第19話 デミグラスハンバーグ

 夏凪さんと図書館に来てから数時間。

 ようやく集中して勉強することができた。

 あんなことがあってからか、少し勉強に集中できない時間が続いてしまった。

 しかも厄介なのが、だ。

 原因さえ分かれば、自分も何かしらの対処をするが、原因が分からなければ行動できない。


(まぁ、気にする必要はないか……)


 今はそんなことより勉強だ。

 夏凪さんに勝つためにも、これ以上時間を潰す訳にはいかない。

 だが、時刻を確認してみるともう13時。

 腹が減っては戦はできぬなんて言うし、そろそろ昼飯にしたほうがいいだろう。


「夏凪さん、そろそろ昼食食べない?」

「そうですね……そろそろ昼食にしましょうか」


 流石に家に帰ってから作り始めるのは、あまりにも時間がかかりすぎる。

 こんな時こそ外食を使うべきだろう。

 外食と言っても、何を食べようか。

 自分は何でもいいが、問題なのは夏凪さんだ。

 まぁ、自分だけで決めるのは難しい。夏凪さんと相談するのが一番だ。


「今日は外食にしようと思うんだけど、何がいいかな?」

「わたしは何でも良いんですが……お任せ、される困りますよね……」


 夏凪さんは考えるような仕草をしはじめる。

 一体、夏凪さんは何を食べたいと言い出すのだろうか。

 ここで夏凪さんが何を選ぶかによって、今後の料理の参考にもなるだろう。


(夏凪さんが選びそうなもの……)


 やはりここは定番のパスタ系だろうか。

 もしかしたらラーメンも来るかもしれない。

 ……やっぱり、夏凪さんが何を選ぶのか全く想像がつかない。


「そうですね……なら、ハンバーグでも食べません?」


 こうして、今日の昼食はハンバーグになった。


 ◆


 ───カランカラン


 俺と夏凪さんが来た店は、誰もが知っているような某チェーン店。

 やっぱり、チェーン店は美味しいわりに安くて財布に優しい。


「いらっしゃいませー、お二人でよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」


 俺と夏凪さんは言われた通りの席に座らせてもらう。


「ごゆっくり~」


 そう店員さんは言いながら、水を置いて去っていった。

 さて、何を頼もうか。


「夏凪さんは何のハンバーグを食べる?」

「チーズ、デミグラス、色々あって悩んでしまいますね……」

「この種類の多さがチェーン店の魅力だよな」

「そうなんですけどね」


 結局、夏凪さんが選んだのはデミグラスハンバーグ。

 なら、自分もデミグラスハンバーグにしよう。

 今後、ハンバーグを作るときの参考にもしたいからな。


「じゃあ俺もデミグラスハンバーグにしようかな」

「なんですか? もしかして……わたしの真似ですか?」

「いや、そんなことはないよ」


 まぁ、考え方を少し変えれば真似になるのかもしれないが。今回ばかりは許してほしい。

 そう考えながら、近くにあった呼び出しベルを押す。


「ご注文はお決まりになりましたか?」

「あっ、デミグラスハンバーグ2個お願いします」

「以上でよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 そう店員さんに伝えながら、夏凪さんの方をチラッと見てみる。


「……これも美味しそうですね……」


 やっぱチェーン店の料理は美味しいからな。

 色々食べたくなってしまうのも仕方ない。

 ここは、男として「奢ってあげるよ」とでも言うべきなのだろうか。

 でも、それは彼氏が言うことなのでは?

 勝手に彼氏面して変に思われないだろうか。

 そんな不安が頭を遮る。


「……帰ったら、雪下くんが作ってくれたスイーツ食べれですかね……。

 やっぱり、雪下くんの方が美味しいですから」


 なんてことを小声で言っていた。

 おそらく、夏凪さんは俺に聞こえないように小声で言ったのだと思うが、残念ながら聞こえてしまっている。

 ちょっと可哀想だが、今の言葉は心にそっと保存しておこう。

 帰ったら、とびっきり美味しいデザートを作らなくちゃな。


 ◆


「デミグラスハンバーグ、2つお持ちしましたよ」


 遂にやってきたデミグラスハンバーグ。

 流石はデミグラスハンバーグというところか。

 濃厚なソースの匂いが二人の食欲を上昇させてくれる。


「ごゆっくり~」


 店員さんが去っていくのを横目に、置いてあったフォークとナイフを取り出す。


「夏凪さん、これ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、食べようか」

「そうですね」

「「いただきます」」


 いつも通りの言葉を交わし合い、デミグラスハンバーグを一口、口の中に入れる。


「おぉ……」


 思わず声が出てしまうほど美味しかった。

 しっかりとした味わいを持つソース。

 そしてそんなソースに合うようなお肉。

 流石はチェーン店だなと改めて関心してしまう。


「……美味しい」


 どうやら夏凪さんもお気に召したようで、本当によかった。

 たまには外食もいいものだな。


「でもやっぱりこれも食べたいですね……」


 この食欲はちょっと困るけどな……。


 ◆


 食後。

 このまま図書館へ戻ってもいいが、「そういえば、あそこの図書館は人が多いんですよね、なのでちょっと別のところが……」とのことで、夏凪さん家に戻って再度勉強をすることになった。


「本当にわたしの家で良いんですか?」

「うん、夏凪さんの家落ち着くし」

「多分、それは雪下くんが掃除してくれたからだと……」


 実際、夏凪さんの家は落ち着く。

 自分でもなんで落ち着くのかは分からない。

 夏凪さんの部屋が心地良いから。

 夏凪さんの笑顔を見るのが好きだから。

 夏凪さんとの関係が心地良いから───。

 こんな理由があるかもしれないが、確証はないと思う。

 だって、自分でも夏凪さんのことをどう思っているのか分からないんだから。


「まぁ、雪下くんがそう思ってくれるのならいいです。

 早く行きましょう」

「ちょっと、歩くの早いって」


 何故か歩くのが早くなった夏凪さんを追いかける。

 夏凪さんの隣を歩くというのは、ちょっと違和感を感じるが、不思議と嫌に感じない。


「今日の夕食楽しみにしていますからね?」

「期待に合うように頑張りますよ」


 まだこの関係は長く続きそうだ。

 この関係が一体どうなるかは分からないが、いい方向に傾けばいいのにな。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る