第12話 レジェンド山田

「うう…はっ!」

 意識を失っていたのか、俺は目を開けると3秒ほどで身体のエンジンスターター(単なる自己暗示)により飛び起き、首はね起きをして辺りを見回した。


「おっ!目を覚まされましたぞ!村長ムラオサ!」

「おお…お目覚めですかな、客人殿まろうどどの

 俺を”まろうど”と呼ぶのは、俺を囲む10ほどの影のうちのひとつ。そいつの耳は…おお、普通のヒトと同じようだな。

 ひとまず俺は胸をなでおろす。だが、エルフでないからといって安心はできない。

 人間の野盗・賊の類である可能性もあるからだ。


 俺は彼らを睨みつけながら同時に左腰を探り、エルフから鹵獲した短剣を帯びていることを確認する。

 すぐさま剣を抜き、JNDF創設時代に叩き込まれた國体術の構え縁鞘へりざやをとる。右手で剣を逆手持ち、剣の峰を前腕外縁部に接するように手首を曲げる。まるで旋棍トンファーを扱うときのような握り。

 これは主に守勢で用いられる型である。これにより前腕部の守りを固め、刀剣類を払受けなどで防ぐのだ。


 俺が戦闘姿勢を取る間も、そして今も彼らはにっこりとした笑みを崩さない。また武器の類も装備していないようだ。

 この自然の中にあって、それはとても普通の人間とは思えない。ちょうど平和な時代に俺が住んでいたマンションに来ていた、聖なる教えの伝道者として勧誘をしてくる輩のようで非常に気味が悪い。(その伝道者とは対照的に、マンションに来る日本国営放送の徴税人どもは図々しい人間ばかりだったが…)


 しかし表面上であっても友好的な様子なので、武器を構えたまま話をしてみる。

「ここは一体どこだ…」

「ええ、ここはメラヒポ(ヒト)の村”ヒィナ村”です。奴らと闘っていた貴方を勝手ながら、招かせていただきましたよ」

 ”村長”と呼ばれていた人物は朗らかに応える。

 蓄えられた白い髭は彼のへそに届くほど長い。身にまとっている衣は元々白いものだったのだろうか、生地はなめらかで着心地は良さそうだが、裾の部分は擦り切れ全体的に少し灰色がかっていた。


 周りの男たちは村の衆、といった感じで衣服は村長のものより繊維の目が粗く、あまり肌に優しいものを身に着けている様子ではなかった。

 皆一様に端正な顔つきであり、鼻梁はすっきり通っていて高い。目も二重の者が多く、はなしが”ぷわふも”によって翻訳されていることもあり、ぱっと見は日本に住んで10年以上の明るい外国人といった感じだ。


 俺は直感的に、この人間たちはたしかに気味は悪いが自分に悪感情を抱いていないことを察した。


「ああ…助けていただいたんですね」

 俺はそう言いながら武器を一旦おさめる。

 無論、いざとなればすぐに戦闘態勢に入れるように意識をしたままだ。


「いえいえ、助けたといってもあなたを運んだだけですがね」

 村長はそう言うと、笑いながらこめかみをポリポリと掻いた。


「あの闘いっぷり、すんばらしかったですぞ!村の若いのが森で行方知れずになったもので、男衆で探していたところ大きな音がして近づいてみたらまぁビックリ!奴と闘うメラヒポがいるではないか!それからしばらく遠間から見ておりましてな。とても同じメラヒポとは思えない動き、やはり只者ではない。ここ数日奴らを殺して回る者がいるとの噂が広まっていたこともあり、もしや伝説のメラヒポ戦士かと思って様子をじ~っと見ておったら、貴方が”すわ殺されて”しまうっと…そう思われたので少し加勢した次第ですぞ。」


「音…ああなるほど対ハイエルフ戦闘時のですね…あとは加勢?していただいたのですね?ありがとうございます」

 しばらく村長の早口気味な長話を素直に聞いていた俺だが、その中で出てきたワードに堪えきれず疑問を呈する。


「村長は”煙の秘術”が使えるんですよ」

 男衆の一人がそう口を開いた。

「昔奴らに捕まって”飼われていた”ことがありましてな、奴らの家族に交じって生活していたところ、なんやかんやで煙の秘術だけ習得することが出来たのですよ」


「あれが煙の秘術…なるほど」

 秘術、つまり魔法のことだろう。俺は意識を失う前と、ハイエルフとの闘いの最中にエルフ戦士たちが戦線離脱したときの二回、その煙を発生させる魔法をみている。

 意識を失う前ものはこの爺が発生させたものだったのか。

 エルフの魔法を使えるこの好々爺こうこうや…只者ではないな。

 俺は下を向きながら、そのようなことを考えていた。


「ところで貴方…お名前は?」

 村長は俯いた俺にそう問いかけた。

「あっ…山田です、ヤ・マ・ダ」


 案の定、村長と男衆は聞きなれない音に少し困惑したようだった。

「おっ、おお…ヤ・マ・ダ様、ヤマダ様ですな…ヤマダ様、是非とも今日は我らの村に寄っていかれませぬか?先に人をやって宴の準備を整えておりますゆえ」


「えっよろしいんですか?」

 俺は食い気味に応える。まさか…村に迎えてくれるとは願ってもない話だ。

 うまくいけば、今日は上等な寝床にありつけるかもしれない。


「なぁに、あまりもてなせるようなモノもありませんが、奴らと互角に戦える方をお招き出来るとあっては宴を催さねばならんでしょう?」

 村長はそういいながら、また大きく口を開けながら笑った。





 ※JNDF:Japan National-Defense Forcesの略。山田が所属しているとしているレジスタンス組織。詳細は今後描写されるだろう。


 ※國体術:JNDF時代に山田が習得したとされる武術。空手・柔道・合気道や躰道など多くの武術を取り入れたマーシャルアーツだと山田は”自称”している。




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