第112話 帰城
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馬車は、ゴンベッサ王子護衛隊に囲まれたまま、城の正門を通過し、城の正面玄関の前に到着した。
正面玄関前は、馬車が転回できるようロータリーとなっており、多数の兵士が集まっても問題のない広さがあった。
俺は、馬車の中から、『
一般的な警戒の気配は感じたが、個人を特定しての悪意や殺意は、特に感じない。
停車した馬車を囲む王子護衛隊のさらに外を、城の警備兵たちが取り囲んだ。
王子護衛隊は、全員下馬した。
覇気がある城の警備兵たちに対して、王子護衛隊の気配は、沈んだように重苦しかった。
おそらく、強行軍に疲れたのだろう。
城の警備兵たちの中から警備隊長らしき男が現れた。
王子護衛隊の隊長が、自分の馬の手綱を近くの者に渡して、前に出た。
二人は言葉を交わした。
「ゴンベッサ・イル・オルニトレムス第一王子、ご
「うむ。これより、場内警備兵にて護衛を引き継ぐ」
そのような儀式的なやりとりだ。
二人を通すために、王子護衛隊の列が割れ、警備隊長と護衛隊長が歩いて馬車に近づいてきた。
途中で、こそっと警備隊長が護衛隊長に耳打ちをした。
「どうした? みんな、まるで敗残兵のように気が沈んでいるぞ。急に飛び出した王子のお守りは、そんな疲れたのか?」
ははは、と、護衛隊長は、乾いた笑い声でごまかした。
そりゃ、立場上、王子の悪口は、言えないだろう。
ティップとゲイルが、二人の前に出た。
ティップとゲイルは、王子護衛隊の中でも、王子を直近で守る最終の護衛役である。
規律正しい王子護衛隊の一員ではあるが、時に、個人の判断で、王子を守る独自の動きを取ることが認められている存在だという。要するに、選りすぐりであるらしい。
「扉、開きます」
ティップにより馬車の扉が開けられた。
ゴンベッサが降り、ラッキーが降り、プラックが降り、ミキが降りた。
ラッキーたちの素性については、既に先触れを通して、警備隊長に伝わっているらしい。
警備隊長は、ゴンベッサに対するのと同じ、恭しい態度を崩さなかった。
年齢的に、警備隊長は、城にいた当時のラッキーとプラックの顔を知っているのかもしれない。
最後に俺だ。
警備隊長は、馬車を降りる俺に対して、おや、という顔をした。
先触れから話が伝わっていなかったのか、知らない相手だったためだろう。
俺も、警備隊長の顔は知らなかったから、お互い様だ。
「彼は?」
警備隊長は、護衛隊長に囁いた。
護衛隊長も、警備隊長に囁き返す。
「姫の御息女の
警備隊長は、何だか不思議そうな顔をした。
警備隊長、護衛隊長、ティップ、ゴンベッサ、ゲイル、ラッキー、プラック、ミキ、俺の順で、王子護衛隊の列が別れてできた道の中を、城へ歩いた。
俺の後に、『はいたつくん13号』が、ちょこちょこと続いていた。
警備隊長は、王子護衛隊と城内警備隊の列の境い目で、一度止まった。
「では」
護衛隊長が、王子に敬礼をした。
「ご苦労だった」
護衛隊長以下王子護衛隊は、その場に留まった。
ただし、ティップとゲイルは別だ。二人は、常に、王子の傍らを離れない。
続いて、城内警備兵の列の中を歩く。
警備兵たちの視線は、俺の後ろの『はいたつくん13号』にくぎ付けだった。
ゴーレムが、物珍しいのだろう。
警備隊長は、今度は城へ登る階段の手前で止まった。
警備隊長が、ティップに『はいたつくん13号』を目で示しながら、囁いた。
「どうするつもりだ?」
テイップが、俺のところまで、慌てて飛んでくる。
「台車は、馬車庫へ移動したいのですが」
もしかして、階段を登れないという心配か?
俺は、『はいたつくん13号』に指示を出した。
「『はいたつくん13号』、起き上がれ。階段を上るぞ」
『はいたつくん13号』が、人型形態に変化した。
後肢で前輪を押せるようになったので、階段も登れる。
必要ならば、ぎらりとしたかぎ爪で、掴まり歩きもできる。
出発前に、入念にかぎ爪を研いできた。
大抵の剣相手に、切れ味で負ける気はしない。
起き上がっていく『はいたつくん13号』の動きに、プラックファミリー以外の面々が、驚いていた。
「これで問題ない」
「いや、あの、その」
なぜか、ティップは、しどろもどろだ。
そんなに驚かなくても。
「おじいちゃまに、ミキのポーション持っていけないの?」
ミキが、心配そうな声を出して、ティップを見上げた。
「持っていけるよ」
ゴンベッサが、優しい声で、ミキに応えた。
「わたしがゴーレムの同行を許す」
ゴンベッサは、警備隊長に頷いた。
「しかし」
ゴンベッサが、警備隊長を睨んだ。
「承知しました」と警備隊長。
俺は、『はいたつくん13号』に指示を出した。
「『はいたつくん13号』、ミキに付き従え」
ちょこまかと、『はいたつくん13号』が動いて、俺の前に出た。
ミキの背後につく。
「よかった」と、ミキが胸をなでおろした。
「行こう」
ゴンベッサ王子が、階段を上りだした。
慌てて、ティップが王子の元へ走る。
ゲイル、ラッキー、プラック、ミキ、『はいたつくん13号』と続いた。
一瞬、心配して見守ったが、『はいたつくん13号』は、問題なく、階段を上っていく。
俺は、『はいたつくん13号』の後に続こうとした。
俺の胸の前に、俺を通せんぼするように、その場に残っていた警備隊長の手が差し出された。
「城内では君の護衛は必要ない」
警備隊長は、俺を睨みつけていた。
護衛対象であるミキから、護衛である俺を引き離す行為。
明確な敵対行為だ。
俺は、目の前に差し出された、警備隊長の腕をへし折った。
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