第121話 外
14
慌てて、兵たちが、動き出した。
会議室代わりの大天幕だけではなく、城の各部署を代替するつもりの仮設施設として、様々な天幕を、中庭に張っていく。
俺たちは、すっかり蚊帳の外だ。
王と王子たちは、行ってしまった。
「細かいことは、お父様たちでお決めください」と、ラッキーとプラックは残った。
ティップとゲイルも、残っている。
それと、例の侍女。
王妃とストーンヘッド夫人が顔を見合わせた。
「どんだけ、会議が好きなのよ」
王妃が、吐き捨てた。
まったく、同感だ。
「会議が好きな人たちって、結局、決断力がないのよね」
ストーンヘッド夫人だ。
ミキの腹が、ぐうと鳴った。
そういえば、王都への到着以来、茶菓子しか口にしていない。
ミキは、真っ赤になって顔を伏せた。
「あたいも腹が減った」と、ラッキー。
「あたい?」
王妃が、聞きとがめた。
「形から探索者になろうと思って」
ラッキーは、てへ、と舌を出した。
「その話は、あとでじっくり聞かせてもらいます。すぐ何か用意出来る?」
王妃は、例の侍女に声をかけた。
「申し訳ありません。すべて凍り付いてしまっており」
侍女は、平謝りだ。
「そう。楽しみにしていたのに晩餐会も中止ね」
王妃は、息を吐いた。
「ごめんなさい」とミキ。
「んーん。ミキちゃんは、全然悪くないわ。悪いのは、会議ばかりしてる、バカな男たち」
「いーわよ。外で食べてくる」
ラッキーが言った。
「外?」
「屋台があるじゃない。城にいた時は、匂いだけで食べさせてもらえなかったから、一度、食べてみたかったのよ。今回は、絶対、食べるつもりで来たから、ちょうどいい」
「そんなの危ないじゃない」
あはははは、と、ラッキーは大笑いした。
「おかあさま。ラティマーは、そういう生活を、もう十年もしています。何も危なくなんかありませんよ。街も歩きたいし。おかあさまも一緒に行きますか?」
「いや、それは」
ティップが口を挟んだ。
「行きます」
王妃は、即答した。
ティップの発言は、無視された。
「え、ずるい」と、ストーンヘッド夫人。
「もちろん、母上もよろしければ」
プラックが、自分の母親を誘った。
「じゃ、そのまま、うちへ行きましょう。みんな、今夜は、うちに泊まればいいわ」
城は、がちがちに凍り付いていた。
城での寝泊りは不可能だろう。
よくて、天幕だ。
「あたしも泊めてもらえると思って良いのかしら?」と王妃。
「もちろんよ。男たちには、一晩中、会議でもさせとけば。それとも天幕に泊まりたい?」
「泊めて」
ティップが、悲鳴を上げた。
「王妃、おやめください。外に出るのは危険です」
「ボッタクルがいるのに?」とラッキー。
ティップは沈黙した。
「ボタニカルだ」と俺。
ストーンブロック家の邸宅は、城から数ブロック先にあるらしい。
城は、観光資源でもあるため、一目見ようという観光客が、周辺に多く集まってくる。
もちろん、中には入れない。
堀の外から、遠目に見るだけだ。
そんな観光客を目当てにした食べ物の屋台が、城周辺のところどころに、いくつも並んでいた。
ストーンヘッド邸へ向かう途中にも、あるらしい。
俺たちは、露払いのティップを先頭に、城の通用門を通り、堀を渡って、敷地を出た。
ティップ、ラッキー、プラック、王妃、ストーンヘッド夫人、ミキ、俺、侍女、ゲイルだ。
その後ろに、『はいたつくん13号』がいる。荷車体型だ。
ストーンヘッド夫人は、城まで馬車で来ていたが、馬車だけを先に返した。
来客の受け入れ準備をするよう、家に連絡をさせると言っていた。
王妃のための護衛は、特についてはいない。
俺がいるから、不要という理屈らしい。
俺は、ミキの護衛であって、王妃は関係ないのだが。
まあ、ラティマーの判断なので、やれる範囲で従うだけだ。
通用門の手前までやってきた王妃の護衛役たちが、王妃に、ついてくる必要はないと言われて、物凄く悲しそうな顔をしていた。
仕事しなくてもよくなったのだから、そこは喜ぶべきところだろう。
城を出て、一番最初に目についた屋台に、早速立ち寄る。
肉の串焼きの屋台だった。
何の肉かは不明だ。
皆を代表して、ティップが注文をした。
ティップは、兵装だ。
「お、兵隊さん、急にお城が氷に覆われたみたいですけど、あれって何なんすか?」
おっさん店主が、ティップに気安く話しかけていた。
ティップは、口を濁した。
王妃が、耳ざとく聞きつけて、会話に割って入った。
「凍り付く瞬間見た? あたしの孫がやってくれたの」
「ちょ、王妃、ダメですよ、そんな話しちゃ」
慌てて、止めるティップ。
「王妃?」
店主が、声を上げた。
「あ!」と、ティップは口を塞いだが、もう遅い。
「え、王妃!」
店主が、さらに大声を上げた。
たちどころに、周辺の観光客や市民の知るところになった。
わっ、と、近寄ってくる。
「あの馬鹿」
ゲイルが、前に出た。
「はなれんか」
一喝して、人々を押し返した。
すぐに、ティップも、押し返しに参加する羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます