第125話 所在
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「父上、本気でダンジョンに潜る気なのですか?」
ゴンベッサ王子が、心配半分呆れ半分の口調で、元王に訊いた。
「無論だ。夫婦石も持とう」
ゴンベッサが、ラッキーを見た。
ラッキーは、ぶんぶんと激しく首を振っていた。
「大丈夫だろうか?」
「絶対無理」といったところだろう。
ゴンベッサは、今度は神妙な顔で俺を見た。
「護衛について、私からも頼めないだろうか。報酬は払う。父上たちと、しばらくパーティーを組んでもらえるとありがたい」
「俺より『
「あたいたち、また地下に潜れるのかしら?」
ラッキーが、プラックと顔を見合わせた。
「難しいんじゃないか」とプラック。
確かに辺境伯という肩書きができた二人に、ダンジョンに入る余裕と暇はないだろう。
だからといって、『
『
しかも、ヴェロニカと同時でなければ、さらに、あり得ない。
もともと、俺は、エリクサーの購入資金を稼ぐべく、ヴェロニカの店を手伝うために引退したのだ。
ラッキーたちは、俺の引退理由を知っている。
俺は、ラッキーに、元王の道楽につきあうつもりはないと、目で訴えた。
「軍の再編と訓練もしなければならない。できれば、そちらの手伝いもしてもらいたい」
ゴンベッサが、さらに要求を積み重ねた。
いくら出すつもりか知らないが、元王の探索に同行する程度で、『
それとて、ボタニカル商店の一日の売上げと比較すると、小遣いだ。
今回だって、『
まあ、今回については、ゴンベッサから十分な額の報酬を貰っているが。
とはいえ、元王の護衛に妥当な報酬が見込めない以上、元王には、探索者として地道に成長してもらうほかないだろう。
どれだけの期間がかかるかもわからない元王の成長に、ずっとつきあう余裕はない。
本来業務第一だ。
幸い、最近は、スラム上がりや難民上がりの初心者探索者が多いので、ライバルにはことかかないだろう。切磋琢磨による成長を期待したい。
ラッキーには、俺のアイコンタクトが通じたようだ。
「ゴン兄。無理言わないで」
ラッキーが、俺と王子の間に入ってくれた。
「だがな」
ゴンベッサは、さらに言いつのろうと反論しかけた。
待てよ。
俺は、思いついた。
「ここにエリクサーはあるか?」
俺は、商売の最終目的を口にした。
本業第一だが、十分以上の見返りが見込めるのであれば、副業もやぶさかではない。
そもそも、その本業は、エリクサー入手のためである。
「くれとは言わん。売ってくれればいい。城の宝物庫にあるだろう?」
俺は、かまをかけた。
俺とヴェロニカの、エリクサー入手に向けた考えはいくつかある。
第一に、オークションで競り落とす。
第二に、オークション会場から奪う。
第三に、オークション落札者から奪う、の三手法だ。
オークションしか想定がないのは、他に確実なエリクサーの在りかを知らないためだ。
もし、所有者と在りかを知っていたならば、この三年の間に奪いに行っていただろう。
けれども、オークション会場であれば、確実に現物が持ち込まれる。
問題は、いつどこでオークションが開催されるか、日付も場所も決まっていないこと。
少なくとも俺の知る限り、この三年間でエリクサーのオークションは開催されていなかった。この先、何十年も開催されない可能性もある。
実際のエリクサーの流通は、所有者と次の所有者の間で、秘密裏に相対で交渉が行われて、取引されているらしかった。
その所有者がわからないのだから、奪いに行くも何もない。
どうせ奪うという選択肢があるならば、購入費用を稼がなくても良さそうな気がするが、そもそもオークションに参加するにあたって、落札時の支払い能力を担保するため、莫大な供託金が必要となるのだ。
オークション参加者にならなければ、オークション会場に入れないのだから、奪うも何もない。
オークションには、それ相応の護衛がついているので、まったくの外から侵入して奪うというのは、俺でも無理だ。
会場の内側からでも難しいだろうことは、間違いない。
現役時代のヴェロニカクラスの護衛がついているとなると、ちょっと無理だ。
唯一、俺が知るエリクサーの確実な所有者は帝国だが、帝国の護衛集団を俺が一人で相手どるのは不可能だった。
それに帝国のどこの宝物庫に現物があるかまではわからない。
だが、この城の宝物庫にエリクサーがあるならば、万が一、買い取るには金が足りなくても奪い取れる。
何としてでも、俺は、ヴェロニカを治してみせる。
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