第48話 委託販売
3
さて、『救急くん』だ。
探索者ギルドが、うちを表彰する、と言った『救急くん』とは、地下で遭難した探索者に対して、ゴーレムが、回復アイテムを自動で配達に行くという仕組みを指している。
ゴーレムに自動で配達されたアイテムを使って、遭難した探索者たちが自分を回復して、自力で地上へ戻ってくるという、救急措置だ。
正確には、そのための専用ゴーレムの名前が『救急くん』で、そこからゴーレムによる遭難救助活動そのものが、『救急くん』と呼ばれるようになっていた。
いつもながら、ヴェロニカの名付けのセンスは、何とも言い難い。
俺が『
薬草一つを買う余裕もない、地下一階の探索者とも呼べない探索者はさておき、地下二階以深へ潜れる探索者の多くが、お守り代わりに、夫婦石の片割れをうちに預けてから、地下に潜るようになったのだ。
夫婦石は、我がボッタクル商店の独自商品であるため、うち以外に、取り扱いのある店はない。
もちろん、大手商店も類似商品の生産を試みたが、うまくはいかなかったようである。
探索者ギルドでの毎朝の注文聞きの際、あまりにも夫婦石のみの注文が多いから、面倒くさくなり、探索者ギルドに販売を委託し、ギルド受付でも夫婦石を取り扱ってもらうことにしたまでは良かったのだが、その先がまずかった。
受付のギルド職員が、『もし、地下で遭難しても、夫婦石があれば位置を特定して救助隊が駆け付けられます』などと吹聴してしまったものだから、結局、地下七階での商品補充を終えた俺が、帰り道に、前日が帰還予定日なのに戻らなかった探索者パーティーを捜して、夫婦石で追跡する事態に陥ったのである。
そんなもの、全部、面倒見ていられるか!
お陰で、帰路もランニングし続けだ。
通常の遭難は、自分たちの実力以上の魔物に襲われて、あっという間にその場で命を落とすものなので、『
実際に遭難する探索者パーティーのすべてを救助できるわけがないことは、当の探索者たちだってわかっているだろう。
大抵は、遭難地点で探索者の遺品と夫婦石の片割れを回収するだけだ。
まるで、遺品あさりである。
それでも何十回かに一回は、戻るに戻れない状態になっているパーティーを発見し、救出できてしまっている。
探索者たちは、なおさら、夫婦石を求めるようになり、一パーティーに一つではなく、一人に一つ、迷宮探索の必須アイテムとして、夫婦石を持つようになっていた。
もしかしたら、遭難の過程で、パーティーメンバーがはぐれてしまい、たまたま夫婦石を持っていた側のパーティーは助かったが、持っていない側のパーティーは助からなかった、などという事態がありえるかも知れない。
そう考えると、一人に一つは必須になるだろう。
統計的に、探索者の遭難は地下一階が一番多い。
魔物狩りの経験も、暗い地下迷宮へ潜った経験もない、半ば、死に場所を求めて、この街へやって来た食い詰め者たちが、ギルドの『最後の晩餐場』の
遭難するが、地下一階での遭難は、捜索の対象外だ。
地下に降りた人数を把握するというだけの理由で、探索者ギルドは、地下へ降りようとするすべての人間に入洞届けの提出を義務付けているが、実質は、まだ探索者と呼べる存在ではなく、ただの食い詰め者である。
この迷宮では、地下一階止まりの探索者が
地下二階以深へ潜れるようになって初めて、ギルドは探索者だと認めてくれる。
そもそも、地下一階で遭難するような奴らは、夫婦石そのものを持つ余裕もないので、遭難しても、俺が捜索をする対象ではない。
でないと、一日中、地下一階を歩き回りつづけなければならなくなってしまう。
いや、本当は、地下何階であろうが夫婦石を持っていようが、俺に捜索の義務などないはずなのだが。
まあ、地下一階が遭難率のピークであるとして、次いで地下二階、地下三階と、階を重ねるほど、その階を探索する探索者総数に対する、遭難者の割合は減っていく。
深ければ深い階ほど遭難しにくい、という、おかしな結果になるが、そこは当たり前だ。
生き残れる力を持った者だけが、深く潜れるのである。
浅い階ほど死ぬ割合が高いのは、自明だった。
地下五階で俺の配達を受け取れるほどの探索者であれば、
地下四階レベルでは、
探索者のランク分けに、地下二階、地下三階どまりの
要するに、俺は、毎日、
配達だけをしていれば済んだ頃より、明らかな負担増だ。
かといって、今更、夫婦石の販売をやめるわけにも、値段を上げるわけにもいかない。
探索者たちが暴動を起こすし、大手商店に、ボタニカル商店攻撃の種を提供してしまう。
打開策として、ヴェロニカと探索者ギルドにより導入されたのが『救急くん』だ。
ヴェロニカは、『はいたつくん』開発時から、俺の負担増対策を何とかしなければと考えていたようだ。
そこで、探索者ギルドとの共同事業として、『救急くん』プロジェクトを立ち上げた。
結局、落ち着いた『救急くん』の運用要領は、次のとおりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます