第41話 配達準備

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 朝の注文を取りに行っていたマルくんが、探索者ギルドから帰って来た。


 ミキに、とりまとめてきた配達の注文書を渡す。


 注文された品物を、店内から集めてくるのは、ミキの役目だ。


 ミキにより集められてきた品物を、マルくんが、自分で配達をしやすいようパーティー単位にパッキングしてリュックサックに詰める。


 というのが、いつもの段取りだ。


「あれ、今日の配達は地下五階までですね。地下七階の注文はなかったんですか?」


 注文書に目を通しながら、ミキが言った、


「誰もいないみたいだな。『幸運と勇気ラッキー・プラック』も今日は休みだろ」


 と、マルくん。


「まだ、寝てます」


「娘だけ働かせるなんて、ひどい親だ。あいつらが休みの日は、ミキも休んでいいぞ」


 あたしは言った。


「いえ。店長の一番弟子ですから。お店がある日は働きます」


 だとすると、年中無休になる。適当に、有給休暇を取らせよう。


「『はいたつくん2号』、ついてきて」


 ミキが、注文書を片手に、『はいたつくん2号』に声をかけた。


『はいたつくん2号』は、ミキのパートナーとして、店内で大活躍だ。


「前から聞こうと思ってたんだが、何で『1号』じゃなくて『2号』なんだ?」


 マルくんが言った。


 あたしと、ミキは、顔を見合わせた。くふふ、と笑い合う。


「『1号』は他の子なのよ」


 あたしは言った。本当の理由は内緒だ。


「ふうん」


 ちょっと聞いてみただけなのだろう。マルくんは、特にそれ以上突っ込みはしなかった。


「それ、どれ?」と聞かれたら、困るとこだ。一安心。


 ミキは、配達品の手配に戻った。


「そういえば、夫婦石が少なくなってきた。補充を頼む」


 マルくんが、カウンターに、リュックサックから取り出した小さな紙の封筒をいくつか置いた。


 中身は、夫婦石の片割れだ。


 どれが誰の石か分からなくならないよう、封筒に相手の名前を書いて、小分けしてある。


「随分、人気ね」


「遭難したら俺が助けに来るもんだと、みんな思ってる。そういう商品じゃないのにな。俺には口を濁すが、『ボッタクル保険』とか呼んでいるらしい」


 これは、早急に『救急くん』を軌道に載せなければならなそうだ。


 あたしは、カウンターに置かれた夫婦石の封筒を、カウンター裏の棚の、名前順に仕切りがあるケースに仕舞っていく。


「そう言うマルくんは、自分の夫婦石は、ちゃんと持ってるの?」


「あるよ」


 マルくんは、胸を叩いた。


 胸の内ポケットに入っているということだろう。


「もし、マルくんに何かあったら、『幸運と勇気ラッキー・プラック』と『白い輝きホワイトシャイン』を、すぐ向かわせる。本当なら、あたしが行きたいとこだけどね」


「俺が配達してるような浅い階じゃ何も起きないさ」


「ダンジョンに油断は禁物でしょ」


 あたしは、一喝した。


「はい、夫婦石」


 あたしは、新品の夫婦石が入った封筒の束を、カウンターに置いた。


 夫婦石は、基本、二つで一組だ。販売する際、相方が分からなくなってしまわないよう、一組ずつ封筒に小分けして保管している。


 お店が夫婦石の片割れを預かる場合、通常は、封筒から一方の夫婦石を出してお客さんに渡し、封筒に相手の名前を記して、店内の名前順の仕切り付きケースに保管する。


 本来は、パーティーメンバーが離ればなれになっても再会できるようにするための物なので、封筒ごと相手に渡して、中身の石をメンバーがそれぞれ持つという使い方だ。


 あたしは、新品の封筒の束から、一つを手に取った。


 封筒から、夫婦石の片割れを取り出し、マルくんに押し付ける。


「念のため予備も持ってて」


「大丈夫だって」


 笑いながら、マルくんは、夫婦石を受け取った。


「一緒に無くさないよう、前のとは別に持つのよ」


「はいはい」


 マルくんは、夫婦石を、リュックサックの奥に仕舞い込んだ。


 販売用の夫婦石の束も、やはり、仕舞い込む。


 やがて、配達品の準備が整い、マルくんは、ダンジョンへ向けて出発した。


「いってらっしゃい」


 あたしとミキは、マルくんを見送った。

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