第13話 露見
家に帰るとケーキとチキンが待っていた。
流石にオムライスを食べた後に食べる気にはならなかったので、私は明日食べることを告げて自分の部屋に戻った。
私は外行きの服を脱ぐ。そして室内用のラフな服を着たところでガチャリと部屋の扉が開いた。
「優香、ちょっといい?聞きたいことがあるんだけど。」
たまたま背中を向けていたからお腹は多分見えては無いと思う。だけどとても心臓に悪い。
ちらっと姿鏡を見る。モコモコな格好なので体型はわからない。
「どうしたのお母さん?」
「部屋に入ってもいい?」
「良いよ。」
私はベットの上に座り、布団ひさに布団を被る。お母さんは私の勉強机の椅子に座った。
「優香、あなた最近生理きてる?」
「え?何で?」
私はいきなり鋭い質問が飛んできてドキッとした。
私はお母さんに生理の事をあまり言うことはない。そもそも酷い生理痛があるとかなら別かもしれないけれど、普段からお母さんに生理周期の話をする人なんていないと思う。特に私は生理不順で期間が開くことは多いけれど、生理痛になることは稀。
生理で温泉に行けないことや、プールには入れないことはあっても、日常生活に面倒くさい以外で生理に困ったことはあまりない。
あってもお母さんには言わずに大体はネットで調べてなんとかなっている。
だからこそ、お母さんが私の生理が来ていない事を知っている事に驚き、そして焦った。
「最近生理用品の減りが少ないから、生理不順になっていないかなって。」
ああ、なるほど。
私とお母さんは生理用品を共用で使っている。勿論お父さんとか弟の目に届かないように、掃除道具入れに隠してはいるが。まさかお母さんにどれ位使っているか把握されているとは思わなかった。
「大丈夫だよ、私よくそういうことあるし。」
「そう?何ヶ月くらい来てないの?」
私は答えに迷った。
正直に4ヶ月と言ったら絶対に妊娠を疑われる。
何とかぎりぎり妥協くらいを私は今までの経験から
「多分2ヶ月くらいかな。」
「そう。」
私は一生懸命に最後に生理用品を持っていたのがいつかを思い出そうとする。
「2ヶ月も生理がないのは心配ね。もう少し様子を見てもいいけれど、お正月挟むから明日くらいに一度病院に行ったほうがいいわね。
お母さん、いつもお世話になっている病院があるから明日一緒にいきましょ。」
「1人で大丈夫だよ、それに私も行きつけの病院あるからそっちに行くよ。」
「行きつけの病院?あなたどっか悪いところあったの?」
しまった。
「昔生理が同じように来なかった時に行った病院でね。」
「そう。そこが優香にとって信頼できる病院なのね。後で領収書渡しなさい、その分お金あげるから。...保険証はどうしたの?」
どうしよう、どう言ったらバレないんだろうか。
私は知識のない脳味噌で必死に考える。
「保険証はいらないところで。」
「そんな病院あるわけないじゃない、自由診療でもない限り。...まさか自由診療じゃないでしょうね。」
「自由診療?」
「保険なしで受ける診療のことよ。例えば美容整形とか妊娠健診の時とか....。」
お母さんは私をじっと見る。
そして目線が私のお腹へと向く。
「そういえば優香、最近厚着をすること多いわよね。」
「....うん。」
「...まさか妊娠してるとかないわよね、正直に言いなさい。そうじゃないと今すぐその服を
私は何も言わなかった。お母さんは黙って私に近づき、上着を捲った。そしてお母さんはほんの少し膨れたお腹を触る。
「何ヶ月?」
「...知らない。」
「相手は誰?」
「...言えない。」
お母さんは何か言いたそうにしていたけれど何も言わず、ただものすごく大きなため息を吐いた。
「明日一緒に病院に行くわよ。」
「ちゃんと行ったよ...。だから行かなくていい。」
「ダメよ、ちゃんと来なさい。行かないならお父さんに言って、車を出して無理矢理でも来てもらうから。」
「お父さんには言わないで!」
「なら明日は大人しく病院着いてきなさい。」
「...わかった。」
私はわずかに膨らんだお腹に触りながらベットに着いた。お母さんは絶対に堕ろせって言ってくる。一回殺しかけた命、私は絶対に守ると決めていた。
◇
朝私はお母さんと共にタクシーで病院に向かった。私はタクシーで揺られる中、一言も話さなかった。
ついた病院は産婦人科だった。私がかつて行こうとしてやめたところ。
「早くしなさい...優香...。」
私は名前を呼ばれて渋々病院に入る。
お母さんは問診票を受付からもらう。
そして私に無理矢理それを渡す。
そこに書かれている内容はあの時最初の病院で書いたような生々しい内容ばかり。
最後の生理、妊娠検査薬の結果、性交の経験、そして...思い当たる性交はいつしたか。
「優香、ちゃんと書きなさい。」
「嫌...」
こんなのお母さんの前で書けるわけがない。
お母さんは何度も私に問診票を書くように言うけれど、私は絶対に書きたくなかった。
お母さんは仕方なくそのままほとんど白紙の問診票を持っていく。
受付の人が何度か私の方を見て何かを察するように頷いた。
何もかも剥がされていくようで私は最悪な気分になった。
病院には30近い妊婦さんばかり。あの女医さんのところと違って、私のような10代の人は1人もいない。
狭い待合室のソファに座る妊婦さんたちが私を指差して何か話している。まるで動物園のパンダを見るように噂をして、それが周りの知り合いらしき妊婦さんに次々と広がっていく。
右を見ても私を指差し、左を見ても私を指差す。
そして誰かがお母さんに話しかけて、その噂を確かめようとする。
私は席を立った。そしてそのまま病院の外へ飛び出す。
「美香、待ちなさい。病院でちゃんと検査をしなさい。」
「嫌だ、もうこんな病院。1分1秒たりとも居たくない。」
「わがまま言わないの。」
「わがままじゃない。何でみんな私を指差して噂をしてるの?何で私がそんな噂されないといけないの?私は噂好きの人の客寄せパンダじゃないのよ。」
「仕方ないでしょ?」
「仕方ないわけないじゃん。私は絶対にこの病院に行きたくない。」
私が逃げようとするのをお母さんが手首を掴んで止める。
その瞬間、私はあのラブホのエレベーターの前で男に手首を掴まれていた記憶が蘇り、一気に身体中の毛が逆立った。
「いやぁーーーー!!!」
私が思わず叫んだ瞬間、お母さんは思いっきり私をビンタした。
保健室の先生にされたビンタよりも強烈に痛かった。頬がとても熱くてそこから液体が流れている。そして鼻血もうっすらと垂れてきた。
放心状態になった私をお母さんは病院に連れ戻した。もう私に抵抗する気力はなかった。
病院に入るとさっきのやりとりを見ていたのだろう、看護師さんが慌てて待合室に入ってきて、私の顔にガーゼを当ててくれる。ちらっと待合室に置かれていた鏡を見ると、見事に4本線の猫に引っ掻かかれたような跡が左頬から鼻先にかけて続いている。皮膚が切り裂かれパックリと割れていた。
多分お母さんにビンタされた時に爪で引っ掻かれたのだろう。
「お母さん、やりすぎです。」
私の傷に薬を塗ってガーゼを当てる看護師さんはお母さんにそう言った。
「...わかっています。でも。」
「お気持ちはわかりますが、この切り傷、かなり深いところまで切っているので、もしかしたら傷が残るかもしれませんよ。簡単な処理はしますけど、もしも腫れたり化膿したらすぐに皮膚科に行くようにしてくださいね。」
お母さんは顔が蒼白になり、コクコクと頷いた。
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