第58話 眠り
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俺が、アイアンたちと踏み込んだ宿屋の部屋は、大部屋だった。
パーティー全員で、一室に寝泊まりをするタイプの部屋だ。
他の街から遠征でこの街を訪れる探索者の中には、この街にいること自体も含めて探索の途中であるとして、気を抜かないよう、宿屋も、個室ではなく、パーティー全員で宿泊ができる、大部屋を希望する場合があった。
このパーティーも、そういう意識高い系の連中だろうか。
いや。
だとしたら、『救急くん』の破壊など引き受けまい。
単純に、エチーゴが、ケチなだけだと推察された。
報酬の一環として、自分の系列の宿に、『救急くん』を破壊するための探索者を泊まらせるならば、せめて個室ぐらい用意してやればいいものを。
とはいえ、探索者の中には、宿よりも馬小屋に泊まる方が良いという輩もいるので、一概に個室が良いとは言い切れない。個人の趣味である。
戦闘は、アイアンともう一人の戦士が扉を蹴破ったと同時に、魔法使いが室内に眠りの呪文を撃ち込んで終了した。
それだけだ。
呪文に続いて室内に飛び込むと、六人組のパーティーが、だらしなく床に伸びていた。
皆、眠っている。
『鉄塊』のメンバーが、眠っている相手を縛り上げている間に、俺は、精霊石の夫婦石を使って、相方である、破壊された『救急くん』のゴーレム核を捜索した。
ゴーレム核は、普通に壁際に置かれたリュックサックの中に入っていた。
五つ。
ゴーレム核を精霊石に交換した以降に破壊された『救急くん』は全部出て七体。
うち最初の二体の『救急くん』は、内部に精霊石が残されたままであったので、なくなった精霊石は、全部で五体だ。
そのすべてが、
俺は、布袋ごと精霊石を回収した。
相手は、俺たちの接近に、まったく気づいていなかったのだろう。
リュックサックを背負って逃げようとか、武器を持とうとか、そういった動きをした様子は見受けられなかった。
ただ、部屋でくつろいでいたところを、俺たちに急襲されたようだ。
壁際に、武器も置かれている。
剣だけでなく、大金槌も置かれていた。
予想どおり、鈍器だ。
メインの武器としては剣を使うが、予備の武器として、大金槌も持ち歩いているようであった。
彼らにとっての今回の依頼で言えば、メインが大金槌で、サブが剣か。
物音を聞きつけ、やってきた宿屋の主人に、アイアンが、探索者ギルドの仕事である旨を伝え、弁償の請求は探索者ギルドに行うよう話をした。
他所から流れてきた探索者の中には、街中で素行の悪い振る舞いをする者も少なくない。
業を煮やした街の人々から、時々、探索者ギルドに苦情が入り、ギルド直々に捕縛に動く場合があった。
今回もそんな話かと、主人は、あっさりと事態を受け入れた。
取り調べをするので、このまま部屋を貸してもらいたい旨を伝え、騒がしく
主人は、ほどほどにしてくださいよ、と、言い残して戻っていった。
宿泊客である他の探索者たちへは、ギルドがしていることだと伝えれば文句は出ないので問題はない。
部屋にあった、ベッドやテーブルの類を、すべて壁際に押し付けてスペースを確保し、縛り上げた探索者たちを集めて、部屋の真ん中の床に転がした。
戦士三人、盗賊一人、僧侶一人、魔法使い一人の、スタンダードな六人組だ。
幸い、知らない顔である。
うちのお客さんではない。
エチーゴがどこかから連れてきて、自分の店を利用するよう、囲い込んでいるパーティーの中の一つだろう。要するに、さくらだ。
街へきてすぐのパーティーはともかく、腕の立つパーティーほど、次第に、あまり質の良くないエチーゴ屋系列の店を利用しなくなる。
自分の店を、
客寄せに、迷宮で狩ってきた魔物を店の前で解体して毛皮を飾るとか、そういうこともやる。
そのへん、エチーゴ屋系列の営業活動は、マメである。
品質ではなく、見かけ騙しの商売を徹底している。
これまで、そうやって生き延びてきたのだ。
今更、エチーゴに、やり方を変えることなどできないだろう。
頭でわかったとしても、人は、自分の成功体験を、そう簡単には捨てられない。
付き合わされる探索者が、どう思っているのかはわからない。
エチーゴ屋系列のパーティーは、半分営業半分探索といった動きをするので、本筋の探索者たちや俺とは、まったく、付き合いがない。
そもそも、どういうパーティーが、何組いるのかも知らなかった。
複数のパーティーがいるようだが、入れ替わりも頻繁にあるようだ。
一攫千金ではなく、期間限定の小遣い稼ぎのつもりなのだろう。
床に転がっているのは、そういったパーティーの一つだった。
壊された『救急くん』の精霊石が、すべてここに集まっているということは、彼らが、『救急くん』破壊目的の専属チームなのだろう。エチーゴとて、誰も彼もに同じ依頼を出すような、足が付きやすい真似はすまい。
口が堅く、そこそこ腕が立つパーティーとして、彼らを選んだのに違いない。
まあ、地下何階相当かは知らないが、迷宮に降りて魔物を狩って戻れる程度の実力はあるようだ。
もっとも、対人戦では、『鉄塊』の魔法使いの眠りの呪文に、誰一人抵抗できなかった。
彼我の実力差があればある程、上位から下位へは、魔法が良くかかる。
その程度には、俺たちと相手の力量は開いていた。
転がっているパーティーの周囲に、『鉄塊』が立つ。
『鉄塊』もまた、六人組のパーティーだ。
剣は剣、魔法は魔法といった具合に、一人一人の実力差が際立つ形に取り囲む。
俺だけあぶれた。
正確には、俺と相棒の『はいたつくん5号』が、あぶれた。
俺は、
俺は、リーダーらしき、倒れている戦士を見下す位置に立つと、アイアンに、目くばせした。
アイアンが、『鉄塊』の魔法使いに、相手を起こすよう指示を出す。
魔法使いから、目覚めの呪文が相手に飛んだ。
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