第9話 学校での関係と食費

 そんな事があった放課後。

 俺は、夏凪さんと学校での関係はどうするか。という重要事項を話し合うため、夏凪さんの部屋に来ていた。

 夏凪さんには、今日の放課後行くと伝えてあるため、前のように緊張しなくてもいいことに、安堵しながら呼び鈴を鳴らす。

 

 ピンポーン

 

 呼び鈴を鳴らしてから数秒後、夏凪さんの声が中から聞こえた。

 

「雪下くんですよね? ちょっとまってくださいね」

 

 学校で聞く夏凪さんの声のトーンとは少し違う事に、改めて驚いてしまう。

 

(夏凪さん、もしかして俺には警戒していないのかな?)

 

 そんな、都合の良い考えを思い浮かべてしまう自分が腹立たしい。

 夏凪さんは、誰にでも優しいことは隣の席でよく見てきたから知っている。

 夏凪さんにとって、俺に優しくするのは当たり前なのだろう。

 深呼吸をして、頭をリフレッシュさせる。 

 

 そんな、夏凪さんにバレてしまったら、相当引かれるような妄想を繰り広げていた時、ついに玄関の扉が開いた──。


「その、待たせてしまってすみません……」

「いや、こっちも時間は伝えてなかったから、こちらこそごめん」

「そう言ってもらえると助かります……」

 

 本当に申し訳無さそうにする夏凪さん。

 そんな申し訳無さそうにされても、放課後行くと伝えただけで、正確な時間を伝えられなかった自分がいけない。

 夏凪さんは何も悪くない。

 だからこの話は終わりにして、話の本題を進めよう。

 

「で、学校で伝えたことなんだけど……」

「えっと、なんでしたっけ」

「俺と夏凪さんには接点があることを隠したい。ということを伝えに来たんだが……」

「なんで、隠したいんでしょうか」

「……夏凪さんって、クラスの男子男女問わず人気があるんだよ。

 そんな夏凪さんと俺に、接点があるなんて知られたら、クラスで居づらくなってしまうかもしれないから」

「あぁ……なるほど」

 

 夏凪さんは、少し考える素振りを見せ、

 

「じゃあ、学校ではあまり、雪下くんとは関わらない方が良いってことですかね?」

「そうしてくれると助かる」

「別に良いですよ。雪下くんの手料理をおすそ分けしてもらってる身ですので。

 何も反論することはありません」

「……ありがとな」

「いえいえ、別に普通ですから」

 

 夏凪さんから了承を得ることができた。

 これで、俺は、平凡な学校生活を送れることに、幸せを感じていた時、夏凪さんが、

 

「わたしも、一つ話したいことがあるんですけどいいですか?」

 

 と、言われた。

 何か他に話すことでもあったっけ……? と疑問を感じながら、

 

「ん? どうした?」

 

 と返す。

 多分、顔には出ていないと思うが、内心ビクビクしている。

 もしかしたら、俺が気づいていないだけで、夏凪さんが嫌がる行為をしてしまったかもしれない。

 まず、俺が最初にするべきことは、謝罪だ。

 しっかり、「ごめんなさい」と誠心誠意伝えることができれば、夏凪さんも許してくれるかもしれない。

 俺は、意を決して、

 

「ごめん、そんな───」

「食費の件なんですけど……」

「え?」

 

 夏凪さんが、俺に聞きたかったことは、どうやら食費のことらしい。

 夏凪さんに振る舞う料理を作っている俺としては、正直、一人分も二人分も変わらないため、食費のことなんか一切考えていなかった。

 

(よ、よかった……)

 

 てっきり、俺が何かやらかしてしまい、怒られてしまう、というわけではなかったため、肩の荷を降ろそうとした時、ちょっと不機嫌そうな夏凪さんが一歩近付いてきた。

 

「……なんで謝ろうとしたんですか」

「俺が何かやらかして、怒られるのかな? って思ってたからさ、まずは謝ろうって思って」

 

 そう正直に話すと、夏凪さんは、ふふふっと笑みを浮かべ、

 

「なんで謝るんだろう? と思いましたが、そういうことだったんですね」

「……笑うなよ」

「いや、本当に話を聞かずに謝る人が居るんだなって、思っただけです」

「……うるさい」

 

 そんな、夏凪さんに笑われてしまうと、気恥ずかしさで顔を見れなくなってしまう。

 ───けど、夏凪さんの笑みが見れただけで、全てどうでもいいと思ってしまう自分が不思議でしょうがない。

 

「で、話の本題なんだけど……」

「食費はどうするか、ってことでいいんだよな」

「うん。流石に、雪下くんの手料理を、タダでもらうわけにはいかないから」

「でもなぁ……正直、一人分も二人分も変わらないんだよなぁ」

「そういう問題じゃありません。作ってもらう側が、食費を払うのは常識です」

 

 ここは譲らないぞ……と言ってるかのような顔を作り出している夏凪さん。

 自分は、好きで夏凪さんに作っているため、食費をもらわなくても別にいいのだが、あんな真面目な顔を作っている夏凪さんに、どんな事を言っても、「いや、そういうわけにもいかないんで」と強制的に食費を貰うことになってしまうだろう。

 だったら、夏凪さんから貰った食費の分、違う手料理を入れておく……というのもいいかもしれない。

 そこで俺は、

 

「そこまで言うなら貰うけど、半額でいいよ」

 

 と、提案をした。

 先程も言ったが、一人分も二人分もそこまで変わらない。

 夏凪さんから、使った食材全額のお金を貰ってしまったら、俺にだけメリットが大きすぎる。

 そんなことをおこなってしまったら、人としてダメな気がする。

 だから俺は、半額にしてほしいと提案したのだ。


「半額ですか……」

 

 提案を受けた夏凪さんは、むむむ……と、考えるような仕草をした後、

 

「……はぁ、半額で本当に良いんですね?」

 

 と確認してきた。

 さっきまで、頑なに「貰うだけは悪いです、食費だけでも払わせてください」と言っていたため、半額でも納得しないのでは? と考えていたが、無事納得してくれたようで、本当によかった。

 俺は、すぐさま、

 

「あぁ、それでいい」

 

 と快く了承する。

 

「じゃあ、月末にまとめて渡す感じでいいですかね」

「そうだな……そうした方が楽だし、それでいいよ」

「わかりました」

 

 そんな話をしているうちに、夕食の時間に近付いてきた。

 そろそろ部屋に戻らないと、夏凪さんの夕食の時間が遅くなってしまうだろう。

 このまま夏凪さんと話し込むのも全然いいが、夏凪さんはとんだ迷惑だろう。

 

「……そろそろ、夕食の分持ってくるな」

「もうそんな時間ですか……。よろしくお願いします」

 

 そう言い残し、俺は部屋に一度戻った。

 

 夏凪さんに食べてもらう手料理を持ってくるために───。

 

 

 

  

 

 

 


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