第12話 姉妹でお買い物

「何で黙ってたの!? そんな大事な事!!」


 バレリアの形相に、レイは驚いた表情で答える。


「えっ? 何でって言われても…… でもアルが助けてくれたのは本当だよ?」


(まぁ、嘘だけど…… それ位の嘘は良いよね?)


 レイが少し気不味そうな表情で答えると、バレリアは怒ったような表情で問い詰める。


「そうじゃなくて! 【神狼】に襲われたって部分だよ!」


「えっ? あっ、あぁ。 でも」


「でもじゃない!」


 眉間にシワを寄せて少し怒った様子を見せるバレリア。


 久しくバレリアに怒られた記憶が無いレイは、その様子に少し驚いてる。


 数秒の沈黙の後、レイは呟くように言葉を発した。


「えっと…… あの…… ごめんなさい」


「んっ! もう決めた!」


 少し気不味そうな表情のレイの肩を、ポンポンと叩くバレリア。


「えっと…… 決めたって…… 何を?」


「レイちゃん、もう外出禁止! 主様にも言っておく」


「えぇぇ? 外出禁止って……」


「当然だよ!」


 久しく見せていなかったお姉ちゃんっぽさを見せるバレリアに、レイは困惑していた。


「レイちゃんをそんな危ない目に合わせる訳にいかない」


「別に危なくな」


「危ないでしょ? レイちゃんで【神狼】に勝てる? 勝てないでしょ?」


「…………はぃ」


「もう一人で外出しないって約束して!」


「………………はぃ」


 バレリアの迫力と正論に、ぐうの音も出ないレイは、いつになくしょんぼりした様子を見せる。


 そんなレイの様子を見てバレリアはギュッと拳を握りしめ、意を決したように言葉をかけた。


「そのかわり私も約束する! もう喧嘩しない」


「えっ?」


「あのアルって奴の事! 頑張って仲良くする」


 突然、人が変わったようなバレリアの態度にレイは呆気にとられていた。


「う、うん。 あ、ありがと……」


 少し驚いた様子で返事をするレイの顔を見て、バレリアはニコッと笑いかけ……


「うん! じゃちょっと急ごっか?」


 そう言うと再びいつものバレリアに戻り、レイの背中をポンっと押し、村へ続く道を急いだ。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 初夏特有の草木の香りがする道中。


 日も傾きかけたとは言え、辺りはまだ見通せる程度には明るい。


 村へと急ぐ二人の視線の先には、目的地の明かりが見えてきた。


 バレリアは頭の後ろで手を組み、軽やかな足取りで歩を進めながら隣を歩くレイに視線を送る。


「おっ!そろそろ着くねー! 何買えば良いんだっけ?」


「えーっとね! 帰って料理するのも大変だと思うから、お惣菜とかにしよっかなぁって」


「良いねぇ! もちろんお酒とお菓子も良いんだよね?」


 普段はワンから禁酒させられているバレリアは、久々に飲める事に内心ワクワクしていた。


「良いけど…… 飲み過ぎたら駄目だよ?」


「分かってるって! お姉ちゃんを信じなさーい」


 その様子を見てすかさず釘を刺すレイを、バレリアは手慣れたようにあしらっている。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 村への入り口に辿り着いた二人。


 入り口から見えるマリノ村の様子は、ゲームで言うと最初の村のような感じだろうか?


 RPG特有の村名を話す村人こそ居ないものの、マリノ村の様子はそれに近い様相を呈している。


 小さいながらも賑やかな村一番の大きな通りには、食料や雑貨、服などを扱う露天商や宿屋、酒場等が軒を連ねている。


 人々の喧騒で賑わう通りの中を二人で歩きながら、あれこれと買い物を楽しんでいた。


「おっ! そこのお嬢ちゃん達! うちの串焼き美味いよー! 一本どうだい?」


「あら! お姉ちゃんとお買い物? 良いわねぇ。 良かったら、うちのお菓子買ってってよ」


 道中、当然のようにバレリアが妹に間違われる場面もあったが、当の本人達は気にする素振りも見せない。


 声を掛けられた露天や店を巡りつつ、二人は買い物を続ける。


「ちょっとお姉ちゃん! 色々買いすぎだってば! ご飯食べれなくなっちゃうよぉ」


「へいひへいひぃ! れんれんたべれろって」


 露天に並ぶ、串焼きやお菓子の匂いに釣られ、バレリアは行く先々の店で買い食いをする。


 道行く人々がその様子を見て笑顔を浮かべるせいか、レイは少し恥ずかしそうにしていた。


「……んぐっ。 ふぅぅー。 何か久々だねぇ! 二人で買い物に来るの」


 人々の視線を気にする素振りの無いバレリアは、頬を赤らめるレイに視線を向ける。


「うん、そうだね。 何か、楽しいね」


 少し照れたようにレイが返答するのを見て、バレリアは満足そうな表情を見せている。


 最初は買い食いに勤しんでいたバレリアも、小腹が満たされると真面目にお使いをこなしていく。


 二人は立ち並ぶ店を訪ねては買い物を繰り返し、残すはお酒のみとなっていた。


「えーっと、あとはお酒だけかな? あそこのお店で良いかな?」


 レイは買い物リストが書かれたメモを見ながら、バレリアに問いかける。


「ふふーん。 お酒買うなら、ちょっと行きたいお店があるんだけど」


 不敵な笑みを浮かべるバレリアは、レイを通りから一本入った裏路地へと誘う。


 大通りの喧騒が僅かに聞こえる程度の静かな裏路地には、何件かの飲み屋が並んでいた。


「ちょっと! ここでお酒飲んじゃ駄目だよ! 帰ってからじゃないと」


 裏路地の様子を見たレイは、バレリアに改めて釘を刺す。


「分かってるってば! 知り合いのお店に行くだけだって」


 そう言うとバレリアは一軒の酒場へと歩を進める。


 カランカラーン……


 バレリアが酒場の扉を開けると、金属製の乾いた鐘の音が店内に鳴り響く。


 店内は椅子が六つ並んだ、カウンターだけの小さなバーのような作り。


 年季の入ったカウンターや椅子、様々な種類の酒瓶が並ぶ大人の雰囲気のお店といった感じだ。


 まだ少し早い時間のせいか、客の姿は無い。


 カウンターの中では店主と思わしき強面の男が一人、グラスを磨いていた。


 鐘の音を聞いた主人は、店内に入ってきたバレリア達を鋭い目つきで睨みつける。


「おーっす! オッサン元気してっかー?」


 そんな様子を気にする素振りも見せず、バレリアは右手を上げ親しげに声をかけた。


 微妙な空気を察してか、レイはバレリアに耳打ちする。


「ちょっ、 何か怖そうなオジサンだけど…… 大丈夫なの?」


「んーっ? なんでぇ? 全然大丈夫だよ! なぁオッサン!」


 笑顔を向けるバレリアに対し、先程まで寡黙な表情をしていた主人の表情も笑顔に変わり……


「おぉ! バレリア様! いつこちらに?」


「はぁ? いや、どう見ても今だろ。 何言ってんの? バカなの?」


「えっ、たしかに。 こりゃ一本取られましたなぁ。 はははっ……」


 そんな調子の二人の様子を、レイは不思議そうな表情で見ていた。


「えーっと。 あのぉ…… 二人はどんな関係で?」


 強面の主人が、姉であるバレリアに『様』を付けて話す様子。


 二人の奇妙な関係性にレイは疑問を抱いていた。


「えっ? そりゃバレリア様は私にとって……」


「オッサン!」


 主人の話を遮るようにバレリアは右人差し指を鼻に当て、「シーッ」と言っている。


 その様子を見ていたレイは思わず呟く。


「な…… 何か、怪しい」

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