小学生の頃から仲がいい君。ずっとしゃべていても、ずっと一緒にいても飽きることはなかった。

 でも、あの頃の私はバカだった。そんな相手そうそう出会えるものじゃないと気付けなかったんだから。


 中学生。思春期真っただ中。みんなと恋バナをして盛り上がる。誰が一番先に彼氏を作るかで競い合っていた。


 まだ、恋愛なんてわかっていないのに、恋に恋していた時期。初めての彼氏ができた。私のことが好きだと言ってくれた人。私は普通の友達だと思っていたけど、付き合った。今考えれば最低だと思う。でも、その頃の私は、付き合っていくうちに好きになっていくだろうと軽く考えていた。


 いつも通り、君とスマホで話しているとき、その彼氏のことを話した。

 私は君が笑ってすごいねとか言ってくれると思っていたけど、少し黙って、よかったねと一言だけ言っただけだった。

 ほめてもらいたかったんだろうか。その話で盛り上がりたかったんだろうか。

 顔は見えないけれど、目の前に君の少し寂し気に微笑んだ顔が思い浮かぶようだった。


 中学二年になって。部活も、行事も私たちの代がメインとなった。

 私はクラスの中で、割と中心の方の立場だったから、代表だったり取りまとめ役を任されるようになった。

 でも、中心にいるからとか、まとめるのが得意そうとか、そんなのはみんなの想像でしかなくて。本当はそんな仕事苦手だったし、やりたくなかった。

 でも、断れなかった。みんなにはいいところを見せたいという気持ちで、舞い込んでくる仕事はほとんど断らなかった。

 仕事を引き受けると自然と責任も増えていくし、みんなの期待も大きくなる。

 抱えきれなくなって、私は体調を崩した。


 そんなときでも、君はいつもと変わらず連絡をくれる。

―今日学校いなかったけど大丈夫?

―大丈夫。全然何ともないよ。

 ほんとは大丈夫でも何でもない。

―ほんとに?

 見透かされてるようだった。みんなは気付いてくれなかったのに、君だけは気付いてくれた。なんか、それだけで頑張れる気がした。


 高校は近くの進学校に行くことにした。君が同じところを目指すと知ったときは驚いたけど、同時にうれしかった。また、一緒に過ごせると想像すると、勉強にも身が入る気がした。


 もうすでに君のことは好きだった。でも、こんな心地いい関係が壊れるのも嫌だった。

 漫画の中の主人公は勇気を出して思いを伝えるけど、私にそんな勇気はない。

 もし、君が私のことを嫌いになったら?付き合えたとしてもそのあとは?別れた後、また友達に戻るなんてありえない。大体が他人になる。そんなのは嫌だった。


 高校生になって、君が意外とモテることを知った。中学まではあまりそんな噂は聞かなかったのに。


 いつもの君との電話の時間。君は今日起こったことを面白おかしく話してくれる。

 今日は、友達とどこどこに遊びに行ったんだ。とか。

 今日のテスト全然できた気がしないよ。とか。


 君と恋バナをするときなんて、私が彼氏できたときしかなかったから、ちょっと不安だった。

 君は彼女ができたら報告してくれると思うけど。それでも、自分から聞くのは気が引けた。もしそれで、彼女いるよって言われたら、立ち直れない気がした。


 久しぶりに遊びに行こうと君から誘われた。最後に二人で遊んだのはいつだったっけ。いつの間にか君とはスマホでしか話さなくなっていたんだと思った。


 前日は全然眠れなかった。二人で出かけるなんてデートみたいだし、ちょっとだけ期待した。どんなところに行こうかな。どんな話をしようかな。君はどんな格好をしてくるだろうか。


 少し待ち合わせの時間よりも早めに着く。君はまだ来ていなかった。周りは結構な混雑具合で、君を見つけられるか不安だった。

 でも、そんな不安はかき消された。一瞬で駅から出てくる君を見つける。ちょっと緊張してきた自分がいる。いつもそんな緊張なんてしないのに。


 君はもう行く場所を決めていたようで、僕についてきてくれれば大丈夫と言って、歩き始める。


 到着場所は海に近い公園。風が心地いい。潮のにおいがかすかにして、緑が揺れる。今日の天気は快晴で、日差しも気持ちよかった。

 公園の中の散歩道を少し歩いて、ベンチで話をする。

 相変わらず君の話は面白くて、聞き飽きない。


 楽しかった。幸せだった。この時間が終わってほしくないと思った。それと同時に、この幸せな時間を、君との一緒にいられる時間をほかの誰にも知られたくないと思った。

 最低だ。君に気持ちを伝える勇気はないのに、そんなことを思ってしまう。


 幸せな時間はあっという間に過ぎていく。日が落ちてきて、あたりは薄暗くなっていた。私はまだ帰りたくないと思ったけど、君はそろそろ帰ろうかと言って立ち上がる。


 街の明かりがキラキラと光ってきれいだ。その中を私たちは二人で駅へ向かって歩く。君は何とも思わないのかな。でも、そんなものは私のわがままで。帰りたくないといっても君を困らせるだけだとわかっているし、彼女でもない私がそんなこと言ってもいい権利なんてない。

 でもちょっとだけなら。そうこれからこんなことはしないから。少しだけ君を困らせてもいいだろうか。


 少し先に歩いている君の服の袖をつかむ。君は驚いた顔で振り向いて、

 ―どうしたの。

と言う。いつも私の気持ちは気付いてくれるのに、こういうときだけ通じないのがもどかしい。


 でも、やっぱりこんなことしない方がよかったんだ。


 突如鳴るブレーキ音。私たちは道路寄りに立っていた。もう少し、違う場所に立っていれば。もう少し早く車に気づけていたら。私がこんなことしなければ。

 幸せな時間のまま終わっていたのかもしれない。


 もしも、私がもっと早く君に気持ちを伝えていれば。こんなことにはならなかったのかもしれない。いや、そもそも君に出会わなければよかったのかもしれない。


 

 もしも。戻れるなら。もしも。過去を取り戻せるなら。

 この伝えられない恋を。もう、だれに伝えることもできない気持ちを。君に言うから。



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