12話 反撃は再会に

王子に言われた通り武器屋に向かう。

途中で襲ってきた魔獣は俺が倒し、出てきた黒スライムは焔と雷が切った。

ちなみに魔獣は死んだり気絶してるだけだったり色々だ。一々構っていられない。


「凍、凍、褒めて褒めてっ」

「後で好きなだけ撫でてやる」

「ホントッ?」


バカップルと笑わば笑え! 俺はもう諦めた。


「凍、後でワインでも飲みましょう」

「今直ぐ返してこい!」


こいつ酒屋の店先に積まれてた酒樽から拝借しやがった!

そんな風に馬鹿やりながら走っていたら武器屋に到着、店の中の様子は雷に確認してもらい焔と一緒に店の前で魔獣に備える。


「坊主に嬢ちゃん、無事だったか!」

「オッチャン、この銃で切ったりできないか?」

「黒い霧に打撃は効かないんだったな。10分持ち堪えろ」


雷が話しおいてくれたみたいだな。気の利くメスってカッコイイ。

そして火事の起きている方から店にワラワラと魔獣が進撃してくる。


「予備の銃くれ。時間稼ぐ」

「ほらよっ!」


投げ渡された銃を慌てて空中で握る。

見た目はマガジン式だがバレルと持ち手がL字ではなくデルタになっていて刃がついている。

この店はなんでもあるな。

大挙する魔獣の群れに突撃し、銃を全方位に乱射する。飛んでる魔獣に偶々当たりすぐ近くに落ちてきた。蹴り飛ばし、後ろの魔獣ごと壁に叩き付ける。


「死になさい!」

「逃がさないよっ!」


雷が壁からずり落ちた2匹を斧槍で切り飛ばす。2体の黒スライムが切り口から飛び出し、焔の法剣が霧散させた。


「こいつら人間じゃねえぞー!」

「魔獣が人間に味方してんじゃねー!」

「別に君たちの意見なんて聞いてないよ」


表情の消えた焔が炎を纏わせた法剣を狼の口から尾まで貫通させた。火達磨になり霧散すらしない黒スライムが出てきて、焦げた塊になった。


「寄生虫如きが私に意見するなんて、身の程を知りなさい」


高圧的な雷が斧槍の槍でカマキリの脇腹を突き刺し、焦げるほどの電気を流し込む。プスプスと煙を出す黒スライムが魔獣から出てくる途中で動かなくなった。

えげつないなこいつら。


「凍、その殺し方は酷いと思うんだよ」

「凍、少しは寄生された魔獣のことも労わってあげなさい」


失礼な! 打撃で動けなくなった魔獣の口を氷漬けにして黒スライムの出口を塞いだだけだぞ。


「坊主っ、あたらしい銃だっ!」


だから投げるなーっ! そして俺はアンパ○マンかっ!

オッチャンが調整した銃は前と変わらないように見える。精々ちょっと重くなったくらいだ。


「これのどこで切れってんだ?」

「親指の所のロック落として軽く振れ!」


言われた通りに銃の安全装置みたいなのを落とし軽く振る。

カシャンと子気味の良い音をさせてバレルの下に扇状の刃が展開した。


「ロックすれば固定される。どうでい! 俺の考案した折り畳み式展開刃はっ!」


オッチャンのネーミングセンスのなさはよく分かったよ! 強度心配だけど大丈夫なんだろうな? って扇のように1枚1枚が重なっているのかと思ったら1つの刃になってる!? どうなってんだ?


「その刃はオリハルコンとダイヤモンドを絶妙な配分で混ぜ合わせた特別製なんでい! オリハルコンはダイヤと混ぜると発現する特性によりロックしているときは魔石の力で周囲の同物質と一体化させっ、ロックしていないときは1枚1枚の薄いダイヤモンド板として展開させるっ! ロックしてなけりゃダイヤモンド、ロックしてりゃオリハルコン! これぞ伸縮機構の革新的アイディア!!」


あんたの趣味全開だなっ! てか俺に使わせる気満々だったろこの爺っ! こんな短時間でこんなの作れるはずない、最初から作って取り付けるだけにしてやがったな! そしてその似非江戸ッ子口調はどうにかしろよっ!


「私も新しい機能欲しい!」

「あなたばかり新装備なんてズルいわ」


俺の所為じゃないと思うんだ。


「お前たち、こちらは制圧した。私は今から城にたかる魔獣を排除する。手が空いてるならば手伝え」


王子が良いタイミングで来てくれたよ。空気の読める王族って素敵!


「OK、手伝うぜ」

「ふっ、話の分かる男で助かる」


王子の後に続くと騎士たちのヒソヒソ話が聞こえた。


「あれだけの魔獣を3人で」「奴らの内青毛と赤毛は王子の恩人みたいだぞ」「山賊を2人で壊滅させたってあれか?」「あの魔獣相手になんて圧倒的なんだ」「人間の皮かぶった魔人だな」


普通なら聞こえない声量だが俺は幻琅だから人間より聴覚が良い。ヒソヒソ話は別でやってほしいものだ。

この王都の城は湖の中央の島にあり、橋を渡らないと行けない。水面を見てみると水面ギリギリに岩礁が乱立しているようだ。

これじゃ小舟でも渡れないな。


「くっ、魔獣どもめ! もうあんな所まで!」


見ると魔獣の群が橋を渡り城の正面門にたどり着いている。騎士の死体が無惨に転がされている。


「コオル、頼めるか?」

「任せろ。この王都が消えるのは困るんだ」


別にこの王都は好きではない。だが武器屋のオッチャンと宿のオバチャンには愛着に似た感情もある。だったらあの人たちの居場所を守るくらいはしてもいい。

本音は幻狼の村に戻れる可能性が下がるのは好ましくないだけだったりする。俺って素直じゃないな。


魔獣の群に飛び込み銃を乱射。相変わらず素人丸出しのテキトーな狙いだが魔獣の数が多いので当たる当たる。

怯んだ魔獣を焔と雷が追撃し、黒スライムが魔獣の中から出てくる。

俺に寄生する気か飛びかかってくる黒スライムをバレルの下の刃で横薙に切ると霧散した。

ここまでちゃんと切れるなんて、オッチャンの趣味も侮れないな。

普通の狼の顎を銃を振り上げることで打ち上げ、胴体を撃ち抜く。出てきた黒スライムはバレル下の刃で切ることで霧散させる。

このコンボ気持ち良いな。


焔は炎が使えないのが不満なようだが法剣で複数の魔獣を同時に切り付け、橋の下に蹴り落としたりしている。当然泳げない魔獣ばかりなわけで息ができずに溺れ死ぬ。黒スライムは水中では動けないらしく一緒に水底に落ちていく

もうちょっとちゃんと相手してあげて。何か哀れ。


雷は自分が寄生されたときのことを思い出したみたいで八当りのように高速回転させた斧槍を振り回し台風みたいになっている。近付く魔獣から挽肉になって宙を舞う姿は血の雨のようだった。

生きたままゴブリンの腕がミキサーに掛けられたように削られ絶叫が響くが、斧槍の回転は止まるどころか余計に速くなる。黒スライムの姿を見ることもなくゴブリンの体が血の霧に変わった。

生きたままミキサーするのは止めたげてほしいです。


「まさか人間の仲間になっているとは思わなかったぞ」


ん? 懐かしい声だったような? てか炎狼が魔獣の群に混じってるだと!?


「お前に焔を任せたのは間違いだったようだな」


その炎狼は、焔の親父さんだった。

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