第59話 自白
15
エチーゴ系列の探索者たちは、目を覚ました。
手足を縛られているので、芋虫のようにもごもごと動きながら身を起こして、床に座る。
「リーダーは誰だ?」
俺は、縮こまっている六人に問いかけた。
「俺だ」
案の定、俺の前の男が返事をした。
「おまえらが『救急くん』を破壊したんだな」
「何のことだ?」
俺は、リーダーの股の間に、先ほど回収した精霊石の布袋を、口を開けたまま、ぽんと投げた。
中身の精霊石が二つほど、転がって表に出る。
「その石は、『救急くん』の中にあったものだ」
男は、薄く笑った。
「確かに『救急くん』の中にあった物だが、拾ったものだ。ギルドに報告して、言いくるめられて取り上げられたくはないから黙っていた。遭難した探索者の持ち物は、見つけた人間の物になるのが本来だろ」
「ああ」
俺は、頷いた。
命を懸けて地下に潜るのだから、それぐらい、当然の報酬だ。
志半ばで、地下で倒れる探索者にとっても覚悟の上である。
ただし、他人の縄張りで仕事をする以上は、相手が決めたルールに従う義務があった。
ダンジョンは、探索者ギルドの縄張りだ。
ギルドは、探索者間の私闘を禁じている。
『救急くん』は、探索者に準じる扱いだと、ギルドは決めていた。
したがって、『救急くん』の破壊は禁止事項だ。
べつに、ルールを守れ、と言っているわけではない。
そんなもの、俺だって、散々破ってきた。
ルールを守りたくないならば、ルールを覆らせるだけの力を示せというだけだ。
ギルドが何を禁じたところで、ギルドの追っ手を、全員、返り討ちにするだけの力を持っていれば、ルールなど最初からないのと同然だろう。
自分のやりたいことだけ先にやってしまって、実力不足でした、許してください、というわけには、生憎、いかない。
ここで、俺たちを退けてみせてくれれば、いいだけだ。
俺だって、今でこそ、たまたま探索者ギルドの側についているが、仕事の内容と報酬が釣り合えさえすれば、何だって引き受ける信念に揺らぎはない。
今までも、そうしてきた。
大体は、釣り合いが取れないから、やらないだけである。
もし、エチーゴが、エリクサーをやるから見逃してくれと言うなら、よろこんで見逃す。
探索者ギルドが、俺がエリクサーを手に入れる邪魔をするというなら、相手になろう。
もっとも、エチーゴ側の釣り合いが取れないだろうから、そんな話はでてこないが。
そもそも、エチーゴは、エリクサーを持ってなどいないはずだ。
持っていないよな?
「本当にお前らが『救急くん』を破壊していないならな」
まったく、相手を信用していない俺は、冷たく言った。
「本人に聞いてもいいか? ゴーレムは自分を倒した相手の顔をおぼえているぜ」
「あん?」
男は、怪訝そうな顔をした。
男だけではなく、パーティー全員だ。
アイアンほか、こちら側の面々は、俺がこれから何をしようとしているか知っているから、無反応だ。
俺は、懐から、紙のお札の束を取り出した。七枚ある。
「破壊されていた『救急くん』のゴーレム核だ」
ゴーレム核が、まだ、お札だったころの話である。
俺は、相棒の『はいたつくん5号』に視線をやった。
「『はいたつくん5号』、テーブルを破壊しろ」
『はいたつくん5号』は、鉄のかぎづめを振り上げた。
振り下ろす。
テーブルは、粉々に砕け散った。
事前に騒がしくすると言っておかなかったら、また、主人が確認に来るところだ。
これくらいならば、俺の中では、ほどほどの範疇に入っている。
俺は、『はいたつくん5号』の背中を開いた。
中身は、空っぽだ。
奥に貼られた、ゴーレム核であるお札が、露になった。
俺は、『はいたつくん5号』のお札を剥した。
代わりに、『救急くん』のゴーレム核だったお札の一枚を貼り付ける。
俺は、『はいたつくん5号』が転じた『救急くん』に命令を出そうとして戸惑った。
今貼ったのは何号だ?
ゴーレム核が、お札時代の『救急くん』で破壊されたのは、2号、4号、5号、6号、8号、9号、13号だ。
今度から、お札をゴーレム核にする時には、片隅に名前も書いておくことにしよう。
とりあえず、若い番号から試す。
「『救急くん2号』、お前を倒した相手を殴りつけろ」
無防備な状態で、かぎづめで殴りつけられれば、ただでは済まない。
『救急くん』は、動かなかった。
「ふむ。『救急くん4号』、お前を倒した相手を殴りつけろ」
はずれ。
「『救急くん5号』、お前を倒した相手を殴りつけろ」
はずれ。
「『救急くん6号』、お前を倒した相手を殴りつけろ」
はずれ。
どうして、こういう時の引きは、こうもうまくいかないものだろうか?
「『救急くん8号』」
ぴくりと、ゴーレムが反応した。
「待て!」
俺の言葉を遮るように、リーダーの男が叫んだ。
「目の前のベッドを殴りつけろ」
『救急くん8号』は、かぎづめを振り上げ、振り下ろすと、ベッドを粉砕した。
あたりだ。
「何か言ったか?」
あらためて、俺は、男に訊いた。
「『救急くん』を破壊したのは、俺たちだ」
力なく、男はつぶやいた。
「なぜ?」
「エチーゴ会長から依頼された」
聞きたかったのは、その言葉だ。
「キャシー」
俺は、ロイヤル三姉妹の一体の名前を呼んだ。
途端に、緑がかった丸い発光体が天井付近に現れる。
もともといたが、光量をしぼっていたため、目立たなかったのだ。
連絡手段として、ヴェロニカがお供につけてくれた、ロイヤル・ウィスプだ。
「ジェーンに連絡だ」
応えるように、緑のキャシーが、ぱしゅっ、と光った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます