第54話 全店長会

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 全店長会という組織がある。


 この街にあるすべての商店が自動的に加入している、商店長の集まりだ。


 街には他に、全宿屋会や全食堂会といった具合に、業種ごとに様々な全ほにゃらら・・・・・会が全部で二十余りあり、それぞれの会長は、職指定で探索者ギルドの理事になっていた。


 理事全体の概ね三分の一が、彼らである。残りの三分の二は、探索者だ。


 ダンジョンありきの街であるため、街で一番力を持っている組織は探索者ギルドだ。


 まず、ダンジョンがあり、そこへ探索者が集まってきて、探索者間のルールができて、ギルドになった。


 その他の商売人たちは、そこへ寄生する存在だ。


 商店も宿屋も定食屋も、あらゆる全ほにゃらら・・・・・会の会員は、迷宮探索者に寄生して生きている。


 個別の店では探索者ギルドと渡り合えないため、それぞれ同業者で寄り集まって、ギルドへ自分たちの要望を出すための、一種の窓口機関として、全ほにゃらら・・・・・会を結成した。


 同時に、街にある自分たちのほにゃらら・・・・・の各店舗が共倒れしてしまわないようにする、談合機関の役目も果たしている。


 もともと、探索者だけの互助会であった探索者ギルドに、理事として各ほにゃらら・・・・・会の会長が加わり、お互いの利害を調整していた。


 けれども、第一は探索者の利益であるため、探索者より各ほにゃらら・・・・・の意見が強くなってしまわないよう、会長は探索者出身であると同時に、理事総数の三分の二は、探索者から出すことが、明文化されている。探索者ファーストだ。


 問題は、理事となった探索者が理事会に全然出席しないことだが、それはまた別の話だ。


 理事は、探索者ギルドの理事会で、議決に対して賛否を示すことができたが、自ら議案を提出することも認められていた。


 ただし、全ほにゃらら・・・・・会の理事が議題を提出する場合には、議案の提出について、自らの出身組織である全ほにゃらら・・・・・会で、議決により承認されている必要がある。


 全店長会に参加する店長は、全員一人一票を持っており、それぞれ対等の立場であるというのが建前だ。


 全員参加が建前にあるので、全店長会の会合は、すべて総会の形で開催される。


 実際は、この街に存在するあらゆる店の多くが、エチーゴ屋グループを筆頭とし、他に二系統ある、いわゆる大手三商店系の色がついている。


 直営はもちろん、フランチャイズ店舗であったり、仕入れを大手商店系の商社に依存しているといった具合だ。


 だから、対等の一票と言いつつ、全店長会で何らかの議決が行われる場合、結果は、大手商店グループの意向のとおりとなる。


 要するに、全店長会のあらゆる議決は、大手三商店の三人の会長の胸先三寸で決定されていた。


 したがって、全店長会に限って言えば、全という名前こそついてはいるが、本当にすべての商店の店長が総会の場に出席して何かを決めているわけではなく、大手三会長と、せいぜいおつきとして、各系列の旗艦店舗の店長ぐらいが集まる会合になっていた。


 その他には、新たにこの街で商店を開いた店長が、顔役たちへの挨拶を兼ねて出席するぐらいだ。


 既存の商店の店長は、自身の関連する大手商店グループの会長に賛否を委任してしまうか、単純に欠席だ。


 出席したところで、末端商店の店長が大手商店の意向に異論を挟めるわけでもない。


 他意はなくとも、ただ発言をするだけで、敵対的な奴だと思われてしまう恐れがあった。


 であるならば、欠席一択だ。


 ちなみに、ボタニカル商店は、数少ない、どの系列にも所属していない商店だった。


 大手商店の意向に異論ありまくりだが、だからといって、総会の開催通知が届いたところで、出席はせず、基本欠席だ。


 エチーゴは勿論、どこの誰にも何らかの賛否の委任をする気は、さらさらなかったが、だからといって、わざわざ逆らうつもりもない。


 大手商店の意向に沿うとはいえ、基本的には、普通に商売上の取り決めが行われるだけなのだ。


 若干、既得権益者である大手商店に有利となるきらいはあったが、まあそれだけだ。


 そう目くじらを立てるような問題ではない。どこの業界でもある話だろう。


 ボタニカル商店としては、自分の商売ができている限りは、大手商店グループが何をしたがろうと、どう儲けようと、他人事だというスタンスである。


 できれば、お互い、不干渉でいきたいものだ。 


 そう思っている。


 そんな折。


 はたして、全店長会のエチーゴ終身会長の召集により、総会を開催する旨の案内が、ボタニカル商店を含む、この街の全商店の店長宛に通知された。


 議題は、探索者ギルド理事会への全店長会からの議案の提出について。


 内容は、迷宮内でのゴーレムの利用禁止だ。


 理由は、迷宮内での安易なゴーレムの利用は、回復手段の三分の一ルールの形骸化を招き、探索者に重大事故発生の恐れがある、というものである。


 ピンポイントでの、ボタニカル商店への嫌がらせだった。

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