第121話 外

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 慌てて、兵たちが、動き出した。


 会議室代わりの大天幕だけではなく、城の各部署を代替するつもりの仮設施設として、様々な天幕を、中庭に張っていく。


 俺たちは、すっかり蚊帳の外だ。


 王と王子たちは、行ってしまった。


「細かいことは、お父様たちでお決めください」と、ラッキーとプラックは残った。

ティップとゲイルも、残っている。


 それと、例の侍女。


 王妃とストーンヘッド夫人が顔を見合わせた。


「どんだけ、会議が好きなのよ」


 王妃が、吐き捨てた。


 まったく、同感だ。


「会議が好きな人たちって、結局、決断力がないのよね」


 ストーンヘッド夫人だ。


 ミキの腹が、ぐうと鳴った。


 そういえば、王都への到着以来、茶菓子しか口にしていない。


 ミキは、真っ赤になって顔を伏せた。


「あたいも腹が減った」と、ラッキー。


「あたい?」


 王妃が、聞きとがめた。


「形から探索者になろうと思って」


 ラッキーは、てへ、と舌を出した。


「その話は、あとでじっくり聞かせてもらいます。すぐ何か用意出来る?」


 王妃は、例の侍女に声をかけた。


「申し訳ありません。すべて凍り付いてしまっており」


 侍女は、平謝りだ。


「そう。楽しみにしていたのに晩餐会も中止ね」


 王妃は、息を吐いた。


「ごめんなさい」とミキ。


「んーん。ミキちゃんは、全然悪くないわ。悪いのは、会議ばかりしてる、バカな男たち」


「いーわよ。外で食べてくる」


 ラッキーが言った。


「外?」


「屋台があるじゃない。城にいた時は、匂いだけで食べさせてもらえなかったから、一度、食べてみたかったのよ。今回は、絶対、食べるつもりで来たから、ちょうどいい」


「そんなの危ないじゃない」


 あはははは、と、ラッキーは大笑いした。


「おかあさま。ラティマーは、そういう生活を、もう十年もしています。何も危なくなんかありませんよ。街も歩きたいし。おかあさまも一緒に行きますか?」


「いや、それは」


 ティップが口を挟んだ。


「行きます」


 王妃は、即答した。


 ティップの発言は、無視された。


「え、ずるい」と、ストーンヘッド夫人。


「もちろん、母上もよろしければ」


 プラックが、自分の母親を誘った。


「じゃ、そのまま、うちへ行きましょう。みんな、今夜は、うちに泊まればいいわ」


 城は、がちがちに凍り付いていた。


 城での寝泊りは不可能だろう。


 よくて、天幕だ。


「あたしも泊めてもらえると思って良いのかしら?」と王妃。


「もちろんよ。男たちには、一晩中、会議でもさせとけば。それとも天幕に泊まりたい?」


「泊めて」


 ティップが、悲鳴を上げた。


「王妃、おやめください。外に出るのは危険です」


「ボッタクルがいるのに?」とラッキー。


 ティップは沈黙した。


「ボタニカルだ」と俺。


 ストーンブロック家の邸宅は、城から数ブロック先にあるらしい。


 城は、観光資源でもあるため、一目見ようという観光客が、周辺に多く集まってくる。


 もちろん、中には入れない。


 堀の外から、遠目に見るだけだ。


 そんな観光客を目当てにした食べ物の屋台が、城周辺のところどころに、いくつも並んでいた。


 ストーンヘッド邸へ向かう途中にも、あるらしい。


 俺たちは、露払いのティップを先頭に、城の通用門を通り、堀を渡って、敷地を出た。


 ティップ、ラッキー、プラック、王妃、ストーンヘッド夫人、ミキ、俺、侍女、ゲイルだ。


 その後ろに、『はいたつくん13号』がいる。荷車体型だ。


 ストーンヘッド夫人は、城まで馬車で来ていたが、馬車だけを先に返した。


 来客の受け入れ準備をするよう、家に連絡をさせると言っていた。


 王妃のための護衛は、特についてはいない。


 俺がいるから、不要という理屈らしい。


 俺は、ミキの護衛であって、王妃は関係ないのだが。


 まあ、ラティマーの判断なので、やれる範囲で従うだけだ。


 通用門の手前までやってきた王妃の護衛役たちが、王妃に、ついてくる必要はないと言われて、物凄く悲しそうな顔をしていた。


 仕事しなくてもよくなったのだから、そこは喜ぶべきところだろう。


 城を出て、一番最初に目についた屋台に、早速立ち寄る。


 肉の串焼きの屋台だった。


 何の肉かは不明だ。


 皆を代表して、ティップが注文をした。


 ティップは、兵装だ。


「お、兵隊さん、急にお城が氷に覆われたみたいですけど、あれって何なんすか?」


 おっさん店主が、ティップに気安く話しかけていた。


 ティップは、口を濁した。


 王妃が、耳ざとく聞きつけて、会話に割って入った。


「凍り付く瞬間見た? あたしの孫がやってくれたの」


「ちょ、王妃、ダメですよ、そんな話しちゃ」


 慌てて、止めるティップ。


「王妃?」


 店主が、声を上げた。


「あ!」と、ティップは口を塞いだが、もう遅い。


「え、王妃!」


 店主が、さらに大声を上げた。


 たちどころに、周辺の観光客や市民の知るところになった。


 わっ、と、近寄ってくる。


「あの馬鹿」


 ゲイルが、前に出た。


「はなれんか」


 一喝して、人々を押し返した。


 すぐに、ティップも、押し返しに参加する羽目になった。

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