第118話 国防会議

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「ボッタクル、もういいわ」


 ラッキーが、俺を止めた。


「ボタニカルだ」


 俺は、いらなくなった木刀を地面に捨てた。


 ラッキーたちが、倒れている兵たちの間を歩いて近づいてくる。


 ミキの後ろから、『はいたつくん13号』もついてきていた。


 ラッキーが王の前に立つ。


「ラティマー・セロ・オルニトレムス。只今、戻りました」


「凛々しくなったな」


「探索者如き・・が、存外、性に合っていたみたいです」


 王は、深い息を吐いた。


「『如き』などと呼べん。化け物の類だ」


「あら。では、わたしも化け物の仲間入りですわね。ここまでのことはできませんが」


 ラッキーは、周辺で呻く兵たちを見回した。


 城の医薬庫が解放され、戦闘に参加していなかった兵により、負傷兵の治療が進められていた。


「似たようなことができるのか?」


「ブロック・ストーンヘッドと二人でならば」


 王は、さらに深く息を吐いた。


 プラックに視線をやる。


 プラックも帰還の挨拶をした。


「ブロック・ストーンヘッド。只今、戻りました」


「大儀であった。おぬしには、感謝しかない」


「ありがたき幸せ」


 それから、王は、ミキに顔を向けて微笑んだ。


「ミキです。ラティマーとブロックの娘です」


「お前のおじいちゃんだ」


 王は、両手を広げて、ミキを招いた。


 ミキは、王にハグされた。


「おじいちゃまに、お土産を持ってきました。ミキが作ったポーションです。おじさまから、おじいちゃまは、お腰が悪いという話を聞きました。ぜひ、使ってください」


 俺は、『はいたつくん13号』からポーションを一瓶取り出し、ミキに手渡した。


 王は、躊躇なく、瓶の栓を抜くと、ポーションを口にした。


「おう、治ったぞ」


 わざとらしい王の言葉だったが、ミキは、嬉しそうだ。


「まだ、あるのか?」


「持てるだけ持ってきました」


 俺は、『はいたつくん13号』の蓋を、全開にした。


 中に納められた、沢山のポーションが露わになった。


「儂より、今すぐに必要としている他の者に、分けてあげても構わんかな?」


「はい。また、つくるから大丈夫です」


「ありがとう。儂は、これから、また会議をしなくてはならなくなってな。その間、ミキは、おばあちゃまのお相手をしていてくれないか。ラティマーとブロックも会議に出席せよ」


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 城の会議室に、王以下、主だった者たちが集まっていた。


 王、ゴンベッサ、第二王子、第三王子、近衛隊長、警備隊長、第一王子護衛隊長、第二王子護衛隊長、第三王子護衛隊長、ラティマー、ブロックだ。


 議題は、今後の国防について。


 ラティマーとブロックを除いて、皆、頭を抱えていた。


「何だ、あれは? 迷宮都市の探索者とは、皆、あのような化け物なのか?」


 王が訊いた。


「引退したとはいえ、ボッタクルは、地下迷宮の最高深度到達者の一人ですから。あそこまでの者は、他に何人もいません」


 ラティマーが答えた。


「だが、いるのだな?」


「はい」


 近衛隊長が息を吐いた。


「我々の認識が誤っていたな。『探索者如き』などと侮っている場合ではなかった。王国最大の脅威は、国境ではなく、国内にあった。もし、そんな奴らが牙をむいたら、我々は国を守れん」


「自分も、城の兵のあまりの弱さに驚きました」


 ブロックが言い切った。


「私もよ」と、ラティマー。


「あれじゃ、せいぜいダンジョンの地下四階までしか降りられないわ。初級探索者ひとなみじょうというところね」


「お主たちは何階なのだ?」


 王が訊いた。


「公式記録上は、地下九階。ちなみに、ボッタクルは、地下二十二階よ」


「ラティマーとブロックは、二人ならば、百人立ち切りを抜けるそうです」


 ゴンベッサが、情報を知らない者に対して、補足をした。


「無傷では無理よ。ボッタクルみたいにはいかないわ」


「でも、姉上は、彼をよく従えておられるようでした」


 第二王子だ。


「従えてはないわ。友人だからね。お願いして、手伝ってもらっているの」


「曲がりなりにも十年住んでいるわけだからな。濃い人間関係もあろう。少なくとも、儂の子で、現時点で一番強いのはラティマーだな」


 王がまとめた。


「確認するが、ラティマー。おまえ、王になる気はないか?」


 室内に緊張が充満した。


 ブロックすら、息を呑んでいた。


「微塵もないわ」


 ラティマーの言葉に、全員が息を吐く。


「はい、と言われれば、誰も拒めはしないところだったが、否で良かった。今後、どうする気だ?」


「ストーンヘッド家に降嫁したいところだけれど、そうすると向こうが揉めそうね」


「ブロック派が立ち上がるだろう」


「勘弁してくれ」


 ブロックが、頭を振った。


「兄上に申し訳が立たない」


「よね。じゃ、今のままで。あたしたちは、これまでどおり迷宮都市で暮らすわ」


 ラティマーが結論を出した。


 むう、と、王が顔を曇らせた。


「今まで自治にかまけて、あの地に目を向けていなさ過ぎたな」


 王の言葉を皮切りに、議論が始まった。


「カルト寺院の話では、先般、街を囲む領主が併合を試みて、失敗しております」


「なぜ、併合を? 探索者の力を取り込もうとしたか?」


「いっそ、迷宮都市の自治を取り上げるわけにはいきませぬか?」


「探索者たちが、反乱を起こしたらどうする?」


「周辺ぐらい直轄領とした方がよいのでは? 領主と結託されでもしたら、面倒です」


「周辺には、街ができつつあるそうです。寺院が炊き出しを行っているとか」


「あ、それ。私が焚きつけたことになっているみたい」


「思うに、あそここそ辺境ですな。本当の最前線です」


「隣国の兵など、先ほどの立ち切りに比べれば、物の数ではありません」


「迷宮探索を行えば、誰でも強くなれるのか?」


「生き残れればね」


「万一、迷宮から魔物が溢れた際を考えると、我が軍の兵も常駐させるべきかと」


「同時に、迷宮探索を行わせて、鍛えなおすと致しましょう」


「一番強い兵を一番強い敵に当てるのが常道だな」


「では、今の領主から領地を召し上げ、他の直轄領と交換いたしましょう」


「辺境伯領として仮設街を早急に発展させる必要が」


「街の名は何とする?」


「やはり、ラティメリアでは?」


「何やて?」


「あ、儂、この機会に退位するわ。誰かが、ラティマーを担ぎだそうとしたら面倒だ。さっさと後継を決めてしまおう」


「となると、もちろん、私も引退ですな。暇ができるので、迷宮にでも潜りますかな」


「お、儂も行く」


「軍関係は全面的に再編だな」


「ストーンヘッド家への降嫁ではなく、ブロックが辺境伯家へ婿に入れ」


「ラティマー・セロ・ラティメリア辺境伯爵万歳」


「えー」

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