第4話 お嬢様(美少女)の家にお邪魔するのは、果たして平凡な男子高校生と言えるのだろうか。

 ◆


 高校生活を初めて、一ヶ月が経とうとしていた。

 このクラスで、一ヶ月過ごしていると、色々な人の事が嫌でも分かる。

 例えば、俺の初めての友達、柊木 駿ひいらぎしゅん

 

 駿は、とにかく優しくて、気遣いができる、真の陽キャだと勝手に思ってる。

 俺は、自分からクラスメートに話しかけるということが無く、友達との交流が少ない。

 それが原因ってのもあって、今まで友達が出来なかった。

 

 ───初めての友達、駿の場合はどうだろうか。

 

 俺が、駿に話しかけに行っていいか悩んでいる時、それを察してくれたのかどうかは分からないけど、俺に話しかけにきてくれる。

 しかも、駿は俺に友達ができるように、様々な人と話す機会をくれている。

 本当に感謝しか無い。

 そんな駿を信じてみて、本当に良かったと本気で思っている。

 

 後は────夏凪さんお嬢様

 夏凪さんは、いつも一歩後ろの立ち位置で人と接している気がする。

 まぁ、夏凪さんのような綺麗な容姿の人をいじめるってのはよく聞く。

 それを防ぐために、一歩後ろに引いて、注目を集めないようにしているのだろう。

 そんな夏凪さんを、俺は心から尊敬する。

 

「これで、ホームルームを終わります」

 

 久保先生による、その一言で、俺の意識は現実に戻ってくる。

 考え事をして居るうちに、ホームルームが終わってしまったようだ。

 どうせ、くだらない話だろうし、聞いても意味ないのだろうけど。

 

 ───今日は、どんな一日になるのだろうか。

 ……俺は平凡な一日になって欲しい。

 

 もし、毎日、波乱万丈な日々・・・・・・・を送っていたとしよう。 

 人と話すことが苦手陰キャな俺は、きっと疲れて倒れてしまうだろうし、イジメられてしまう気がする。

 そんな日々を送るんだったら、毎日平凡の方が絶対にいい。

 だから、俺の高校生活青春は平凡でいい。って本気で思ってる。

 

 ──────キーンコーンカーンコーン

 

 チャイムが教室に鳴り響くと同時にクラスメートは立ち上がり、会話を始めている。

 もちろん、俺は自分から話に行かないし、話しかけられることも滅多に無い。

 だから、俺は、いつもどおりひっそりと席に座る。

 さて、何か動画でも見ようか。

 

 ───そう思ってスマホを取り出した時、先生が俺に寄ってきた。

 

「関君? ちょっと頼みたいことあるんだけど、いいかな?」

 

 そう俺に問いかけてくるのは、我ら1年2組の担任、久保先生。

 久保先生が、俺に個人的に話しかけることは2、3回しかなく、驚きを隠せない。


「……別に、いいですけど、何を頼みたいんですか?」

 

 そう問いかける俺に、久保先生は言うのを躊躇っているように見える。

 一体、久保先生は俺に何を頼みたいのだろうか。

 

「今日夏凪さんって風引いてしまったらしいのよ。

 だから、関くんには配布物を届けてほしいんだけどお願いできる?」

 

 風邪を引いてしまった夏凪さんに、配布物を届けて欲しい。

 きっと、この事を他の男子に言ったら喜んで承諾するだろう。

 だって、あの夏凪さんと接点ができるのだ。

 夏凪さんに好意を持っている人からとっては、チャンス以外の何物でもないだろう。

 

 でも俺は、夏凪さんに好意を持っていない。

 正直、俺はこの頼み事を断ってもいいのではないか? と思ってしまう。

 俺みたいな人が行っても迷惑だろうし、適任者はもっといる。

 その人達に任せれば良いのではないだろうか。

 そう思えた俺は、その事を久保先生に話してみた。

 

「まぁ……関くんの気持ちは分からなくはないけど………

 一番、優羽さんの家に近いのは、関くんだから頼んでみたんだけど、お願いします……」

 

 はっきり言って、その言葉の意味が分からなかった。

 まず第一に、夏凪さんの家は、あの満開の桜に包まれた通学路にある豪邸に住んでいるはずだ。

 そして、あの通学路には俺以外にも歩いて登校している人は結構居たはずだ。

 きっと、その人達の中には、俺よりも夏凪さんの家に近い所に住んでいる人は必ずいるだろう。

 なのに、俺が夏凪さんの家に一番近い……?

 先生は何か勘違いしているのでは無いのだろうか。

 

「先生、何か勘違いして──」

「まぁ、大丈夫ですかね。

 任せましたよ。関くん」

「えぇ……」

 

 そうして俺は、夏凪さんの家に行くことになってしまった。

 

 ◆

 

 ついに放課後。

 今から俺は、夏凪さんの家に行くことになる。

 もしかしたら、クラスメートの家に行くって事は平凡な男子高校生なら起こりうる事かもしれない。

 けど、夏凪さんのような、美少女の家に行くって事は果たして、平凡な男子高校生にあって良いことなのだろうか。

 ………考えれば考えるほど、平凡じゃないのでは? と考えてしまう。

 

(もう考えるのはやめておこう……)

 

 と思わないと、色々な意味でヤバかった。

 

 先生から貰った住所を頼りに、マップアプリを起動し、歩きだす。

 夏凪さんと会った時、どんな会話をしたらいいんだろう? という心配を胸に歩いていたら、夏凪さんの家と思われる豪邸に着いた。

 やっと、夏凪さんの家に着いた……という安心感に包まれていると、俺は違和感に気づいてしまった。

 

 ────先生から貰った住所は、ここ豪邸を指していないのだ。

 

 つまり、『夏凪さんの家はここでは無い』ということか、

 『先生が渡した住所が違う』のどちらかになる。

 

 普通に考えて、先生が夏凪さんの住所を間違えるわけない。

 ということは、『夏凪さんの家はここではない』という事になってしまう。

 でも、俺は夏凪さんが、この豪邸から出てくるところを目撃してしまっている。

 イマイチ信用できない、って思ってしまうのは必然的と言えるだろう。

 

(すうぅ…………はぁぁー……)

 

 深呼吸をして、冷静的に考えてみる。

 今、この豪邸に入って、「夏凪さん居ますか?」と聞くのはリスクが高すぎる。

 とりあえず、先生に従い、貰った住所に行ってみるのがいいでは無いだろうか。

 もし、先生から貰った住所が違ったとしても、先生の責任となり、平凡な学校生活には何も支障がない……はず。

 リスクマネジメントで考えるなら、先に先生から貰った住所に行ってみるのが最適解と言える。

 ひとまず俺は、先生から貰った住所に行ってみることにした。

 

 ◆

 

 夏凪さんの家かと思っていた豪邸を通り過ぎてから数分。

 マップアプリが示しているのは、この先のようだ。

 どこか見たことある道を曲がって、夏凪さんが住んでいるであろう場所を見てみる。

 

(…………嘘、だろ)

 

 そう思うのも無理はない。

 だって、俺が見た場所は、

 

 ─────俺の住んでいるマンションだったのだから───。

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