第64話 新会長
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俺と『鉄塊』が、簀巻きにした『救急くん』破壊パーティーを、理事会会場に運び込んだのは、そんな折だった。
「ちわぁ。配達です」
最近、ゴーレム屋しかしていなかったので、久しぶりの配達業務だ。
当初の予定では、ここからエチーゴが『救急くん』破壊の黒幕であるという事実を明らかにしていき、探索者ギルドから、エチーゴを排除しようという手筈であった。
のだけれども、多分、ドヤ顔で部屋に入った俺たちを迎えたのは、間の悪い人を憐れむような痛い視線と、「ああ、ご苦労様」という、ヴェロニカの気のない言葉だった。
「ごめんねぇ。そのくだり、もう終わっちゃったのよ」
しゅんとする俺たちを尻目に、探索者ギルドの臨時理事会は滞りなく進められ、各
とはいえ、通常は、各会とも自分たちの会長を推薦するため、実際は何も変わらない。
エチーゴみたいな特殊事例を排除するための、予防措置だ。
臨時理事会が閉会し、暫時休憩となっていた全店長会の総会が、オブザーバーとして探索者ギルドの全理事参加の下、再開され、ヨロッヅ・ヤオが後任会長に選出された。
エチーゴ屋系列の各店舗の店長たちは欠席だ。とても、会議どころではないだろう。
順当ならば、売り上げ第二位のディコク屋がなるところだが、本人が固辞したため、ヨロッヅ屋が繰り上がった。
常にニコニコとしている、ディコク曰く、二番手にいて漁夫の利を攫う方が性に合っている、とのことだった。
公の場で、言うべき発言であるか否かは、わからない。聞かなかったことにしよう。
現役探索者理事の誰かから、「ヴェロニカを会長に」の声が上がり、面白がったヨロッヅとディコクが、「ぜひに」と、本気でヴェロニカを口説く一幕があったのは、余談である。
「探索者ギルドと全店長会の間にできた溝を埋めたい」という、大手二商店の希望だったが、「嫌よ、面倒くさい」のヴェロニカの一声で、話は消滅した。
ただし、全店長会の総会の際には、なるべくヴェロニカも出席する、という条件付きだ。
ヨロッヅが、ヴェロニカと話をつけた。
ヴェロニカも承知しているという前提の話であれば、今後、全店長会から探索者ギルドに要求を突き付けても、ギルドも
だとしても、その前に、ヴェロニカを納得させるくだりが必要となるわけだが、そこは何とか話をつけられるという自信が、ヨロッヅにはあるようだった。
実際、ヴェロニカも、たった今、ヨロッヅの話を断り切れずに条件を飲まされた。
俺も、ボタニカル商店ダンジョン内営業所の店長として参加していたが、ヨロッヅの怖いもの知らずぶりを、ひやひやと見守ったものである。実際、なかなかのタマだった。
「わかったけど、あたしだけ会議なんかに出さされるのは嫌だから、あんたらも、ギルドの理事会がある時には、
とばっちりが、ギルドの現役探索者理事に飛んだのは、ご愛嬌だ。
「へーい」と、全員、一言も不満を言わずに、了承した。
ヴェロニカの御威光の凄さに非探索者理事全員が、ぽかんとした。
うちのかみさんは、『魔王の玉座』が似合う程度には、俺も含めて、荒くれ者たちから崇拝されているのだ。
エチーゴは、誰を敵に回そうとしているか、よく確認をしておくべきだった。
その点、懐柔策を取ったヨロッヅ・ヤオの判断は、適切だ。
全店長会の総会が閉会した後、再度、探索者ギルドの臨時理事会が開かれ、ヨロッヅ・ヤオの非探索者理事就任が承認された。
次いで、今回の一連の騒動の責任を取るという名目でギルドマスターが辞任し、後任ギルドマスターに『鉄塊』のアイアンが、就任した。
面白がった現役探索者理事の誰かが、「ヴェロニカをギルドマスターに」と言い出し、一盛り上がりあったくだりは、やはり余談だ。
シャインが、一番騒ぎを面白がっていた。
さては、こいつ、裏で誰かに言わせたな。
ヴェロニカギルドマスター案は、ヨロッヅ・ヤオとアイアンが大乗り気だった。
ヨロッヅは、全店長会の探索者ギルドへの影響が高まるため。
アイアンも、できれば、本当は苦労などしたくないという理由からだ。
二人とも、ヴェロニカの、うっせぇわ、の一言で沈黙した。
引退したギルドマスターの今後はというと、かみさんと、のんびり温泉を回るらしい。
もうすっかり、俺には
人気だな、秘境温泉。
最後に臨時理事会は、『救急くん』破壊パーティーの処遇を決定した。
エチーゴが退場したからといって、実行犯を不問にはできない。
エチーゴ曰く、最大八十四人もの探索者の命が失われた事件である。
けじめは、必要だ。
処遇は、『迷宮の御意思に委ねる』だった。
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