははははは……!」」」
「地下闘技場の戦奴は、そんなもんかー!」
俺と観客の煽りに、オサーンはブチッと怒りの表情になる。
「なんだよ、お前ら戦いに来たのかと思ったけど、違ったのか? あぁん?」
最後のひと押しをしようと、俺は大袈裟に尻を振ってブリブリにシナを作る。
「お花、でも、摘みにきたのかぁ? お嬢ちゃあぁん?」
そういえば
それも
「……貴、様……ッ!」
また、やりすぎたな。いきなり空気が変わった。オサーンは本気になったか、腰が落ちてる。姿勢も前屈みで両手を構えてる。ファイティングポーズというよりアマレスの構えっぽい。
うん。こういう単細胞は好きだ。
俺は笑って手招きすると、アメリカで有名になった
「
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