14話 エピローグはプロローグに
魔獣が王都を襲撃してから2日が経った。事件のあった日から俺たちは館でゴロゴロしている。
あの場を見ていなかった住民からしたら街中の魔獣を屠り城を襲っていた幻狼種まで倒して捕獲した俺たちは英雄だったのだ。
外に出ようものなら人間に囲まれ、苛ついた俺に反応した焔が殺そうとする始末。これでは魔獣の襲撃と変わらないので俺は早々に館に引きこもり、この王都を出ることを決意した。
幸い王都を守った礼金として衣食住だけなら向こう3年は働かなくても平気な金額をもらったので次の街でも問題はないだろう。だからいっそのこと世界不思議食材探索ツアーに出ることにしたのだ。
氷狼の村に戻って両親に旅してきますと伝えたかったがそれは無理だ。焔がまた暴走しかねない。というかどこかに定住することは無理だろう。
俺が少しでも苛ついたら焔が暴走する。俺が苛つかなくても侮辱されたらきっと暴走する。
定住しようものなら色々なしがらみができる。そうなったら多少なりともストレスが生まれる。焔が暴走する。
……逃げ場がないな。
いっそのこと2匹だけで森に住むというのも考えたが1度人間の料理の味を知ってしまったら我慢できなくなった。不味いのも上手いのも新鮮なのだ。転生して16年、氷狼として様々な魔獣の肉を食べてきたが森の魔獣は全種類コンプリートしてる。新しい刺激が欲しいと思っていたところだった。
完全に俺の我侭だな。
さて、焔と雷に話してみるか。
「焔、雷。俺、王都を出ようと思う」
「へ~。いつ出るの?」
「王子に旅の荷物届けさせたら直ぐにでも」
「村に戻るんじゃなかったのかしら?」
「焔が暴走しかねないから却下。親父さんに手紙渡しといておけば良いだろ」
今は捕らえられてるがどうせ脱走するだろう。
「む~、私暴走なんてしてないもんっ」
もんっ、じゃない。しっかり暴走してた奴の言うことに説得力があると思うな。
「じゃあ旅の支度しなくちゃいけないわね。何を持っていこうかしら」
「え、お前来るの?」
雷狼の村探すんだと思ってた。
「あら、私が一緒じゃお邪魔だったかしら? 2匹きりのを良いことに焔にあんなことやこんなことをするつもりだったのかしらこの思春期狼は。ケダモノだわケダモノが居るわっ。これだからピンクな妄想真っ盛りの思春期ボーヤは油断ならないわね。どうせメスを見るなり組み敷いて無理矢理自分のものにすることでも想像しているのでしょう。私も気を付けないといけないわね。こっちを見ないで頂戴、孕むわ」
「孕まねえよっ!」
まさかここまで罵倒されるとは思ってなかった。何か旅の準備始める前に疲れたな。
「凍っ、そ、そんなにしたいなら、言ってくれれば、いつでも良いんだよ? 痛くてもちゃんと我慢するからっ。凍がしたいなら無理矢理でも縛るのでも殴るのでも蔑むのでも焦らすのでも何でも良いよ? でもでも、最初からそんな激しくすると凍もつらいと思うから最初は優しいのにしてほしいな、なんて思うんだけど凍はどんなのが良いのかな? 教えてくれたら私頑張ってみるよ? どうかな? どうかな?」
「超乗り気っ!?」
何だこの状況っ! リーガルの変貌なんて目じゃないくらい困るんだけど! 俺にどうしろってんだ? 焔を優しく抱けば良いのか? それは成狼してからにしてください!
「は~、とにかく旅は全員参加ってことで良いんだな?」
「うんっ」
「ええ」
「じゃ、雷の武器ができるのも待たなきゃだな」
不安しか覚えない。俺、この先平和に食材探求できるのか? できなさそうだな。この世に神は居ないらしい。
翌日、雷の武器と旅の荷物が届いた。荷物の確認確認っと~
オッチャンは銃に使った折り畳み式の技術力を買われて城の技術部にスカウトされたが『俺の城はここじゃねえ』と言って断ったらしい。それでも技術顧問として週1で城に出向き技術を教え合い、互いに相手の技術を試し合うことを約束していた。
ちなみにオッチャンが作った雷の斧槍は右手の位置にナックルガードとトリガーが付いていた。トリガーを引くと槍の方が大きくなり斧がサブになる槍斧に変化するらしい。何かオッチャンの技術力が時代背景に合ってないように感じるのは俺が素人だからだろうか?
オッチャンはついでとばかりに焔の法剣も改造していた。今までの法剣は普通の剣としては全く使い物にならなかったのだが柄頭を捻ると法剣、捻らなければ普通の剣として使えるようになった。
ちなみに教会の法剣全てにこの改造を施す計画が立っているのだとか。
どんな改造したら法剣を普通の剣として使えるんだよと聞いたら『折り畳み式展開刃のちょっとした応用でい』と言われた。『でい』が『だ』だったら外道主人公の名言が再現できたものを!
宿のオバチャンは焔との別れをかなり悲しんだ。何か思うところがあったのか相当感情移入しているようだ。別れ際に『ホムラを泣かせたらケツの穴に爆竹詰め込んで破裂させてやるから覚悟しときなっ!』と有り難いお言葉を頂いた。2度と来るものか。
さて、色々な意味でラスボスなリーガルだが、この度奥さんが判明した。
結論から言おう。金髪美女であった、と。
出るとこ出て引っ込むとこは引っ込んでいる。まるで神様が悪戯に世界一綺麗な人間を作ってみようと頑張った結果生まれたような顔。その大きな胸はあらゆる男を魅了し、その蠱惑的だが清楚さも兼ね備えた唇は見る者を惹きつけ、その優しげだが強い意思を感じさせる目は万人を安心させる。
リーガルに殺意が沸いた瞬間だった。何だあの極上の絹糸かと錯覚させる金髪は。あまりの美人っぷりに思わず慣れないポエムみたいなの考えてしまったぞ。リーガル許すまじっ!
あのオネエにこんな美人とかマジないわー
この世の不条理ここに極まれりだわー
でも口を開かないリーガルとはお似合いだから余計腹立つわー
リーガルが急に渋くなったのは単純に娘が居たからだった。奥さんとしては娘の前でもあの口調にして良いらしいのだがリーガル自身が少しでも強い父親の姿を見せたいらしく、ああなったらしい。
本当に、普通にしてても頑張ってても色々疲れるギルド長だった。
最後に王子。最初に1回本名を名乗ったような気がするが誰も覚えてないので最後まで王子で通す。異論は受けつけない。聞いても応える機会がないから。
今回の、街中での魔獣の掃討と城の防衛を成し遂げたことで一気に株が上昇。部屋に引きこもって布団被ってた兄たちよりも頼りになるとの評価を受けて晴れて王位継承の筆頭になったらしい。
俺はどっちかと言うと現場で指揮してる騎士団長とかのが向いてると思ったんだが? 俺たちが王都に戻ったばかりのとき、直ぐに的確な指示を出して魔獣を掃討する姿はどう見ても王じゃなくて騎士だったしな。
ちなみに本人は王になることには無関心で『民が平和に暮らせる国ならば誰が王になろうと構わない』と世襲制に喧嘩売るような台詞を筆頭宣言した王に返したらしい。王は大爆笑したとメイド長が教えてくれた。何とも変人が多い街だ。
そう言えば焔にアタックを続けるのかと思ったのだが『アレは私の手に収まる女ではない。精々私が放棄した狂気に溺れるがいい』と言いやがった。しかもメイド長との婚姻まで発表しやがった。
この国のメイドってのは高貴な身分の女が相手探しと嫁修行の両方を兼ねているようで大した反発もなく手続きが終了、式に呼ばれたがその前に王都を出るので辞退した。
この街で1番世話になった相手でもあったので俺たちの正体を明かし(脅し)、焔の親父さんに俺の両親宛の手紙を渡すように頼んだ。どうせ炎狼を人間が捕らえ続けるなんて無理なのだ。王子もそれは理解しているようで親父さんは簡単に脱走できるようにしておくと約束してくれた。これで無駄な被害はでないだろう。
ふう、1度に色々話して疲れた。
「凍、行く宛は決まってるの?」
「いや、まったく」
「しょうがないわね。ここから西に行くと海の街、南に行くと山の街。新しい食材の開拓をしたいならこの2択だと思うわよ」
「なら海だな。皆で遊べそうだ」
この世界にも海水浴はある。定番のデートでもあるが。
「凍、私の水着が観たいなんて……うんっ、私頑張るねっ」
「まさか私たちの水着姿で自分の劣情を満たしたいだなんて、その底無しの性欲は本当に恐ろしいわね」
「濡れ衣にも程があるっ!」
本当に、この先大丈夫なんだろうか……
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