第23話 ファッションショー

「ようやく着きましたね」

「久しぶりに来たけどやっぱり大きいよな」


 バスに乗って、約30分。

 ようやく、ショッピングモールに着くことができた。

 バスの中では、学校の話や、趣味の話で、何とか乗り越えることができた。

 やっぱり、夏凪さんと会話をするのは楽しい。

 

(こういう会話のやり取りも練習したんだろうな……)


 夏凪さんは、いつも俺のことを気にかけて会話をしてくれる。

 世の中には、自分のことしか話さない人が結構居ると聞く。

 でも、夏凪さんは俺のことを気にかけてくれるから、凄く話しやすい。


(こういうのも、夏凪さんから学ばないとな……)


 夏凪さんから、学ぶことばかりだ。


 それはさておき。

 予定では、俺の服を先に、夏凪さんが選んでくれるらしい。

 自分は、服のセンスが全くと言っていいほど無い。

 だから、今日、夏凪さんから服の選び方を学ぶのだ。


「それじゃあ、行きましょうか」

「おう」


 ◆


「めっちゃ服あるな……」

「まぁ、服屋ですからね」


 俺と夏凪さんが来たところは、『UNIKURO』という服屋。

 このお店は、財布に優しく、品質も良い。

 学生にとって、ありがたい服屋であることは間違いないだろう。


「さて、色々と見てみましょうか」


 夏凪さんと、様々な服を見て回る。

 服が多いと、何を着ればいいかわからない。


「んー、これとか良さそうですね」


 困惑している俺と違い、夏凪さんはテキパキと選んでいく。


「夏凪さん、なんでそんな簡単に選べるの?」

「そうですね……雪下くんのスタイルが良いから、ですかね?」


 何も参考にならなかった。

 仮に、自分のスタイルが良かったとしても、それを自分の力で活かせるかと言われると難しい。

 やっぱり、夏凪さんに頼るしか無いんだろうか。


(いやいや、それじゃあだめでしょ)


 少しずつ夏凪さんに依存してるな。と考えていると、


「それじゃあ、これ着てみましょうか」


 と、夏凪さんが服を持ってきた。

 見た感じ、10着はありそうだ。


「流石に多すぎじゃないか?」

「そうですかね? 全部雪下くんにあると思ったんですけど」


 夏凪さんは、俺のために選んでくれたんだ。

 断るわけにもいかない。


「じゃあ、着てくるよ」

「はい、行ってらっしゃい」


 こうして、雪下関の、ファッションショー(?)が始まってしまった。



「その服も似合いますね……」

「そうか?」

「こっちも似合いますね……」

「似合うの多すぎじゃないか?」

「雪下くんは何でも合いますね」


 夏凪さんに褒められるのは嬉しいが、ちょと恥ずかしい。

 何を着ても、「似合いますね」と言ってくれる。

 お世辞を言ってることはわかるが、ここは一応公共の場だ。

 この会話が色々な人に聞かれているとなると、ちょっと恥ずかしいと思ってしまう。


 ……まぁ、夏凪さんはそんなこと考えていないだろうけど。


「……とりあえず、全部買いましょうか」


 全部、買う?

 あれから、夏凪さんが「これもいいよね」と言い出し、試着した服は約20着。

 それを全部買うとなると、どんな金額になるのだろうか……?

 まず第一に、そんなに買えるお金を持っていない。


「いや、夏凪さん、おれ、そんな買えるお金持ってきてないんだけど……?」

「いや、わたしが買うんで心配無用です」


 最近忘れていたけど、夏凪さんって、豪邸に住めるほど裕福な家庭だった。

 そんな家庭だったら、多分、服の20着ぐらい買えるのかもしれないが、流石に払ってもらうわけにもいかない。


「いや、流石に払ってもらうわけには……」

「いいんです。いつもお世話になっているので」


 お世話になっているのは自分のほうだ。

 夏凪さんがそんな「いつもお世話になっているので」なんて言うべきではない。


「いや、お世話になっているのは俺の方だから」

「いえ、そんなことないです」


 ここまで意地っ張りになってしまうと、夏凪さんを止めることができないのは、最近一緒に過ごしてきてわかった。

 夏凪さんが納得してくれるような方法、何か無いだろうか?


 ……今思い返せば、なんでそんな方法を提案をしたのか、訳が分からない。

 俺が出した方法とは───


「じゃあ、俺が夏凪さんの服を選ぶよ」


 ◆


 夏凪さんと来たお店は、『L&L』というお店。

 『UNIKURO』とは少し違い、女子が着るような服しか置いていないのが特徴だ。


「やっぱ可愛いの多いですねー」


 夏凪さんは、ふとそんなこと言い始める。

 初めてこのお店に着たが、確かに可愛い服は多い。

 周りを見渡してみると、やはり、女性の方が多い。

 このお店は、男性が来るようなところではない。


「雪下くん? 緊張してません?」


 やっぱり、夏凪さんには全て見透かされてしまう。

 ───一応、俺も男だ。

 夏凪さんに「ごめん、ちょっと俺ここで待っているわ」なんて言えるわけがない。

 言ってしまったものは仕方ない。

 俺が、夏凪さんの服を選ばないと行けないのだ。

 逃げ出してどうする。


「大丈夫だよ」


 しっかりしろ、俺。


「それじゃ、わたしに合う服、選んでくださいね?」


 こうして、夏凪さんのファッションショーが始まった。



「選び終えました?」

「あぁ、一応」


 ひとまず、夏凪さんに似合いそうな服を5着持ってきた。

 個人的に、夏凪さんが着そうな服を選んだつもりだ。

 どの服も、水色をメインとした服装にしてみたが、夏凪さんの機嫌を損ねたりしないだろうか。


(もっとセンスがあればなぁ……)


 センスがあれば、こんなに悩まなくて済むのに。

 ……まぁ、今更後悔しても遅い。

 とりあえず、夏凪さんに見せてみよう。


「えっと、どうかな?」

「……普通にセンスありますね……」


 その言葉が、お世辞じゃないと良いんだが。


「とりあえず、着替えてくるね」


 そう言って、夏凪さんは試着室に入っていった。


 試着室に入ってから数分後。


「えっと、どうでしょうか?」


 無事、着替え終わった夏凪さんが、ようやく出てきた。

 選んだ服を着てくれた夏凪さんを見ると、思わず、


「可愛い……」


 そんな言葉が漏れてしまった。


「そ、そんなことないですよ」


 言ってしまったなら仕方ない。

 自分だったら、来ている服を褒められたら嬉しい。

 夏凪さんも、きっと同じ気持ちのはず。

 ……多分。

 「可愛い」なんて言ってしまったからには、しっかりと褒めよう。


「そんなことないよ。本当に夏凪さんは可愛い」

「それは、わたしが可愛いわけじゃなくて、服が可愛いんですよ」

「ううん、そんなことないよ」


 なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

 夏凪さんが可愛いからって、少し興奮しすぎだ。


「……わたし、これ買おうかな」

「それは俺が払うよ」

「……まぁ、約束なんで、お願いしますね」


 そう言うと、夏凪さんはまた試着室に戻って、元の服装に着替え始めた。


「雪下くん、こんな服が好き、なんですね」


 そんな声が俺の耳に入ってくることは無く、淡々と夏凪さんを待った──。


 

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