君。
Scent of moon
僕
君と出会ったのは小学校の入学式。
隣の人と手をつないで体育館に入場するとき、隣にいたのが君だった。
緊張してたからかわからないけど、あの時の記憶は鮮明に覚えてる。
出席番号が近かった僕と君は、話す機会も多くて、すぐに仲良くなった。男女だからとか関係なく、ずっと一緒にしゃべっていた。
でも君は誰にでも優しくて、すぐに仲良くなっちゃうから。周りには人がいっぱいいて。ちょっとうらやましかったなあ。
小学校を卒業して、中学校に入ると、自然と君との距離は離れていった。
思春期だから。みんなが色恋に敏感になっているとき。僕たちが話していると、すぐに変な噂が広まる。楽しい時間がぎくしゃくした時間に早変わりしてしまうのは嫌だった。それでも、スマホで毎日連絡して、他愛のない話題を何時間も話すのが楽しかったなあ。
でも、僕は友達にしかなれなくて。
君に彼氏ができた時、すごく悲しかった。ああ、なんかいやだなって思って。そこではじめて君が好きなんだって自覚した。
その時からは頑張った。髪の毛も、前は寝ぐせとか気にしなかったのに、朝早く起きてセットして。部活も全然やる気なかったけど、頑張ってレギュラー入りして。君にかっこいいと思ってもらえるように努力した。
そんな努力で君が振り向いてくれるなら。そんなことが起きたらなって思うと頑張れた。僕自身が成長できたのは君がいてくれたからだと思うんだ。
中学の卒業式。仲が良かった子と高校が離れてしまうひとが多くて泣いている子がたくさんいたけど、僕は全然悲しくなかったなあ。
もちろん、中学校生活が楽しくなかったわけじゃなくて。
楽しかった中学校生活よりも、高校でも君と一緒にいれるんだなあと楽しみな気持ちが勝ってしまったんだ。
あと、受験期の努力が報われたからかな。僕は全然頭がいいほうじゃなかったから、君に追いつけるように、部活に力を注いでいた分を全部勉強に傾ける勢いで筆を動かしてた。だからこそ、高校が決まって、君と同じ進学先だと知って、うれしかった気持ちのほうが強かった。
高校は中学と雰囲気が全然違った。みんな紳士だし、女子なんか、みんな優しい。
中学の時の女子って、気が強い人が多かったから、高校にいる女子と話してすごく驚いた。
中学でも君はモテていたほうだけど、高校になってからはすさまじかったよね。垢ぬけてすごくかわいくなって。前から可愛かったんだけど、もっときれいになった。
高校に入っても、相変わらずスマホでの連絡は続いていて。好きな人ができたら、僕に一番に報告してくれるようだった。うれしいけど、ちょっと悲しかったな。相談相手になることってなかなかに仲良くないと、なれないけどさ。
だから、仲いいと思ってくれてるんだなあと思う反面、やっぱり僕は、信用できる友達にしかなれないと気付いて、悲しくなった。
僕もじっとしているだけじゃ何も始まらないと思って、君を遊びに誘ったよね。小学校までは二人で遊ぶなんてざらにあった。でも、高校生になっても二人で遊んでもいいよって言ってくれる君に、うわあって何とも言えない気持ちになったよ。
胸がぎゅうってなる感じ。ちょっと息がしずらくなるけど、いやな痛さじゃないんだ。その痛さを感じるたびに、ああ、好きだなあ、って思った。
いざ、当日。いつもより念入りに髪をセットして、服も前日から選んでたのを着て、忘れ物はない確認して家を出た。
電車で待ち合わせの駅まで向かう。
待ち合わせ場所にはもう君がいて、ここだよと手を振ってくれる。
人ごみの中でも一瞬で君を見つけられる自分は重症だなと思いながらちょっと小走りで君のもとへ向かうと、微笑みながら君は待っていた。
花柄のワンピース。少しヒールの高いサンダルを履いて、手には小さなバック。似合ってるよとは、恥ずかしくて口に出して言えないけれど、正直、とんでもなく似合ってた。
念入りにどこに行くか計画を立てていたおかげで、すごく君が喜んでくれている顔を見れた。おしゃべりの話題は尽きなかったし、何しろ、しあわせだった。
でも、やっぱり、幸せはすぐに終わってしまうんだなって。神様はひどいことをするんだ。
近くで鳴る、ブレーキ音。耳が壊れるかと思うくらいの音が僕に近づいてくる。僕の目線の先には君がいて。こんなときにも僕は君のことを考えてしまうんだ。
ごめんね。楽しい思い出にできたらなと思っていたのに。
ごめんね。こんないなくなり方をしたら、僕との思い出はつらいものになっちゃうよね。
でも。僕はひどい奴だから。君の思い出の中に、僕というやつがいたんだって覚えておいてほしいな。
君の一番にはなれなかったけど。それでも、君と一緒にいれる時間が幸せだった。
もう誰にも言えることはないけれど。それでも、君に言いたかった。
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