第22話 下準備

 翌日。

 今日は夏凪さんと買い物に行く日だ。

 もちろん、俺は女子と買い物なんて一度もしたことがない。

 俺も、一応健全な男子高校生。

 女子と買い物というのに、少し期待してしまっている自分が少し情けない。


(やっぱ服装はしっかりとしたほうが良いよな……)


 こんなこと本人には、恥ずかしくて言えないが、夏凪さんは可愛い。

 そんな人の隣を歩くのだ。恥ずかしくないような服装をしないとだめだろう。


(でも、俺、そんないい感じの服持ってたっけな?)


 ……持っていなかった気がする。

 自分は、今まで服装を気にしたことがなかった。

 今から買いに行っても、もう間に合わない。

 どうしようか……?


 そんなことを考えていた時、


 ──ピーンーポーン


 呼び鈴が鳴り始めた。

 ……一体誰が鳴らしたのだろうか。

 想像がつかない。

 もしかして、セールスマンってやつだろうか?

 とりあえず、出てみるしか無い。


 ───ガチャ。


「どちら様でしょう……って夏凪さん?」


 家にやってきたのは夏凪さん。

 夏凪さんが俺の家を訪ねてくるのは珍しい。

 何かあったのだろうか?


「あ、雪下くん……これ、タッパーです。

 流石に、買い物中に渡すわけにもいかないので……」

「あぁ、なるほど」


 どうやら、夏凪さんはタッパーを返しに来てくれたらしい。

 確かに、買い物中にタッパーを貰っても困るだけだろう。


「ありがとう、夏凪さん」


 そうお礼を言い、タッパーを受け取る。


「そういえば、何か悩んでいるような感じでしたが、何かありました?」


 ……夏凪さんに、着ていく服がない。と言ったほうがいいのだろうか。

 夏凪さんは、誰が見てもスタイルが良く、服のセンスが良い。

 そんな夏凪さんに、「着ていく服がない」と相談したら、「高校生にもなって、自分に合う服が分からないの?(笑)かっこわら」なんて言われないだろうか。


(……夏凪さんはそんなことを言わないか)


 まだ、夏凪さんと友達になってから、そんなに経ってないが、夏凪さんがそんなことを言わないことは断言できる。

 友達を信用してみよう。


「笑わないで聴いてほしいんだけど…、夏凪さんと買い物に行くための服が無くて、どうしようかなーと」

「それは、自分に合う服が無いってことですかね?」

「うん、何を着るなんて気にしていなかったからさ」

「あー、そういうことですか」

「その、夏凪さんと買い物に行くなら、それに見合った服装にしようと思ったんだけど……ごめん」

「……じゃあ、雪下くんに合う服も、今日買いましょうか」

「……え?」

「だって、雪下くん、スタイル良いですし、顔だって整っているんですから、自分に合う服を着れば、絶対カッコよくなると思いますけどね……」


 夏凪さんが天使に見えてきた。

 本当に、夏凪さんは優しすぎる。

 こんな提案、了承しないほうがおかしいだろう。


「じゃあ、夏凪さん、今日は俺の服も選んでくれると、嬉しいです」

「任せてください」


 夏凪さんに服を選んでもらうことになった。

 自分じゃ、絶対に何を買えばいいか分からなくなるため、本当にありがたい限りだ。


「じゃあ、また後で」

「はい、また後でよろしくお願いしますね」


 夏凪さんの役に立てるように、頑張ろう。

 後、1時間半も時間がある。

 しっかりと準備して、夏凪さんに買い物を楽しんでもらおう。


 ◆


「すみません、ちょっと遅れました」

「ううん、俺もいま来たばかりだから大丈夫だよ」


 とうとう待ち合わせの時間になってしまった。

 集合場所はエントランス。

 自分は一応、集合時間10分前に来ることができた。

 夏凪さんを待たせるわけにはいかないからな。


「えっと、どこ行こうか」

「今日は、バスでショッピングモールに行こうと思ってますが、それでいいですかね?」

「それで大丈夫だよ」


 ショッピングモールに出かけるなんて、いつぶりだろうか。

 小学校低学年の時に行った記憶があるが、それ以来全然行けていなかった。

 

(久しぶりにショッピングモール行くのかと思ったら、まさか女子と行くことになるなんて……)


 しかも、めっちゃ可愛い女子と行くんだろ?

 ほんの数ヶ月前までは、こんなことになるとは思わなかった。

 一体、神様は何をしたいのか。


「とりあえず行こうか」

「そうですね。行きましょう」


 幸い、バス停が近くにあるため、そこまで歩かなくてもいいのはありがたかった。


「デート……」

「……ん? どうした?」

「……なんでもないですよ」


 夏凪さんが、何か言いたげな顔をしていたが、本人が「なんでもない」と言っているのなら、無理に聞く必要はないだろう。

 今日は一体、どんな日になるのだろうか───。

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