第15話 テストとご褒美
◆
──期末テスト。
自分の努力が、可視化される行事。
今までは特に考えず、"最低限"の勉強をしたきたが、今回は違う。
夏凪さんに尊敬して──憧れたからこそ、俺も夏凪さんみたいになりたい。
そう思って勉強をしてきたが、やはり時間が立つのが早く、もう二週間前になっていた。
もちろん、以前の倍は勉強してきただろう。だから、以前よりいい順位になるのは自分でも分かっている。
──でも、これじゃあ夏凪さんには届かない。
なら、もっと勉強したらいいのでは? と疑問に思うだろう。
でも、これ以上詰めることができないのだ。
睡眠時間、入浴、様々な時間を少しでも削って勉強をした。
スキマ時間を少しでも作った。自分でも驚くほどに。
"努力"は結ばれると思ってた。なのに──
「こないだの小テスト、返しますね」
最近あった小テストの点数が、九十点。最高得点だ。
対する夏凪さんは──
「小テストの結果ですか? 九十五点でしたよ」
負けた……。と言っても、夏凪さんは俺のことをなんとも思ってないかもしれないけど。
「やっぱ夏凪さんは凄いや」
思わず言葉が漏れる。
夏凪さんに対する"尊敬""憧れ"は隠すつもりだったのに、仕方ない。
今願うのは、夏凪さんに笑われないことを祈るだけ。
「……私が、凄い、ですか?」
夏凪さんは目を丸くして、そんなことを聞いてくる。
ここで、白を切るのもよくない。
だから俺は──
「……夏凪さんは凄いよ」
「どこか凄いか聞いても良いですかね?」
「……だれよりも努力していること、かな」
「……え?」
「自分のやりたいことを両立するために、努力して努力して努力して、完璧にしていること、やっぱ凄いと思いし、憧れるよ」
これは本心だ。決して偽っては居ない。
夏凪さんが俺の本心をどう思うかなんて分からない。
──今更後悔が頭の中を駆け回る。
でも、もう遅い。
「私に憧れてる? 私なんて、どうしようもない人間ですよ? "誰かが居ないと"生きていけない。そんな人ですよ?」
「……確かに、そうかも知れないな」
「そんな人間に、憧れないほうが良いです」
「そんなことないよ、俺は夏凪さんを尊敬してる」
「本当に?」
「うん」
「……そう」
夏凪さんはそっぽを向く。
耳が赤い。
少し気まずさが残って、俺と夏凪さんは黙る。
どうしようか考えている時──夏凪さんが口を開く。
「じゃあ、私になります?」
私になります? という質問に、思わず困惑してしまう。
ただ、一つわかるのは、
「俺は、夏凪さんみたいになりたい」
「……そうですか」
再び沈黙が訪れる。けど、決して嫌な空気ではない。
「じゃあ、私がいつもしていること、教えてあげます。
雪下くんが、私みたいになれるように」
「いいのか?」
「うん」
「ふーん、じゃあ頑張ってついてきてくださいね」
どこか面白おかしく笑う夏凪さんとの距離が縮まったのは気のせいではないだろう。
俺は夏凪さんに新たな気持ちが芽生えてしまったのに、その気持ちに気づくことが出来なかった──。
◆
「じゃあ、まず私の勉強方法を教えましょう」
夏凪さんになりたいと話した後、夏凪さんに勉強を教えてもらうことになった。
曖昧な勉強しかしてこなかった俺は、夏凪さんのような頭の良い人が行う勉強方法が気になってしょうがない。
そんな気持ちに気づかれたのか、
「ふふっ、そんな慌てなくてもいいですから」
と笑われてしまった。
そんなに顔に出てしまっただろうか? それとも夏凪さんだからバレたのか知らないが、本当に恥ずかしい。
「……仕方ないだろ。憧れる人から勉強教わることができるんだから」
と小声で漏らす。
当然、その言葉は夏凪さんにも届いていて──
「……ばか、です」
なんて言葉が俺の耳に届いた。
確かに自分は馬鹿かもしれないが、そこまで言わなくてもいいじゃないか。
俺だって、馬鹿にならないために、今勉強をしているのだから。
「……それじゃあ、始めましょうか」
そうやって始まった勉強会。
一体。夏凪さんはどんな勉強法を使っているのか、今──迫る。
◆
結論から言わせてほしい。
夏凪さんの勉強法は最高だった。
大前提として、俺の勉強法は一から復習するやり方だ。
おそらく、多くの人がこの勉強法を使っているだろう。
対する夏凪さんの勉強法は、俺とは違い、分からないところだけ勉強するやり方だ。
今まで勉強なんかしてこなかった……ってのもあるかもしれないが、夏凪さんのやり方は、結構一般常識らしく、
「これ普通のやり方ですよ?」
なんて言われてしまった。
夏凪さんが言うには、こっちの方が勉強効率がいいし、全部復習し直してたら時間が足りないと言っていた。
確かに、しっかり復習できずに、テスト当日になってしまう──ということが、昔から多々あったが、まさかこんな対策があるなんて思いも知らなかった。
しかも、夏凪さんは勉強法を教えてくれるだけではなかった。
「何か分からないところとかありますかね……?」
「じゃあ、ここを教えてほしいかな」
夏凪さんは分からないところまで教えてくれたのだ。
しかも、夏凪さんの教え方はわかりやすく、覚えやすい。
よく、人に教えられるまで覚えることが出来たら完璧と言われているが、夏凪さんは本当に出来てしまっている、
本当に凄い。
「雪下くんは、物わかりがいいですね」
ふと夏凪さんが俺を褒める。
まさかそんなことを言われるなんて、微塵も思っていなかったため、言葉が詰まる。
「いやだって、私が言ったことすぐわかるじゃないですか」
「それは夏凪さんの教え方がうまいからだよ」
「そんなことないですよ」
なんて冗談を言ってるが、夏凪さんの耳が赤い。
だから俺は追い打ちをかけてみる。
「夏凪さんのおかげで、今回のテスト、結構いい順位取れるかもな」
これは追い打ち……というより、本心なのだが。
けど、そんな言葉は夏凪さんを照れさせるわけではなく、何やら考え事をし始めた。
そして数十秒立つと──
「次のテスト、私に勝ったら、なんでもしてあげますよ」
と提案をしてきた。
──なんでもしてあげますよ。
おそらく──いや絶対、俺のモチベーションを上げるためにそんな提案をしてくれたんだろう。
けど、男子になんでもという言葉は危険ということは、流石に夏凪さんでもわかってるはず。
もしかして、夏凪さんは俺を信用してるからそんな提案をしてくれたのではないだろうか。
だとしたら、俺はその信用を壊さないようにしないといけない。
まず、夏凪さんに変なことをしてもらおうとは微塵も思っていないのだが。
「まぁ、わかったよ、少しやる気出た」
夏凪さんが、俺のためにそんな提案をしてくれたんだ、断る理由もない。
変なことをしてもらわなければいいだけだ。
「じゃあ、頑張ってくださいねっ」
そう言いながら夏凪さんは、違う教科書を出す。
どうやら、俺達の勉強会はまだまだ続きそうだ──。
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