第118話 国防会議
10
「ボッタクル、もういいわ」
ラッキーが、俺を止めた。
「ボタニカルだ」
俺は、いらなくなった木刀を地面に捨てた。
ラッキーたちが、倒れている兵たちの間を歩いて近づいてくる。
ミキの後ろから、『はいたつくん13号』もついてきていた。
ラッキーが王の前に立つ。
「ラティマー・セロ・オルニトレムス。只今、戻りました」
「凛々しくなったな」
「探索者
王は、深い息を吐いた。
「『如き』などと呼べん。化け物の類だ」
「あら。では、わたしも化け物の仲間入りですわね。ここまでのことはできませんが」
ラッキーは、周辺で呻く兵たちを見回した。
城の医薬庫が解放され、戦闘に参加していなかった兵により、負傷兵の治療が進められていた。
「似たようなことができるのか?」
「ブロック・ストーンヘッドと二人でならば」
王は、さらに深く息を吐いた。
プラックに視線をやる。
プラックも帰還の挨拶をした。
「ブロック・ストーンヘッド。只今、戻りました」
「大儀であった。おぬしには、感謝しかない」
「ありがたき幸せ」
それから、王は、ミキに顔を向けて微笑んだ。
「ミキです。ラティマーとブロックの娘です」
「お前のおじいちゃんだ」
王は、両手を広げて、ミキを招いた。
ミキは、王にハグされた。
「おじいちゃまに、お土産を持ってきました。ミキが作ったポーションです。おじさまから、おじいちゃまは、お腰が悪いという話を聞きました。ぜひ、使ってください」
俺は、『はいたつくん13号』からポーションを一瓶取り出し、ミキに手渡した。
王は、躊躇なく、瓶の栓を抜くと、ポーションを口にした。
「おう、治ったぞ」
わざとらしい王の言葉だったが、ミキは、嬉しそうだ。
「まだ、あるのか?」
「持てるだけ持ってきました」
俺は、『はいたつくん13号』の蓋を、全開にした。
中に納められた、沢山のポーションが露わになった。
「儂より、今すぐに必要としている他の者に、分けてあげても構わんかな?」
「はい。また、つくるから大丈夫です」
「ありがとう。儂は、これから、また会議をしなくてはならなくなってな。その間、ミキは、おばあちゃまのお相手をしていてくれないか。ラティマーとブロックも会議に出席せよ」
11
城の会議室に、王以下、主だった者たちが集まっていた。
王、ゴンベッサ、第二王子、第三王子、近衛隊長、警備隊長、第一王子護衛隊長、第二王子護衛隊長、第三王子護衛隊長、ラティマー、ブロックだ。
議題は、今後の国防について。
ラティマーとブロックを除いて、皆、頭を抱えていた。
「何だ、あれは? 迷宮都市の探索者とは、皆、あのような化け物なのか?」
王が訊いた。
「引退したとはいえ、ボッタクルは、地下迷宮の最高深度到達者の一人ですから。あそこまでの者は、他に何人もいません」
ラティマーが答えた。
「だが、いるのだな?」
「はい」
近衛隊長が息を吐いた。
「我々の認識が誤っていたな。『探索者如き』などと侮っている場合ではなかった。王国最大の脅威は、国境ではなく、国内にあった。もし、そんな奴らが牙をむいたら、我々は国を守れん」
「自分も、城の兵のあまりの弱さに驚きました」
ブロックが言い切った。
「私もよ」と、ラティマー。
「あれじゃ、せいぜいダンジョンの地下四階までしか降りられないわ。
「お主たちは何階なのだ?」
王が訊いた。
「公式記録上は、地下九階。ちなみに、ボッタクルは、地下二十二階よ」
「ラティマーとブロックは、二人ならば、百人立ち切りを抜けるそうです」
ゴンベッサが、情報を知らない者に対して、補足をした。
「無傷では無理よ。ボッタクルみたいにはいかないわ」
「でも、姉上は、彼をよく従えておられるようでした」
第二王子だ。
「従えてはないわ。友人だからね。お願いして、手伝ってもらっているの」
「曲がりなりにも十年住んでいるわけだからな。濃い人間関係もあろう。少なくとも、儂の子で、現時点で一番強いのはラティマーだな」
王がまとめた。
「確認するが、ラティマー。おまえ、王になる気はないか?」
室内に緊張が充満した。
ブロックすら、息を呑んでいた。
「微塵もないわ」
ラティマーの言葉に、全員が息を吐く。
「はい、と言われれば、誰も拒めはしないところだったが、否で良かった。今後、どうする気だ?」
「ストーンヘッド家に降嫁したいところだけれど、そうすると向こうが揉めそうね」
「ブロック派が立ち上がるだろう」
「勘弁してくれ」
ブロックが、頭を振った。
「兄上に申し訳が立たない」
「よね。じゃ、今のままで。あたしたちは、これまでどおり迷宮都市で暮らすわ」
ラティマーが結論を出した。
むう、と、王が顔を曇らせた。
「今まで自治にかまけて、あの地に目を向けていなさ過ぎたな」
王の言葉を皮切りに、議論が始まった。
「カルト寺院の話では、先般、街を囲む領主が併合を試みて、失敗しております」
「なぜ、併合を? 探索者の力を取り込もうとしたか?」
「いっそ、迷宮都市の自治を取り上げるわけにはいきませぬか?」
「探索者たちが、反乱を起こしたらどうする?」
「周辺ぐらい直轄領とした方がよいのでは? 領主と結託されでもしたら、面倒です」
「周辺には、街ができつつあるそうです。寺院が炊き出しを行っているとか」
「あ、それ。私が焚きつけたことになっているみたい」
「思うに、あそここそ辺境ですな。本当の最前線です」
「隣国の兵など、先ほどの立ち切りに比べれば、物の数ではありません」
「迷宮探索を行えば、誰でも強くなれるのか?」
「生き残れればね」
「万一、迷宮から魔物が溢れた際を考えると、我が軍の兵も常駐させるべきかと」
「同時に、迷宮探索を行わせて、鍛えなおすと致しましょう」
「一番強い兵を一番強い敵に当てるのが常道だな」
「では、今の領主から領地を召し上げ、他の直轄領と交換いたしましょう」
「辺境伯領として仮設街を早急に発展させる必要が」
「街の名は何とする?」
「やはり、ラティメリアでは?」
「何やて?」
「あ、儂、この機会に退位するわ。誰かが、ラティマーを担ぎだそうとしたら面倒だ。さっさと後継を決めてしまおう」
「となると、もちろん、私も引退ですな。暇ができるので、迷宮にでも潜りますかな」
「お、儂も行く」
「軍関係は全面的に再編だな」
「ストーンヘッド家への降嫁ではなく、ブロックが辺境伯家へ婿に入れ」
「ラティマー・セロ・ラティメリア辺境伯爵万歳」
「えー」
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