第16話 お嬢様と男子のロマン

 期末テストまで残り一週間。

 今日も今日とて、学校終わりの放課後に、夏凪さんの家で勉強をしていた。

 夏凪さんと同じ空間で勉強するのは、本当に居心地がいい。

 人と勉強するってのもあって、サボるという概念がなくなり、勉強がより一層捗ってしまう。

 お互い、分からないところは教えあって勉強しているため、自分で悩む必要が全くない。


「そろそろ夕ご飯にしません?」


 勉強を始めてから既に三時間が経とうとしていた。

 時刻は現在一九時。

 夕ご飯には丁度いい時間だろう。


「あぁ、そうだな」


 と簡単に了承する。

 勉強道具が入っているバックとは別のバックから、持ってきた夕ご飯を取り出す。

 今日の夕飯は、魚がメインだ。

 お米、サラダ、魚のムニエルが今日の夕食になっている。


「これ、お願いします」


 夏凪さんから、皿を受け取り、綺麗に盛り始める。

 もちろん、料理と盛り付けは紙一重と言われているぐらいなので、クラスメートよりは綺麗に盛れるだろう。

 ……もしかしたら夏凪さんの方が綺麗に盛れるかもしれないが。


「今日も美味しそうですね」


 そんな称賛の言葉を、夏凪さんは毎日言ってくれている。

 これは恥ずかしくて流石に言えないが、毎日くれる「美味しい」「美味しそうですね」という言葉が、俺の励みになっている。

 最近は、料理のレパートリーを増やそうと、裏で色々と模索しているため、今後また増えていくだろう。

 こんなことを夏凪さん本人に言ったら、「私のせいでお手数かけてすみません……」と言い出しそうだが。


「「いただきます」」


 いつもどおり、しっかりと感謝の気持ちを述べてから、箸を持ち食べ始める。


「……美味しいっ」


 夏凪さんが始めに口に入れたのは、魚のムニエルとお米。

 魚のムニエルは、下準備を結構丁寧に行ったため、美味しい自信はあったが、そんな喜び方をされると、思わずニヤけそうになってしまう。


 自分ではまだ味見をしていなかったため、魚のムニエルを口に入れてみる。


「確かに美味しいな」

「ですよねー」


 下準備をしっかりと行っておいたおかけか、以前一度作ってみたときよりも格段に美味しい。


(もしかして、俺、料理の腕上がってきてる、のか?)


 と自然に思うことが出来た。


 そんなことを考えながら、夏凪さんと今日学校であった話をする。

 俺と夏凪さんは、学校では必要なこと以外話さないようにしているため、学校での出来事を話すなら、このタイミングしかない。



「そういえば今日──」



 ◆



 夕ご飯を食べ始めてから約四十分が経とうとしていた。

 この四十分間、互いに話題が尽きること無く、テストの息抜きでお互い発散することが出来た。

 まだこの時間が続けばいいと、毎日のように思うが、テスト前ってこともあり、勉強をまた再開しないといけない。


「そろそろ再開しましょうか」


 そんな夏凪さんの言葉で、俺は再度勉強類を出そうと思ったが、そこで一つ問題点が生まれた。


「……ふぁあぁ」

「随分眠そうですね」


 俺に睡魔が襲ってきたのだ。

 最近まともに寝てない……ってのもあるかもしれないが、流石にこの眠気はやばすぎる。

 それを見かけた夏凪さんが、俺に心配そうな眼差しを向けて、


「だ、大丈夫ですか?」


 と心配されてしまう。

 きっと、夏凪さんに心配されしまうほど、自分の顔がひどいのだろう。


「どうしましょう? 少し寝ましょうか」

「いや、まだできる……」

「これ以上やっても意味ないです。寝ましょう」


 夏凪さんが、心配そうな顔をしているのが、目の隙間から見える。

 確かに、この状態で勉強をしても、絶対に頭に入らないだろう。

 今後のことも考えると、一回少し寝るのもいいのかもしれない。


「……じゃあ、少し寝る」

「はい、おやすみなさい」


 俺は夏凪さんの顔を、下から見ながら、深い眠りについた。


 ◆


 一体どれぐらい寝ていたのだろうか。

 寝る前と比べ物にならないぐらい、体調が良い。

 体感、まだ多くて二、三時間しか寝ていないはずなのに、八時間睡眠を取った時のような感じがする。

 一体、なんでだろうか?

 そんなことを、まだ意識がはっきりしていない中考えている時、ふと違和感に気づいた。


(なんか、頭が柔らかくね……?)


 枕とはどこか違う柔らかさを頭から感じる。

 一体、何の上に、頭が乗っかっているのだろうか。


「あ、起きましたね」


 そんな夏凪さんの声と同時に、目を開ける。

 夏凪さんが、俺の目の前に居た。

 意識が少しはっきりしてきた中、何が起きてるかなんて、頭を使わずとも理解できた。


(もしかして、夏凪さんの膝の上に乗ってる?)


 膝枕なんて、誰かにしてもらったことがないため、確証はないが、きっとそうだろう。

 流石に恥ずかしくなって、俺は飛び起きようとするが、


「だめですよ、まだ安静にしていてください」


 と、拒否されてしまった。

 夏凪さんの気持ちは分からなくはないが、膝枕は恥ずかしいので、今すぐやめてほしい。


「その、膝枕やめてもらっても……?」

「え、男子って、これで喜ぶって聞きましたけど……?」


 どうやら、夏凪さんが危ないことをしているという自覚がないらしい。

 確かに、夏凪さんの膝は柔らかく、気持ちいいし、疲れがしっかり取れる。

 実際、夏凪さんの膝で寝れたおかげか、体の調子がいい。


「まぁ、夏凪さんの膝枕は嬉しいけど……一応、俺って男子なんだけど?」

「……? 雪下くんが私に何かするんですか?」

「まぁ、何もしないけどさ」


 これは、夏凪さんが俺に向ける信用と言ってもいいのではないのだろうか。

 尊敬する夏凪さんからの信用──と考えると、胸が踊ってしまう。


「……じゃあ、このまま満喫させてもらおうかな」

「……喜んで」


 そこから先の会話は覚えていない。

 お互いがお互いを思いやり、良い雰囲気を作ったことだけは覚えてる。

 この関係が──この空間がずっと続けばいい。

 夏凪さんと一緒にいると、何故かそう思えた──。


 ◆


「結構時間経ってますね……」


 夏凪さんの膝で寝ていてから、数時間が経ってしまっていた。

 時刻は既に九時。

 いつもだったらもう帰ろうとしている時間だ。


「もうこんな時間だし、帰るしかないだろ」


 いつも帰宅してからは、お互い個人で勉強を始めている。

 だが、俺は基本的に、夏凪さんから教わったことの復習が、主にメインなので、帰って勉強しても、効率が悪いことは確かだろう。

 一体、どうするべきなのやら。


「まぁ、そうですけど……

 あ、今日家に泊まっていきます?」


 まさかの提案。

 多分、夏凪さんの提案も、俺を信用しているからだとは思うが、男女が同じ部屋で寝るのは、色々な意味で危ないのではないのだろうか。

 そんな不安を感じていた時、


「一回家に帰ってもらって、風呂とか済ませてから集合しましょう。

 明日は休日です。今日は寝れませんよ……」


 つまり夏凪さんが言いたいのは、夏凪さんの家で、寝ないで勉強しよう! ということだろう。

 お互いに寝ないのであれば、確かに安全かもしれないが、"お泊り"を簡単に提案してしまう夏凪さんが恐ろしい。

 かと言って、俺が断る理由もない。


「夏凪さんがいいなら、そうさせてもらおうかな」

「私は全然大丈夫ですよ」


 ということなので、夏凪さんの家に泊まることが決まってしまった。

 少し心配な気持ちもあるが、まぁ、大丈夫だろう──そう言い聞かせ、一度自分の部屋に戻った──。



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