第42話 はいたつくん12号

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 昼少し前、シャイン以下、『白い輝きホワイトシャイン』隊のメンバー全員が、ぞろぞろと店にやってきた。


 布で覆いをかけた荷車を、二台押している。


 修理した『はいたつくん12号』と、新しく作った『はいたつくん13号』だ。


 普段は、マルくんに気づかれないように、ギルドの訓練場に保管してある。


『はいたつくん13号』は、呼び名以外、『はいたつくん12号』とまったく同じである。


 あたしの考えでは、『白い輝きホワイトシャイン』隊は荷物持ちを兼ねて、『12号』と『13号』を、交互に探索に連れていく方法をとるべきだ。


 通常、探索者は、探索時に次の階へ降りる階段を見つけたからといって、すぐに降りてしまうわけではない。


 しばらくは階段の場所を見つけただけにとどめて、今いる階の探索を、なるべく進める。


 そうしておけば、降りた階の魔物が手に負えず、すぐに逃げ戻り態勢を整えなおす派目はめになっても、状況をよく知る階であるため、比較的、安全だ。


 安全地帯とまではいかずとも、体感的に周囲の地図を把握しているだけで、気持ちが大分違うからだ。


『12号』と『13号』を交互に探索に連れて行けば、地上に残された側のゴーレムも、地下にいるゴーレムと、ほぼ同じだけの地図情報を持っている。


 万が一の際に、地上から回復アイテムを持たせた状態でゴーレムに後を追わせても、ゴーレムが地図を把握しているので、無駄なく追跡をしてくれるはずだ。一刻を争う事態で大幅な時間短縮ができる。


 さらに進めて、定期的に地上からアイテムを持たせたゴーレムを地下に送る方法はどうだろう?


 送ったゴーレムが、地下でパーティーと合流出来たら、パーティーが地上から同行させていたゴーレムと、地下で交代して地上へ送り返す。


 地上へ戻ってきた空荷のゴーレムに、再び、アイテムを満載して、地下へ送る。


 繰り返せば、ほぼアイテムの在庫切れの心配なく、いつまでも探索を続けられる。


 パーティーが、地下深くで、回復の暇もなく、強い魔物に全滅させられてしまう危険は常にあったが、消耗品の補充のために、いちいち地上に戻るという手間がなくなるので、飛躍的に探索効率を上げられる。


 地下で手に入れて持ちきれなくなった戦利品を、帰りのゴーレムに持たせてしまうという使い道もある。


 行き帰りのゴーレムに手紙を持たせれば、時間はかかるが、地上と地下で意思疎通も可能になるだろう。


 素晴らしい。


 ゴーレム定期便とでも名付けよう。


 ただし、金銭は、滅茶苦茶かかる。


 まぁ、それは今後の運用の話だ。


 あたしは、シャインたちに、狭い厨房兼調剤室ではなく、店舗室にゴーレムを二体並べて止めるよう、指示を出した。


 お昼前のこのくらいの時間帯は、比較的、お店が暇な時間帯だ。


 活動をしている探索者は、みんな、探索に出払っている。他のお客さんは、いなかった。


 青銀ミスリル色に輝き、手足と車輪がついた二台の手押し車が、店舗室内に並んで置かれている。


 立たせると、あたしには、頭の位置に手が届かなくなってしまうため、荷車体型のままにしてもらった。


 けれども、肝心の頭は、今はついていない。


幸運と勇気ラッキー・プラック』に、地下一階から地下七階までの地図を覚えさせるよう頼んだので、ゴーレム核入りの頭を外して、持って行ってもらっていた。


 地下八階以深の地図を覚えさせる作業は、シャインたちに自分でやってもらおう。

とりあえず、階段から階段までの道筋を覚えさせれば、最短ルートで追跡ができるようになるはずだ。


『はいたつくん12号』と『はいたつくん13号』には、ランとスーの魔法に対する対処方法を覚えさせてある。


 ただ、鏡面装甲で弾き返すだけでなく、どういう魔法が、どのような効果を持ったものなのか、身をもって体感させてあった。


 体のどの部位で受けて弾けば、一番無駄なく、逃げに転じられるかをわからせるためだ。


 同様に、爺様による、盗み対策も理解させている。


 ただ、罠で盗まれないようにするというのではなく、すれ違いざま、人はどのように中身を盗もうとするから、どう躱すべきか、どう警戒すべきかを覚えさせた。


 しんちゃんからは、刀による立ち居振る舞いを覚えさせている。


 かぎづめを、刀のように振るって、敵に対して、どう攻め、どう守るかを仕込んだのだ。


 最後の仕上げが、『幸運と勇気ラッキー・プラック』だ。


 地下一階から地下七階までの地図を、覚えさせてもらっている。


 シャインは、製作をしてくれただけだけれど、十分だろう。


「ごめん。遅くなった」


 そこへ、ラッキーが、プラックと、やって来た。


 依頼していた、地下七階までの地図を覚えさせたゴーレムの頭を持ってきたのだ。


 そのための、今日この時間の待ち合わせである。


 プラックが、リュックサックから、ミスリル製の半球型のヘルムを、二つ取り出した。


『はいたつくん12号』と『はいたつくん13号』の頭である。


 半球型の兜の内側には、ゴーレム核が仕込まれているため、実は、頭だけでも簡単なゴーレムだ。


 プラックは、お店のカウンターの上に、ゴーレムの頭を並べた。


 あたしは、一方の兜を逆さにして、底蓋を外した。


 丸い底蓋は、台座になっており、精霊石を嵌めてある。精霊石が、ゴーレム核だ。


「『白い輝きホワイトシャイン』の夫婦石を頂戴」


 あたしは、ミキに言った。


 ミキは、カウンター裏の棚のケースから『白い輝きホワイトシャイン』隊の封筒を取り出し、中から夫婦石の片割れを取り出すと、あたしに渡した。


 あたしは、台座の核の脇にある隙間に、『白い輝きホワイトシャイン』の夫婦石を入れてから、底蓋に兜をはめて閉じる。


『はいたつくん12号』の天板ボンネットには、丸い穴が開いていた。


 兜の直径より、わずかに狭い大きさの穴だった。


 開いた天板の内側から、丸い穴に兜を差し込んで、天板を閉じる。


 穴より兜の直径の方が太いため、兜の根本付近より上だけが、天板の穴から顔を出した。


 天板の穴の周りには、顔を出した兜を守るように、衣服の襟を立てたような形で、ミスリル製の板でできたガードがついている。


 首斬り対策だ。


 マルくんの首絶ちクリティカルだって、防いじゃうよ。多分。


『はいたつくん12号』が完成した。

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