エピソード7 探索者の流儀
第110話 護衛依頼
1
約二週間振りとなる地下迷宮から店に戻ると、珍しくヴェロニカが頭を抱えていた。
「ちょっと、マルくん!」
やや、棘のある声で、俺に訊いた。
「王都で何やってきたの?」
何だろう?
特に思い当たるような、怒られる節はない。
ミキの護衛として王都に行って、無事に連れて帰って来ただけだ。
ただし、俺が、ピンときていないだけで、何かやらかしている可能性もある。
何しろ王宮での立ち居振る舞いだとか慣習だとか、そのあたりを、俺は、良く知らない。
俺は、出発まで記憶を遡らせてから、一連の行程を、当初からヴェロニカに語って聞かせた。
2
『
ラッキーの兄である王子が、自ら、迎えに来たそうだ。
俺は、ヴェロニカから、ラッキーの素性が、この国の姫であるという話は聞かされていた。プラックは、ラッキーを護衛する貴族だった。
そのラッキーから、俺は、ミキの護衛を依頼された。
道中、どのような危険があるかわからないため、とにかく、あらゆる危険からミキを守ってほしい、という依頼内容だった。
なんでも、王宮は、色々、
俺も、
期限は未定だ。
概ね、半月程度ではなかろうかという想定である。
ラッキーの実家とプラックの実家に行くとのことだった。
俺とヴェロニカ、ラッキー、プラック、ミキの五人は、お店の厨房兼調剤室で打ち合わせを行っていた。
なぜか、壁に焼け焦げがある。後で、直さないと。
他には、王国のゴンベッサ王子と、王子の二人の側近、ティップとゲイルが同席していた。
側近二人は、背後に王子を庇うように、悲壮な顔をして座っていた。
どうしたというのだろう?
不幸な行き違いから、店を囲む王子の護衛隊を壊滅させてしまったが、既に
もう、俺が、彼らに攻撃を加える必要はない。
安心してもらっていいはずだ。
そのうえ、彼らは、お客さんだ。
王子は、俺が倒してしまった部下たちを癒すために、うちの店のポーションを全て買い上げるという、太っ腹なところを見せてくれた。
何でも、王子の護衛隊が満身創痍の状態のままだと、王国の
だとしたら、彼らも三分の一ルールを徹底するべきだ。
人数に対して、持ち合わせのポーションの数が少なすぎた。
せめて満身創痍から全快に持ち込める程度のポーションを、人数分は携帯するべきだ。
魔法による回復ができる人員も、もっと同行させたほうがいい。
不躾な俺の進言に対して、王子は、検討を約束してくれた。
お客さんの身の安全を確保するために、うちの店はある。
少しでも、役に立てれば、何よりだ。
「想定される危険の内容は?」
俺は、ラッキーに確認した。
「処刑ね。あたいとプラック、二人して断頭台に並べられるの。それよりは、監禁のほうがありえるかな。もし、あたいたちが捕まえられたら、ミキを連れて逃げて」
「その心配はない。親父は反省している」
ゴンベッサ王子だ。
「ゴン
王家の難しい話は、俺には興味ない。
「わざわざ、ミキを連れて、そんなとこ行かなくてもいいんじゃないか」
「できるものならね。でも、そうもいかないのよ」
俺は、口を噤んだ。事情は、人それぞれだ。
ただ、少なからず、ミキはショックを受けたようだ。
両親に処刑や監禁の恐れがある場所に行くと聞いて、何も感じないわけがない。
危険は、ミキ自身にだって、あるのだし。
だからこその護衛なのだろうが。
念のため、俺は確認した。
「捕らえられた場合、おまえらは助けなくて良いのか? ミキさえ連れて、ここへ戻れば?」
「駄目です」
ミキが言った。
「そもそも捕らえられないようにしてください」
確かに。
「あと、あり得る危険は暗殺かしら」
ラッキーが続けた。
「そっちは専門だから心配ない。心配なのは、どこまでならやっていいかだ。すまないが、俺の専門は守る側じゃない」
「殺しさえしなきゃ何やってもいいわよ。倒した後の対応は、ラッキーに確認して」
ヴェロニカが請け負った。
「ま、直接、襲ってくるような相手であれば、俺もラッキーも対応できる。ミキ優先に動いてくれて問題ない」
プラックだ。
「そのくらいなら、何とかなるか」
俺は答えた。
「そんなとこでどう?」
ヴェロニカが、ゴンベッサ王子に確認した。
「護衛として、腕は間違いないと思うのだけど。やらかした時は、フォローしてもらって良いかしら?」
「さっきみたいな場合だな。承知した」
ゴンベッサが、頷いた。
すでに俺は何かやらかしているようだ。
何だろう?
妹のため、護衛の代金は王子が払ってくれるらしい。
出発までに、破格の報酬を前金でもらう手筈になっている。
予定の日数を超過した場合は、日割りで追加料金も支払ってくれる約束になっていた。
逆に、日数に余りが生じた場合でも、返金は行わない。
食事も宿泊も向こう持ち。
悪くない条件だ。
現役時代、俺も、こういうクライアントに恵まれたかった。
「この二人を君につける。使ってやってくれ」
引き攣った顔で、護衛二人が、俺に笑った。
「あんたたち、頼むよ」
ヴェロニカが、念を押した。
「「はい、姐さん」」
あ、こいつら、もう舎弟になったんだ。
というのが、出発に先立つ、やりとりだった。
ここまでは、ヴェロニカも立ち会っていたから、問題はないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます