第47話 販売くん
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「あははははは」
店に帰って顛末を話すや、俺は、ヴェロニカに爆笑された。
ヴェロニカは、笑いすぎて、目の下に涙を溜めている。
一方、ミキは、「ひどいです」と頬を膨らませて憤慨した。
ヴェロニカは、涙を指でふき取りつつ、
「マルくん、さすが忍びの者ね。あたしが行ってたら我慢できずに確実に炎上案件よ」
でしょうねえ。
物理的に、探索者ギルドは焼け落ちていただろう。
いや、冗談じゃなく。
「危うく、この店を捨てて、夜逃げしなきゃならないところだったな」
「あら、二人ならどこででも生きられるわよ。いつでも、街を出る覚悟は持ってるでしょ」
「まあそうだけどさ」
いつか、エリクサーをオークションで競り落す日のために、俺たちは稼ぎを溜めている。
だが、もし、金額が足りないとなったら、合法的ではない手段に手を染めてでも入手する覚悟を、俺たちは胸に秘めていた。
使う気がある者に競り負けるのならばともかく、誰かの投機対象として、エリクサーが死蔵されていく事態は見過ごせない。
もともと、品行方正という言葉とは、縁のない俺たちだ。
幸か不幸か、今までは、その必要がなかっただけである。
確かなエリクサーの在りかさえ分かれば、何をするのも俺は
一人で僧侶と魔法使いの役をはたせる元司祭のヴェロニカと、一人で盗賊と戦士の役をはたせる元忍者の俺。役割的には、二人で探索者パーティーは成立する。
ヴェロニカが、エリクサーを口にしさえすれば、その後は、どこででも生きていける。
「お二人は、引っ越しちゃうんですか?」
ミキが心配そうな声を上げた。
「いつかよ、いつか。そんな日もあるかも知れないね、って話。『
「かあさんは、若返りの湯を求めて、秘境の温泉を巡るって言っています」
「いいわね、それ。あたしたちもそうする?」
「秘境温泉なんて、探索と同じだろ。プラックに、俺が同情してたって言っといてくれ」
「わかりました」
俺たちは、笑いあった。
俺は、いつもの配達の服装に、手早く着替えた。
大きなリュックサックではなく、小さい方のリュックサックを背負う。
最近の俺は、大きなリュックサックの代わりに、『はいたつくん5号』を、もっぱら同行させている。
体感的に、俺の労力は、三分の一になった。
俺が本気で走った場合には無理だが、普通のランニングにならば、『はいたつくん5号』は十分ついてこられる。
万一はぐれても、俺と夫婦石を持ち合いしているので、少し待てば、すぐに追いついてきてくれた。
実用的だ。
俺が、『はいたつくん5号』を同行させ、『
我がボタニカル商店では、『
もちろん、材料費込みの完全生産も受け付けていた。
お値段は、材料費と持たせる能力によって、ピンキリだ。
人気は、『タイプ
要するに、車輪と手足がついたリュックサックである。
ただし、『はいたつくん5号』の骨格がミスリルであるのに対し、『タイプⅤ』は、普通に鉄骨だ。
製作者の腕の違いという奴である。シャインが悔しがっていた。
その分、お値段は、大分、勉強できている。
お陰で、地下七階の安全地帯への配達は完全になくなった。
そこまで降りられる実力を持つ探索者であるならば、ゴーレム同行の方が、時間もコストもお得なためだ。
行きは、ゴーレムに消耗品を持たせて、帰りは、ゴーレムに戦利品を運ばせる。
一体で二度おいしく使える商品だった。
とはいえ、地下七階まで、俺が配達に行かなくなったことに伴い、地下七階での商品販売もなくなってしまうと、万が一、地下で回復アイテムがなくなり、急遽、買い足しの必要が生じた探索者に対して、不親切だ。
探索者のかゆいところに手が届くサービスを自認するボタニカル商店としては、地下七階での販売中止は、お客様を切り捨てるみたいで、不本意である。
そこで、『はいたつくん』を元に、新たなゴーレムを開発した。
大きいリュックサックサイズ、要するに縦横一メートル、高さ二メートルの四角い頑丈な鉄の箱に、大小の口と、手が一本だけあるゴーレムだ。
口は、箱の上下にあり、上が小さい口、下が大きい口となっている。
手は正面、上下の口の中央にあり、普段、手の先端は、大きな下の口に突っ込まれている。
回復アイテムが必要になった探索者が、上の口に、必要な代金を入れると、大きな口に突っ込まれていた手が引き抜かれて、その手に握られていた回復アイテムが、探索者に手渡される仕組みとなっている。
移動はしないため、このゴーレムに足はない。
したがって、重量面を気にする必要はなく、ひたすら頑丈さに重点をおいている。
殴っても斬っても、簡単には壊れない。
それ以前に、もしも攻撃や悪戯をしてくる相手がいた場合には、一本ある手を振り回して、積極的に防御行動をとるように学習させてある。
名付けて『販売くん』だ。
もちろん、回復アイテムのお値段は、地下単価だ。
地下六階以深にあたるため、ボタニカル商店での設定単価は、地上での全店長会協定単価の十倍だった。
とはいえ、地下七階を普通に探索できるパーティーにとっては、大した金額じゃない。
地下迷宮には、自分の命よりも大切な装備は存在しないのだ。
そんなこんなで、地下七階への配達が減った代わりに、地下七階への商品補充が、俺の仕事として新たに加わった。
ゆくゆくは、地下七階の安全地帯だけでなく、各階に何台かずつは、『販売くん』を設置したい。
もちろん、探索者ギルドは、地下へ持ち込むゴーレムの製造や地下への設置を、ボタニカル商店だけに独占的に認めているわけではないので、理屈上は同じ仕組みの商売を、どの店がやっても構わない。
ただ、実際は真似ができないので、実質的にボタニカル商店の独占となっていた。
そう考えると、大手商店が、うちを苦々しく思う気持ちも、わからなくもない。
エチーゴは、絶対に許さんが。
「じゃあ、行ってくる」
俺は、ヴェロニカとミキに見送られて、相棒である『はいたつくん5号』と一緒に、店を出た。
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