13話 親子対決は圧倒的に

「焔、帰ってくるんだ。そして魔獣の国を作るんだ」


親父さんの目は赤く発光している。黒スライムが寄生しているのが分かる。

てか魔獣の国って何だ?


「誰?」


おぉっと! まさか自分の父親に誰言うなんて思ってなかったぞ。


「凍の敵に知り合いなんて居ないよ? あなたが誰だかなんて関係無い。凍の敵は全部殺さなきゃだよね」


あれ? 俺の幼馴染ってこんなにヤンデレだっけ? 目のハイライトが消えてないか? てか笑顔が薄すぎて俺がビビるんだけど。もう少し穏便にできませんかね?


「凍、焔を止めなさい。周りの魔獣たちどころか騎士たちすらビビって動けなくなってるわよ」


やかましい。できるならとっくに止めてる。てか怖くて近付けません!


「このヘタレッ!」

「じゃあお前が止めろよっ!」

「不可能よ!」

「自信満々に威張るなっ!」


「焔、お前のためを思って言ってるんだぞ! 良いからこっちに来るんだ!」

「何言ってるのか分からないよ。死ねば?」

「焔っ!」

「えへへっ、見ててね、凍。凍の敵は刺して切ってバラしてあげるから。

爪も親指も人差し指も中指も薬指も小指も手首も前腕も肘も上腕も肩も足首も脛も膝も太股も股関節も腰も腹も胸も背も首も顎も口も鼻も耳も目も頭も全部全部全部1センチ間隔で細切れにして凍の目に触れないようにバラバラにして消してあげるからっ!」


俺の幼馴染が怖いです。あんな病んでる幼馴染怖すぎて近寄れません。

王子も騎士も青い顔して固まってる。魔獣たちも想像してしまったのか震えている。雷は自分がゴブリンにしたことを思い出して「まあまあね」なんて言っている。

あれ? もしかして焔と雷って同類? 俺の周りってこんなのばっかり?


「ほ、焔、父親に対してなんてことを、」

「お父さん? ああ、そうか、あなたは私のお父さんなんだね」

「そ、そうだ! だからそんなことを、」

「じゃあやっぱり殺さなきゃっ。凍が幻狼の情報を集めるために苦労している理由の1つは私のお父さんの安否を確認するためだものねっ」


太陽のような笑顔で振り向き、そんなことを言った。

俺、村に戻ったら両親殺されるんじゃないか? 村見つけたら手紙だけ残して即旅に出たほうが良いか? てか焔を村に近付けるの防がないと駄目か?


「ほ、焔?」

「凍、上手くできたら褒めてくれるかな? きっと褒めてくれるよねっ! だって凍の敵を殺してあげたんだからっ。あ、でも欲張りだって思われたくないなぁ。それにお父さん如きの死体なんて凍に見せたくないなぁ。う~ん、じゃあ焼き尽くしちゃえば良いよねっ。でもお父さんの焼ける匂いなんて悪臭、凍が嗅いで鼻がおかしくなっちゃったらどうしよう? そうなったら私の鼻をあげれば良いのかな? でも凍私が血を流すの嫌がるしな~

も~、凍は我侭だよ~」


あなたは若干狂ってますけどねっ! 俺に依存してる部分があったのは前から気付いてたけどここまでだとは思わなかったよっ! こんなヤンデレな幼馴染持った俺はどうすれば良いんでしょうか? 

笑えば良いと思うよ。

やかましいわっ!!

……1人漫才も久々だな。


「凍! 今直ぐ焔を抱きしめてっ! このままじゃ手遅れになるわっ!」


言われた通りに抱きしめた。

……抱きしめる必要あったか?


「凍、こんな、皆の前で、恥ずかしいよっ!」


そんな顔赤くして可愛く言わないで! その口でさっきのとんでも台詞を言ったかと思うとギャップで死ねるから!


「流石ね、凍。まさかこんな公衆の面前で焔を堂々と抱きしめるなんて」

「お前がやれって言ったんだろうが!」

「本当にやるなんて誰も思わないわよ」


くっ、確かに俺でも思わない。自分で思っている以上に動揺しているみたいだ。


「凍っ! 貴様っ、焔から離れろっ!」


っと、確かに焔が大人しくなったら抱きしめなくても、


「お父さん、殺すっ!」


抱きしめてないと駄目でしたっ! 何なのこの娘! 俺に抱きしめられてないと親殺ししちゃう病気なの? どんな奇病だよっ!


「あんっ! 凍ったら、そんなに強くしないで」


そんな気持ちになれるかーっ! もう気分は背水の陣だよっ! 君の親父さん守るので精一杯だよ! 何で俺の命狙ってる奴の心配しなきゃなんないんだよっ! 耐え切れないよっ! もうやめてっ、俺のライフはとっくに0よっ!

口調は男のに変えるべきだったと反省。


「凍、まさかこんな公衆の面前で、」

「そのネタは重複するから却下だ!」

「ちっ」


ちっ! じゃねーっ!

この場で余裕あんのお前だけなんだから積極的に問題解決に動けよっ! お願いだから動いてくださいっ! 俺に構わず黒スライムを! 本気でお願いしますっ!


「そんな泣きそうな顔しないの。余計に虐めたくなるでしょう?」


ならねえよっ!


「ま、住処をくれたお礼よ。どうにかしてあげるわ。炎狼が動き出したら焔を解放しなさい」


そう言って魔獣を倒し、黒スライムを霧散させていく。

残るは親父さんだけだ。


「くっ、人間に媚び売る堕落した魔獣がっ! お前たちに魔獣としての矜持はないのかっ!」

「あら、随分な口の利き方ね。得体の知れないモノに寄生されてるだけの存在が面白いことを言ってくれるわ」


雷さんマジ女王様。何か俺だけ普通で悲しくなってくるな。


「焔の殺気に当てられて動けなくなる程度の力しか持たないのに矜持なんて持っているのね。弱者のプライド程無意味で無価値なものもないというのに」


いくらなんでも言い過ぎじゃね? あ、動けないのをいいことにボコり始めた。


「どうしたの? あなたの矜持とやらはこの程度? 随分とお粗末ね。本当に無価値な矜持なのね。無い方が良いんじゃないかしら」


中身黒スライムだと分かってはいるが、何か親父さんに同情してしまう。


「ほら、少しは抵抗したらどうなの? 防御すらできないなんて、なんて無様なのかしら。生きる気力もなくてよく矜持だなんて言葉を使えたものね。ほら、『私は生きるための防御もできない雑魚の中の雑魚です』って言ってみなさい」


ああ、とうとうただの苛めになった。炎狼が人間の国の城の前で人化した雷狼に苛められるとかどんなレア状況だよ。もうわけが分からないよ!


「もう飽きたわ。さっさと楽になってしまいなさい」


斧槍で親父さんの頭を地面に刺さるほど強く強打し、出てきた黒スライムを霧散させた。

何か、今後女性陣に勝てる気が一切しないんだけど……気にしたら負けだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る