一人暮らしを始めたお嬢様は、どうやら俺がいないとろくに生活できないらしい。

白深やよい

第一章

プロローグ

「自分のことは自分でやれ」

 

 俺こと、雪下 関ゆきした せきが毎日言われてきた言葉だった。

 誰でも言われてきただろう言葉。

 それはどんな時に使われてきただろうか。

 

 自分の部屋の掃除をしていなかった時、親に何か頼み事をした時、

 まぁ、そんな感じだろう。

 

 俺の場合は、言葉の使い方がちょっと違う。

 小学校の頃から、食事、洗濯、家事全てを任せられてきた。

 

 両親は何も教えてくれない。

 俺の事が嫌いだからだろうか。

 嫌がらせって意味もあったかもしれない。

 

 始めは、何か家の家訓なのかな? と思っていた。

 けど、そんな事はなかった。

 実の妹にだけ、俺の両親は凄く甘い。

 俺には、「それぐらい自分でやりなさい」と叱るくせに、

 妹には「貴女がそんなこと、やらなくていいの」とひたすら甘やかす。


 俺は一度、お母さんに反抗したことがある。


「お母さん、自分だけじゃ大変だから、手伝ってほしいんだ」

「なんであんたなんかに手伝わなきゃいけないの? 自分のことは自分でやれ。って言ったよね?」


 と言われてしまった。


 そんな両親を嫌いになるのは当たり前だろう。

 頑張っても褒められない日々に、嫌気が差して、俺は何も期待なくなり頼ることもなくなった。

 だから、全て一つずつコツコツと覚えて、中二の頃には一通り出来ていたと思う。

 ただ、家事に時間を取りすぎて、勉強、友達が一切出来ず、青春とは程遠い生活を送っていた。

 

 

 そして今──現在。

 絶賛一人暮らし中である。

 

 マンションということもあり、部屋は確かに狭い。

 ───けど、生きられないことはない。


 今の俺には、一人で生きれる力がある。

 これ以上、両親と過ごしても何も変われない。

 今、両親と過ごしても何も意味ないし、何も得られない。

 そんな生活に、俺は耐えれる気がしなかった。

 だから一人暮らしをすることにした。

 

 

 ………そんな事はさておき、今日から俺は高校一年になる。

 あっという間に、桜が乱れる季節。

 出会いの季節と言われることが多々あるが、俺には関係ないことだった。

 

 高校と言われれば何を思い出すだろうか。

 よく聞く、青春・・に対する期待、不安はなぜか湧いてこない。

 

(本当に、なんでだろうな……)

 

 ため息を一息吐きながら、改めて考えてみる。

 多分、学校ではボッチ一人だったからだろう。

 中学の頃は、家事の事で頭が精一杯で、友人関係まで頭が回らなかった。

 そんなクラスで浮いてる陰キャが、学校生活を楽しいと思えるわけがない。

 だから、仕方ない事だと自分に言い聞かせる。

 

 今日から、高校生活が始まる。

 でも、中学の時と環境は変わらないだろう。

 人との接し方がよく分からないのに、友達友人なんかできるわけがない。

 クラスで浮いてる陰キャ。

 それが俺にお似合いなのだ。

 

(さて、そろそろ行きますか)

 

 重い体を動かして、家を出る。

  

 俺は、あまり浮かない気持ちで学校に向かった──。

 

 

 ───この時の俺は、まだ、ダメダメな「お嬢様」のお世話から始める、無茶苦茶な青春ラブコメが始まるなんて考えもしなかった──。

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