第11話 ジエンド山田

 俺は拳を握り、文字通り高”火力”の敵と相対した。

 これまでの奴の発言。実際一言二言程度しかまだ話していないものの、かなり好戦的であり闘いでは横槍の入らない一対一というシチュエーションがお好みのようだ。


「ほう…徒手空拳か?メラヒポのくせに、なかなか粋なことをするではないか。お前がそうするのであれば、こちらも応えねばなるまい」


 ハイエルフはそう言うと、まず刃こぼれが酷い両手に持った剣の柄尻についた紐を切り落とした。そして2本の剣を地面へ投げ突き立てる。

「ガリァァッ!(火焔)」

 奴はそのまま両掌を突き出し、また火焔を放った。先程までの放射状に広がる炎ではない、球状のもの。火球は恐ろしい速さで俺の正面に迫る。俺はなんとか身体を右斜めへ側転させながら回避する。

 地面に手が触れた瞬間に手頃な石礫を掴み、身体が回転し終わると同時に奴へ向かって投擲―。


「つまらん、その程度か?」

 ハイエルフは難なく右手手甲の付いた部分でソレを防ぎ、手首を返しながら俺に向かって右手人差指と親指でデコピンのように大気を弾く。

 途端に響く炸裂音―。


「ウッ!」

 俺は痛みを感じ左肩を押さえた。手を痛みのする部分に当ててみる。

 ジュッと音がしそうな程発熱した患部。深さは分からないが、パチンコ玉大の穴が空いている。

「クソっ…やはり炎か」

 患部は焼き付いているため出血はないが、左手は動かせそうにない。

 たまらず片膝をつく。喉の裂傷のせいで血を失いすぎた…意識を保つのがやっとだ。


 ハイエルフはニヤリと笑いながら、さて”ネタばらし”とばかりに俺に話かけてくる。

「ご名答…そいつはガリァ(火焔)を爪先から弾く技だ。てっきり拳どうしでの拳闘を所望しているのかと思ったら、そうではなさそうなのでなぁ。」


「お前はここで殺す…」

 先刻の受傷に加え、ぷわふもによる身体強化も限界のようだ。

 満身創痍の俺は声帯から一言分の声を絞り出した。

「ヒトを殺してまわる輩は絶対に赦さん…」


「アァ?貴様、さっきから戦士の闘いを愚弄しているのか?ツブテなど投げおってからに!ヒト…メラヒポのことだろうが、貴様らは俺たちにとって強壮剤の素材に過ぎん。そのクスリも村のジジババ共はありがたがって飲んでいるが、俺は飲むどころか一滴も口にしたことがない。迷信に惑わされ、膂力やアタマもなければ、術もまともに使えん情報弱者たちが最後に頼るのがお前たちメラヒポの煎じ薬だ。最も若い連中も狩りに興じておるし、メラヒポを嬲るのが愉しくて仕方ないんだろうな。俺にはサッパリわからんが…おい?聞いているのか?メラヒポ…」


「話がなげぇよ…」

 俺はそう思いながら、身体が倒れ込み意識が遠のいていくのを感じた。この短い期間で何回死の危機に直面すればいいのだ…。まぁ敵の本拠地を攻めた時点でこうなる可能性は大だったが…。


「プレガリァベルェ…(大灰燼…)」

 突然しわがれた声が響く。


「ん?新手か?」

 ハイエルフが周囲を見渡す。

 途端に地面から蒸気が噴出し、周囲をもやが多い尽くす。

「クソッ!ガリァァッ!ガリァッ!ガリァッ!」

 視界が遮られイラついているのか、ボォッ!と奴がやたらめったら炎を飛ばす音が聞こえる。

 その音を聞きながら、俺は意識を失った。









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