第17話 大阪

私は初めて高木くんのLINEに呆れていた。

私はすぐに返事をした。


“今どこ?”


高木くんからすぐに返事が返ってくる。


“家、さっきまで勉強してたんだ。”


うそ!

今高木くんは目の前にいる。それなのに....


私は高木くんに電話した。


「もしもし、高木くん?」

『もしもし、どうしたの?』

「どうしたの?って高木くん大阪駅駅で...」


他の女の子と...あれ?


私は目の前にいる高木くんを見る。

女子校の女の子とキスをしている。

でも電話口には高木くん。


私はよく目の前にいる高木くんを見た。


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....高木くんんじゃない。


後ろ姿が物凄く高木くん似似ていただけ、横顔を見るだけでわかる。高木くんと同じ高校の制服を着た全く違う他人だった。


「ごめんなさい、高木くん。なんでもない....」

『どうしたの急に』


私は目の前に高木くんのそっくりさんがいた話をした。

高木くんは少し笑った後、私以外と一緒になるわけがないと言ってくれた。私は一人で騒いで申し訳ない気持ちになる。


「それよりも今どこにいるの?なんか周りが騒がしいからさ。」


私はハッと気付く。

時計を見ると終電がもう出発していた。


やってしまったようだ。


さっきまで色々とバクバク動いていた心臓が落ち着いてくる。

逆に諦めが出てきた。


「大阪駅にいる...」

「え?」


高木くんは電話の向こうで驚いた声を上げる。

何があったのか、高木くんは何度か聞いてきたので、私は両親と喧嘩したことを伝えた。


ただ、喧嘩の理由は伝えられなかった。


「だから家出してきたの。家に帰りたくなくて。」


高木くんは私の答えに半分怒っていた。

そして言う...今すぐ俺の家に来い...と。


高木くんは「彼氏なんだから一番最初に頼ってほしかった」と言った。


私は夜冷える中、高木くんを待った。


本当に迎えにきてくれるのか不安だったのと同時に、高木くんが迎えに来てくれると思うと嬉しかった。


家出した彼女、それを恋人が迎えに行く。

何という浪漫。


私は大阪の街から次々と街の明かりが消えていく中、寒空の下でひたすらに高木くんを待つ


ただ何もない時間というのは、ただ過ぎていくものじゃなかった。


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高木くんの家に行ったら何をしようか。

やっぱり指輪をもらうくらいなのだから、ちゃんと高木くんのお母さんとお父さんには挨拶はしたい。

だけどそれって結婚目前のカップルがすることで、私と高木くんでは早いのかな。


でもそんな正式なものじゃなくて、普通に高校生らしく「こんばんわ」と言う程度かな。


高木くんは勉強に忙しいから邪魔をせずにただ隣で居よう。

だけど夜遅くまで頑張っていたら、夜食におにぎりを握ってあげたい。


ついでに私も並んで一緒に勉強しようかな。その方が何もしないよりも、一緒に同じことをできて良いかもしれないな。


夜寝る時は一緒に並んで寝たいな。もしかしたら緊張して寝れないかもしれないけれど、それはそれで高木くんをずっと横で見られるのだから良いかもしれない。


もしかしたらあの高木くんの誕生日以来一度も音沙汰ないことに誘われるかもしれない....


...私、高木くんに妊娠している事まだ言っていない。


私のピンク色の妄想はそこで途切れた。


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今まで堕ろすつもりだった。

だから高木くんが何も知らないうちに何とかしようと思っていた。だけど今はそうじゃない。


お父さんやお母さんからお腹の子を隠すのに必死で高木くんに伝えるタイミングをすっかり逃してしまっていた。

もちろん始めは秘密にしていたにだけど、私が産むと決めた以上、絶対に高木くんに話さないといけない。


だってこの子は高木くんの子なんだから。


高木くんと一緒に居たい。

だけど今まで見えていなかったものが段々と見えて来る。


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あの後、高木くんが私の中に放った種は全部流れていったことを高木くんには伝えてある。

しかもより確実な生理というお腹の中を全部リセットするものがきたと言う形で。


それが実は種が生き残っていて、それが芽吹いて私のお腹に宿っていると知ったら。


そもそも高木くんとはあの一回以来全くしていない。そして私も高木くん以外とは誰ともやっていない。

さっき私は高木くんの浮気を疑った、もしかしたら高木くんに浮気を疑われるかもしれない。


だって、普通一回で出来てしまうなんて有り得ない。


そもそも高木くんはお腹の中にいる子供のことを受け入れてくれるのかな。


だけどお腹の子を高木くんが嫌ったらどうしよう。

そもそも妊娠したことを黙ってたのを知ったらきっと高木くんは怒るかもしれない。

もしかしたら、私が子供を堕さなかったことに呆れるかもしれない。


そもそも....


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高木くんは私にお腹の子を堕ろすように言われるかもしれない。


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私だって最初は堕ろそうとした。

だけど私には宝物に思えたから今がある。


だけど冷静に考えれば子供を産むというのは責任ができる。よく「責任を取る」とドラマの俳優さんは言って、まるでそれが合言葉のように幸せなシーンが続くけれど、その責任って何に対する責任なの?


そのよくわからない責任を私は高木くんに押し付けようとしてるの?


高木くんはどう思うのかな....

私はどうすればいいのだろう。


ただ、高木くんに私のお腹の中に子供がいることを言わないといけないことは確かだと思う。


私は高木くんに妊娠のことを話す決意をした。





冬の大阪のカラッとした冷気が私の皮膚を刺す。

私はいろんな感情が入り乱れる中、ひたすら高木が迎えに来るのを待った。





高木くんはいつか一緒に乗った小さなバイクでやってきた。

高木くんは私を見つけてバイクをその場に止める。



迎えにきた高木くんは顔が少し怒っていた。

だけど私の顔を見た瞬間に表情が固まる。


「その傷....。なんでこんな時間に大阪駅にいるんだよ、しかも一人で。」

「ごめんね。でもちょっとお父さんとお母さんと喧嘩して、家に入れなくなったの。」

「そうか...だけど俺を心配させるような事はあまりしないで。」


高木くんはそれ以上私が家出したことについて聞いてくる事はなかった。

高木くんは何度か私の顔の傷を見る。多分私と私の両親との間でなんかあったのだと想像しのか、何度か何かを言いかけたけれど、それ以上は結局は何も言わなかった。


高木くんは私にキャリーバックを引っ張り、バイクへと向かう。

「寒くなかった?」と高木くんは気をつかってくれるけれど、私はそれ以上に高木くんにどう妊娠について話したらいいのかで頭が一杯だった。


「高木くん」「優香」

「「話したいことがある。」」


お互いに声が被った。


「えーと、優香から言って。」

「ダメ。絶対話が長くなるから先に高木くんから言って。」

「俺の話も多分長くなるけど。」


私も高木くんも先に話すのを遠慮した。

少しだけ気不味い雰囲気が流れた。私の話はかなり重たい話、あまり先に話したくはなかった。


「じゃあ、俺から話す。」


高木くんはバイクの方向に歩いていたのを止めて、ベンチの方に向かい、そしてベンチに座った。私もその隣に座る。


「ずっと秘密にしていたことがある。本当は何度が優香に言おうと思っていたことなんだけど、ずっとそれを優香に言うのが怖くて言えなかったことなんだ。


多分この事を言うと、優香をとても傷付ける。


優香に嫌われたくない、だからずっと隠していた。

だけど、もう限界だと思う。いずれ必ず優香には言わなければならないこと。」



高木くんはそう前置きをし、大きく深呼吸をする。

そして少し震える唇でこう言った。


「俺には優香とはまた別の婚約者に相当する人がいる。」


私は言葉を失った。

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