第70話 魔物肉
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あたしは、アイアンを店に呼ぶと、すぐに恒久的な肉の手配を依頼した。
毎日、大勢の探索者が地下に潜っている。
探索者ギルドの常設依頼として、食用にできる魔物肉の持ち帰りを追加してもらうのだ。
「常設依頼に魔物肉の確保を追加するのは構わないが、誰もやらんぞ」
アイアンは、協力を約束してくれたが、実効性に否定的だ。
「魔物肉は、持ち運びが面倒で、ギルドの買い上げ金額が安い。しかも、血と肉の臭いで魔物が寄ってくる。いいとこなしの依頼だ」
「確かに」
あたしは、唸った。
毛や皮は、加工素材の材料として使い道があるので、物によっては高く売れる。
骨や牙、鱗も同様だ。
だが、肉は、地上での需要は、ほぼ、なかった。
迷宮に何泊もするのであれば、食料節約のため口にする場合もあるが、地上に戻ってまで食べたいものではない。
そもそも、生肉は、持ち運んでいる間に痛むので、持ち帰ったところで、食べられない。
運ぶだけ無駄だった。
だから、普通は地下で解体をして、肉は捨ててくる。
運べる荷物の総量には限界があるからだ。
通常、探索者は、戦利品を持てるだけ手に入れるか、回復手段に三分の一以上の減少が生じたら帰還する。
荷物が運べる限界状態で帰還している途中に、もし、より金になる戦利品を手に入れたら、安い荷物を捨て、高価な戦利品と入れ替える。
重たくて、
まして、血と肉の臭いが、他の魔物を呼び寄せるだなんて、もはや、呪いのアイテムだ。
帰路は、極力魔物には遭いたくない。
生肉を持ち歩くのなんか、まっぴらだった。
誰もやらないという、アイアンの指摘ももっともである。
探索者たちをその気にさせるためには、問題点をクリアにしなければならないだろう。
「ギルドで高く買い上げなさい」
「アホか。普通の食材を買うわ」
むう。おっしゃるとおり。
「『はいたつくん』に自動で運ばせたらどうだろう? 各階に、空の『はいたつくん』を待機させて、どうせ捨てるつもりの魔物肉を入れてもらうの。夜になったら帰って来させる」
「各階にまではいらんだろ。ましな魔物肉が獲れる階だけで十分だ。地下四階の
「じゃあ、地下四階か」
「だとしても、現実的じゃないな。朝、狩られた肉が、夜まで『はいたつくん』の中に置かれていたら、別の魔物か、何より虫に食われちまうだろう。すぐ空っぽだ」
ダンジョン内では、毎日、物凄い数の魔物が倒されているはずだが、置き去りにされた魔物の死体が、翌日、同じ場所に残っている割合は少ない。
魔物に、どこか別の場所に運ばれている可能性もあったが、むしろ、ダンジョン内に生息する無数の虫が寄ってたかって、あっという間に食べつくしてしまっていた。
「肉を入れたら、すぐ蓋をしてもらうとか」
「蓋の開け閉め以前に、『はいたつくん』が、目の前にあるならともかく、わざわざ運んでまで、入れてくれるとは思えんな。十メートル置きにでも、『はいたつくん』が並んでいるならつきあうだろうが」
「毎度あり」
「ギルドは、『救急くん』だけで十分だ。そもそも、
「なのよねえ」
あたしは、ぼやいた。
「何か、マルくんの仕事が増えちゃってさぁ、一匹二匹の魔物なら、配達の帰りに取ってきてもらうんだけど」、
「ギルドは、肉なしで構わんぞ。ポーションの搾りかすだけでも十分だ」
「それだとシェフが納得してくれないのよ。試しに魔物肉を入れたバージョンも作ったら、そっちのほうがおいしいの。拙者の監修した料理で妥協はできん。将来の店の評判に関わる、って」
「拙者?」
「しんちゃん、引退したら小料理屋開きたいみたいなのよねぇ。レシピを見て、最後の残飯場の人がつくれるようになればすむ話なんだけれど、タイミングのコツがあるみたいで、しばらくは、しんちゃんに実地で監督してもらわないと駄目みたい。あたしだって、どうせなら
アイアンは、渋い顔をした。
「だとしても、魔物肉を大量に高く買い上げる予算など、ギルドにはないぞ」
「金がないなら人手を出しなさいよ。何のために現役探索者理事が四十人もいるの! 六人編成なら週一交代で回せるじゃない」
あたしは、アイアンを焚きつけた。
「引退したとはいえ、あんただって、ほぼ現役でしょ。率先して動いて見せないと、誰もついてきてくれないわよ。」
「まじか」
アイアンは、ぼやいた。
結局、あたしに押し切られる形で、魔物肉は、現役探索者理事プラス理事長であるギルドマスターのアイアンが、持ち回りで確保することとした。近々、臨時理事会で提案される。
もちろん、自分たちの探索で得た魔物肉を、捨てずに持ち帰ってもらうのでも構わない。
理事クラスの探索者たちであれば、ほぼ、どこのパーティーも、何らかの『はいたつくん』を使ってくれている。持ち運びに問題はないだろう。
ただし、痛んでしまってはいけないので、確保後、すぐに凍結呪文で氷漬けにして運ぶよう厳命した。
頑丈な探索者であれば、腐った肉を食べても死にはしないかもしれないが、難民上がりの痩せこけた体の素人探索者たちでは、食中毒になったら死んでしまう可能性がある。
万一、パーティーに凍結呪文の使い手がいない場合は、ボタニカル商店で、あたしお手製の
今日も、商売繁盛だ。
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