第2話 初めての友達

 入学早々、厄介事に会ってしまった。

 俺は、ただ平凡に過ごせればそれでいいのに、何故こんな事になってしまったのだろう。

 昨日の俺に、今日の話をしても信じてもらえなさそうだ。

 

 それは一旦置いといて。

 今から俺は、自分のクラスに入ってみようと思う。

 緊張はしていないが、一つ不安な事がある。

 それは、クラスメートの反応だ。

 俺が入った瞬間、クラスの女子に「うわ、陰キャだ。きもー」なんて言われたとしよう。

 その言葉を聞いた瞬間、俺はクラスの女子から敵扱いされてしまうだろう。

 そんなのは平凡じゃない。

 

 ………でも、教室に入らないと何も始まらない。

 俺は、決意を固めて入ることにした。

 

 ────ガラガラ

 

 ドアを開けて教室に入る。

 すこし恐怖が湧いてきてしまい、前を向くことが出来ない。

 絶対、クラスの陽キャに、バカにされる。

 もう、俺の平凡な学校生活は終わりか───。

 

「お、関、今来たか」

 

 つい数分前まで聞いていた声。

 何故か、知ってる人友達がいるだけで少し落ち着いた。

 

「よ、よう、駿」

 

 言い方が完全に陰キャになってしまう。

 ………こんな根暗に駿も呆れてしまっただろう。

 

(はぁ……)

 

 俺みたいなやつ、もう友達って思われなくても仕方ない。

 幻滅されたって仕方ないのだ。

 

 けれど駿は───。

 

「おいおい、緊張しなくてもいいんだよ。

 ………そうだ! 今日どこ行くか決めようぜ」


 駿は、さっきと同じ態度で俺に接してくる。

 反応から察するに、駿は俺に幻滅していないってことでいいのだろうか。

 もし、幻滅していないなら、俺は本当に駿の事を友達と思っていいのだろうか───。

 

 自分でもどうするべきか分からない。

 ただ一つわかるのは、決して駿には悪意がないってことだろう。

 少しおかしい話だが、自分が出会ってきた人の中で一番信用できるかもしれない。

 本当に自分でもよくわからないから、うまく説明できないけど。

 自分には、友達との接し方がよくわからないから、もしかしたら駿を怒らせてしまうことがあるかもしれない。


 けど、駿とは友達として、これからも長く付き合っていければな。と強く思った───。

 

 ◆


 これから始まるのはホームルーム。

 中学の時は、ホームルームなんて物は無かったためどこか新鮮さを感じてしまう。

 ただ、今日は初めてのホームルーム。

 多分、学校生活、校則の説明ぐらいだろう。

 それぐらいだったら大丈夫のはず。

 

 そんな甘い事を考えていると、教室内に先生がやってきた。

 

「皆さん、こんにちは、『久保』って言います。

 これからの高校生活、きっと、楽しいことも辛いこともあるでしょう。

 でも、きっとその経験が、人生に生きていくから、皆さん頑張りましょうね」

 

 この先生は良いことを言ってる気がする。

 綺麗事かもしれないけど、どこか説得力があって、言葉の重みが違うことがはっきりと分かる。

 もしかしたら、この久保先生だったら、俺の事をしっかりと見てくれる気がする。

 そう思ったが───

 

「まぁ、そんなの事はどうでもいいです。

 初めて会ったんです。

 とりあえず自己紹介しましょうか」

 

「「「「!?」」」」

 

 いい雰囲気だったのに、久保先生の一言で全てが台無しになった。

 ………自己紹介。

 どんなアピールをするのかで、高校生活が変わってしまうと言っても過言ではない。

 俺は、陽キャになりたいってわけじゃないから、適当でも大丈夫だろう。

 けど、クラスの『陽キャ』という立ち位置を狙っている人から見たら、自己紹介というのはどうだろうか。

 失敗してしまったら、取り返しのつかないことになってしまうだろう。

 

「端からどんどん言っていってね〜」

 

 その一言でクラスメート達は自己紹介を始めていく。

 様々な自己紹介が飛び交っている中、ついに俺の番になった。

 

 ……少し緊張してしまう。

 こんなお人数の前で、何かを話すなんて久しぶりだからだろうか。

 クラスメートから浴びられる視線に、どことなく違和感を覚えてしまう。

 でも、やらなければならない。

 

 ────俺の平凡な学校生活・・・・・・・のために。

 

「雪下関です。一年間宜しくおねがいします」

 

 至って普通の自己紹介。

 あえて趣味や、特技を言わないことにより存在感を減らすことがができ、注目を浴びずに終えることができる。

 

 ─────パチパチパチ

 

 まばらな拍手が流れる。

 拍手から察するに、俺の存在感を消すことが出来たと見てもいいだろう。

 自己紹介で詰むという最悪な結末は避けることが出来た。

 十分な成果だろう。

 

 ………次の人が自己紹介を始める。

 これで、今日は何事もなく終えることができると思ったが───

 

「すみません、遅れてしまいました」

 

 その透き通った声に誰もが魅了されてしまう。

 クラスの注目は一気に声の方向へ。

 

 この声は、どこかで聞いたことある気がする。

 もしかしたら、という考えを持ちながら、声の方向を見てみると───。

 


 ────そこに居たのは、あの時のお嬢様だった──。

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