第101話 ゆらり
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街の外の領主のお膝元にも、カルト寺院は建っている。
そちらのカルト寺院から、こちらのカルト寺院に、問い合わせが来たそうだ。
例の秘書役が、あたしに教えに来てくれた。
『質問:おたくが壁の外に街を整備したのは王家の意向って聞いたけれど、本当?』
『回答:ラティマー・セロ・オルニトレムス様の意向だよ。ドヤ』
そんなやりとりが交わされたらしい。
あたしは、事前に、付け届けのお礼として、ぜひ会わせたい方がいると、大司教にラッキー、ではなくて、ラティマー・セロ・オルニトレムス様を紹介していた。
外の領主からクレームがついた場合、探索者ギルドとは関係ない話だとして、カルト寺院に矢面に立ってもらう必要があるからだ。
あたしがカルト寺院に炊き出しと仮設住宅を頼んだ本当の理由は、難民をうまく活用して国力を底上げしたいという、ラティマー様の意向を受けたためだった、と説明をした。
戦乱の世だ。
何処の国も、流れてくる難民対策には苦慮していた。
食わせられないと、国が食い潰されるからだ。
行く先々を食い尽くすという、
だからこそ、この街に難民を集中させようという、エチーゴの目論見が成立した。
だが、人は財産だ。
逆に、難民を食わせられれば、飢餓を乗り越えた後は、国力になるものと見込まれた。
幸い、『拙者の回復肉煮込み』により食わせられる目途は付いたが、探索者ギルドは、大っぴらに街の外には手を出せないので、カルト寺院に
もちろん、後付けの嘘だけど。
大司教は、いたく感激した。
菓子折り一つで、王族とお近づきになれるなんて、安いもんだろう。
もし、ラティマーが偽物だとしても、やっぱり菓子折り一つで済むなら、授業料としても安いもんだ。
こんな場末の街の寺院の大司教如きでは、王族と顔を合わせる機会などない。
本物ならば、ラティマーが、国を出奔していようが問題ではない。
いつ、何がひっくり返るかなんて、誰もわからない。
両天秤なんて当然だ。
縁は、あるならば、あるだけいい。
大司教の付け届け先に、ラッキーが追加された。
ラッキーも、おいしいお菓子が定期的に食べられて万々歳。
ウィン・ウィンだ。
向こうのカルト寺院から、領主様に報告が行ったらしい。
『あっちの裏には、ラティマー・セロ・オルニトレムス様がついているみたいです』
『
『そちらに侵略の意思はなかったと確認した。これまでどおり、
領主様は、
出奔した相手だからと逆らって、王家に弓を向けたと判断されてはたまらない。
これ以上、藪をつつかないよう、賢明にも現状維持を選択された。
もちろん、王都の王家になど確認しない。
偽物のラティマーである可能性もあるが、追求しない。
アイアンとしても、一安心。
あたしたちも一安心。
この話は、これでおしまい。
だったら、良かったんだけどねぇ。
関係者が増えると、その分、口が増える。
人の口に戸は立てられないのだ。
向こうのカルト寺院は、王都のカルト寺院にも報告をあげていた。
『ラティマー・セロ・オルニトレムス様の消息が判明しました』
王都のカルト寺院は、速やかに、王家に耳打ちした。
何のことはない。
ラティマー姫は、国外に逃げたと見せかけて、名を変えて、国内の迷宮都市に潜んでいたのだ。
カルト寺院が耳打ちした王家のお方は、ゴンベッサ・イル・オルニトレムス。
オルニトレムス王国の第一王子であり、次期国王だ。
ラティマーの三歳上の兄である。
王都のカルト寺院の大司教ともなれば、さすがに王家とも連絡を取り合える。
ゴンベッサ王子は、今、あたしの目の前に立っていた。
場所は、うちの厨房兼調剤室。
ラッキーとプラック、ミキもこの場にいる。
「貴様っ!」
激高した王子が、プラックを殴りつけた。
吹き飛ばされたプラックにぶつかられて、鍋を煮込みつつ、中をかき回していたゴーレムたちと鍋が壊滅した。
竈の火が、ちろりと壁を焼く。
ゆらりと、燃え上がった。
おいおい。
なぜ、こうなった?
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