第1話 お嬢様と友達
俺がこれから通う学校は、徒歩で約二十分らしい。
他にも交通手段は、バス、電車、など様々な物があるのだが、お金がかかってしまうのが嫌で徒歩で向かおうと思っている。
けど、最近この地域に来たばかりなので俺はよく道がわからない。
………まぁ、幸い時間はたっぷりとある。
マップアプリでも使いながら、ゆっくりと向かおう。
満開の桜に包まれた通学路を淡々と歩く。
どんな店があるのか、どんな人がいるのか。
そんな物を見ながら歩いていた。
(……この家、凄いな)
思わず立ち止まってしまったのは、金持ちが住むような家。
俺みたいな貧乏人だと、一生働いても住むことは出来ないだろう。
家はマンション並に高く、庭の整備がしっかりとされてある。
少し目を凝らして覗いてみると、執事らしき人物もいた。
そんな豪邸に住むことができればどれほど幸せなのだろうか。
けど、部屋が多すぎて掃除が大変だろう。
こんな豪邸に住めたらいいなぁ。という空想を浮かべていた時、中から「お嬢様」らしき人が出てきた。
「ねぇ、流石に学校まで着いてこなくていいから」
「ですが、お嬢様が心配で……」
どうやら、お嬢様は執事と揉めている様子。
会話を聞いた限り、ここの執事さんはお嬢様に対して過保護らしい。
そんな過保護な執事に、お嬢様は少しうんざりしている。
まぁ、そんな感じだろう。
(っと、こっちに来ちゃったか……)
会話をおそらく終えたであろうお嬢様と執事がこちらに向かってきた。
ここでばれてしまうと、色々とヤバい。
そう直感的に感じた俺は、その場をそそくさと逃げることにした。
(あれ? あの制服、もしかして、俺が通う学校の制服じゃないか?)
一瞬、そんな考えが芽生えてきたが、「あんな金持ちだったら、もっといい高校に行くだろう」と自己解決した。
もし、あのお嬢様と同じ学校に通えたとしよう。
何かの手違いでお嬢様と関わる機会があったと想定する。
………第一に、俺からお嬢様に話しかけるなんてありえない。
普通に考えて、あんなお嬢様が俺に興味を持つなんて、夢のまた夢だ。
(……時間を使いすぎたな)
少し時間を使いすぎた。
時間にはまだ余裕があるが、焦らずに行きたい。
俺はもう一度満開の桜に包まれている通学路を、ゆっくりと歩きだした───。
◆
無事、高校につくことが出来た。
結構早めに来たはずなのに人で溢れかえっていた。
まぁ、今日は入学式だ。
そんな日に、人で溢れかえっているのは、当たり前と言えるだろう。
「友情の門」と書かれている校門を抜けると、『クラスの確認はこちら』と強調されている所を発見した。
幸い、人の波はできておらず安心して見ることができる。
(俺の名前は……ここか)
そこに貼り出されていたのは、誰が、どのクラスなのかがはっきりと分かる表。
見てみた感じ、俺は一年二組らしい。
多分、関わることは無いと思うが、クラスメートの名前も確認してみる。
───
どこかで、聞いたことあるような名前。
一体、どこでこの名前を聞いただろうか。
今覚えているかわからないが、昔の記憶を辿ってみる。
………そういえば、小四の頃、親の都合で転校してしまった人がいた気がする。
誰にも、明るく接してる人で、皆からの信頼も厚かった人が、「柊木 駿」だった気がしなくもない。
うろ覚えなのは、家事の事で頭が回らなかったからだろう。
小学生の頃は、覚えることが多くて本当に忙しかったのだ。
うろ覚えなのも仕方ないだろう。
………でも、面識のある人と同じクラスってのはちょっと嬉しい。
もしかしたら、俺と
そんな幻想を抱くのは一回止めよう。
どうせ、妄想しても意味がないのは自分でも分かってる。
(そろそろ行くか……)
少しずつ人の波ができていて、抜け出すのも困難な状態になり始めてきた。
人混みはあまり好きではないから、さっさと教室に行きたい。
そう思って、歩きだしたのだが───。
「もしかして、君って関君?」
「え?」
話しかけられるとも思っても居なかったため、間抜けた声が出てしまう。
なんで、俺の名前を知っているのだろうか。
この学校には、俺の知り合いは居ないはず。
まさか───
「あ、ごめんね。急に話しかけちゃって。
まずは、名前から名乗ったほうが良いか。
俺は
確か、小学校同じだったけど、覚えてる?」
……まさか、もう柊木さんと会ってしまうなんて思わなかった。
てっきり、柊木さんは、俺のことなんか忘れてるかと思っていた。
「……そりゃあ、もちろん覚えてるよ。
小学校の頃、転校したんだろ?」
「そうだね、親の仕事で着いて行かなくちゃならなくてさ。
まぁ、大変だったよ」
今、柊木さんと会ったばかりだけど、一つ分かったことがある。
柊木さんは、絶対に
俺とは住んでいる世界が違う。
もし、柊木さんが、教室で俺にダル絡みという面倒くさいことをしてきたら、俺はパニックしてしまうだろう。
それは阻止しないと、俺の
俺は、柊木さんに、教室ではあまり関わらないように頼もうとしたんだけど───
「柊木さ──」
「関くんだっけ、良ければなんだけど、呼び捨てしてもいいかな……?」
「はい?」
「ここで会ったのも何かの縁じゃん?
俺は、関くんと仲良くしたいんだ。
それには、呼び捨てで呼び合う事も必要かなって思ってさ」
……柊木さんの距離の詰め方は、俺みたいな陰キャには心臓に悪すぎる。
よくよく見てみると、柊木さんはイケメンだ。
もしかしたら彼女持ちのリア充なのではないか。
俺とは顔も、性格も違うんだろうな……
そんな事はさておき。
柊木さんに呼び捨てで呼ばれる事を許可しちゃってもいいのだろうか。
まぁ、深く考えるのは止めておこう。
どうせ、教室では他の人と話してるだろうし。
許可しちゃってもいいだろう。
「まぁ、呼び捨てぐらいなら……」
「本当か!? 俺のことは駿って呼び捨てでいいからさ。
これからよろしくな!」
「う、うん」
そこらの女子だったら、この笑みを見ただけで堕ちてしまうのではないのだろうか。
そう思ってしまうほど、完璧な笑みだった。
「じゃ、俺行くわ」
そう言い残し、校内に入っていく柊木さ──駿。
俺は、一体どんな高校生活が始まるのだろうか。
中学の時みたいに、クラスで浮いててもいいから、平凡に暮らしたい、
そう願いながら、俺も校内に向かおうとしたんだが───
「おーい、関〜」
校内に入ったはずの駿が帰ってきた。
しかも、周りの人に聞こえてしまうような声で、俺を呼んでいる。
周りから注目される。
一体、駿は何をしたいのだろうか。
「この学校に来て、
放課後、一緒にどこか行こうぜ!」
……そんな事のために、俺は辱めを受けたのだろうか。
周りに大勢の人がいる中で、自分の名前を大声で言われてしまうのに、俺は戸惑ってしまう。
入学早々、俺の平凡な生活が崩れていった気がする。
(本当に、最悪だ)
───でも、駿の友達という響きが、何だか甘ったるくて頬が少し緩んでしまった──。
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