第八集 連合瓦解
酒宴の後、
そうした様子を伝え聞いた
そこから更に数日間、
そんな中で役人たちは、またも州府で酒宴を開いている。小恬にも誘いの声がかかったが、体調が悪いと言って断っていた。
何よりも慕容廆自身は石勒とは違い晋朝に服属している。漢人の貴族である裴嶷も参謀についている。裴嶷の口利きで晋朝から正当な統治権を得る事も決して不可能ではない。
或いは平州も慕容廆に委ねてしまった方が長期的には民衆の生活も安定していくのではないだろうか。
一方で、崔毖に対する同情があった事も事実だ。文化人としての評価もしていた。だが統治者としてはやはり小人。慕容廆の方が遥かに器は上である。小恬の中でそんな評価が固まりつつあった。
さて、そんな中、昌黎で動きがあった。
棘城を包囲している三部族連合の足並みが崩れ、
慕容部を滅ぼした後に昌黎の土地を割譲する。崔毖はそういう形で三部族に話を持ち掛けていたのが実情である。利をチラつかせて人を動かすという事である。
しかし三部族の熱量には最初から差があった。
恐らく交渉が通じないのは
さて段部への使者に立った慕容皝。段夫人との子が産まれた事を報告して情に訴えるだけならば簡単であったが、この時に段部の首長であった
段部はもともと
それが劉琨や王浚が亡くなってからというもの、段部の中で継承権争いが起こって分裂状態になり、石勒の北方進出を許してしまっている状態にあったわけだ。
そんな分裂状態を制したのは、石勒と旧縁のある段末波であり、自身の兄弟、叔父、従兄弟を
そんな交渉の席で慕容皝は、この時点ではまだ情報が確定していなかった崔毖による裏工作を、とっくに知っていると匂わせた。
平州刺史と密約をしておきながら裏で石勒とも繋がっている二股外交は、既に崔毖の側にも伝わっていると大きなハッタリを打つ事で段末波の疑心を煽った。
口籠った段末波に対して慕容皝は追い打ちをかけるように、そのような者は、宇文部も、崔毖も、そして石勒も、誰も信用しないと喝破したのである。
そこで慕容皝は笑みを浮かべ、自分と段夫人との間に子が産まれた事を最後に付け加えた。段夫人は、首長継承の為に段末波が殺害した叔父の娘にあたる。
もしも段部が滅びても、我が子が段部を継承してくれるだろうと、遠回しな挑発行為とも取れる事を笑顔で言い放ったわけである。
慕容皝が帰った後の段末波は、このまま連合に参加しても孤立を深めるだけではないかと疑心暗鬼に陥った。まさに慕容皝の術中に嵌ってしまったわけである。
崔毖か、石勒か……。立場をはっきりとさせておかねば自身の将来は無いと思い至った段末波は、当然のように石勒を選び、崔毖との密約は捨てる事を選んだのである。
そして一方の高句麗であるが、こちらは本国から離れた遠征軍であり、勝った所で遠隔地の領土を得るだけ。しかも段部、宇文部は、敵である慕容部と同じ言語を話す
平州刺史からの使者が宇文部に向かった、或いは段部に向かった、そうした情報を、裴嶷は密偵を使って流し、高句麗軍の情報を混乱させた。
そして慕容部からの使者である慕容皝が交渉の為に段部の陣営に赴く姿を、高句麗の斥候たちが実際に見た事が決め手となった。
他の連中は敵味方を問わずに使者が行き来しているが、自分たちの所には誰からも連絡が来ない。そんな中で自分たちだけ言語が違うとなれば、疑心暗鬼にもなるという物だ。
利用されるだけ利用されて、結局は遠隔地の領土を後に取られてしまえば何も得る物などない。高句麗軍はこのまま連合に参加しても損をする事はあれど、益にはならないと断じたのである。
こうして、初めから明確に慕容部と対立し、また昌黎郡と領地が直接隣接している事で積極的に棘城を攻めている宇文部を残し、段部と高句麗は兵を引き上げていったというわけである。
そうした昌黎での断片的な情報を聞いた小恬は、平州の情勢は慕容廆に傾いた事を悟り、暁鹿と共に昌黎に戻る事を選択したのであった。
「やっぱりこれは
「ありがとう。大人に代わって礼を言う」
小恬の言葉に、穏やかな笑みを浮かべてそう答えた暁鹿。
ある日突如として現れ城兵を混乱させ、同時に多くの役人たちに感銘を与え、そして痕跡を残さず、まるで神隠しのように忽然とその姿を消した謎の令嬢。
この後の襄平では、その噂で持ちきりになったのであるが、もはや戻る気のない小恬にとって知る事のない話である。
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