1章 時空の狭間 1

 ある春の日の出来事である。中学生の高松陽人は今日も小走りで中学校へ行く。時刻は8時3分。どうも、早起きが苦手らしい。陽人の中学校は、スマホの持ち込みは禁止だ。だからと言って二宮金次郎のように勉強に対して積極的かというと、まあそんなことはなかった。陽人の家から学校まで行くには、大きな国道を渡らなければならない。勿論、小中学生にとっては危険なので、歩道橋が設置されている。陽人はいつものように、階段を1段飛ばしで駆け上がり、歩道橋は全力ダッシュだ。そこで事件は起きてしまった。先に歩道橋をダッシュしていた小学生の男の子が、転んでしまい、水筒を道路に落としてしまったのだ。当然、男の子は大泣きするが、すぐに歩道橋を駆け下りた。国道の信号は赤である。

「今行けるかな…」

男の子は道路へ飛び出し、水筒を拾おうとした。この男の子の行動がいかに危険かというのは、陽人にも分かっていた。今、「早く戻れ!」だとか「おまわりさんに取ってもらおう」とか言おうかと思ったところだが、嫌な気配がした。


―――――車の音がする


男の子は歩道へ戻る途中だったが、車が来てしまった。男の子は急ぐも、まだ判断のつかないほどの幼い小学生である。足は速くなく、到底、一瞬で戻れるわけもなく・・・

「危ない!」と陽人は叫ぶ。


その時、キーンという高い音がした。


「…あ、あぁ、あれ?」

なぜか車と男の子の動きは停止している。いや、それだけでない。陽人以外のものが動いていない。試しに近くの女子高生のスカートをめくってみる。いろいろと触ってみる。しかし何も反応しない。そこに立っているのに脈がない。自分の脈を測ってみる。

「うぇ…」

脈は気持ち悪いほどに動いている。とにかくこれはチャンスだと思い、男の子を助けに行く。その瞬間、今度はピーという音がした。


―――――「キィィィー」「バコッ」「グチャ」という音が同時に聞こえた。


目の前には、ランドセル、潰れた水筒と男の子の下半身があった。つまり、上半身とみられるものは確認できないのだが、赤いもの、白いもの、クリームピンク色のものがある。陽人は、男の子を助けられなかったのだ。

 あちこちから悲鳴が上がり、ショックで倒れる人もいた。陽人は唖然としている。陽人は学校に遅刻した。

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「選択」という極めて憂鬱な行動 栂乃宮 @toganomiya

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