第40話 真っ二つ
8
『はいたつくん12号』が、概ね完成した。
あたしは、『はいたつくん』の魔法対策として、魔法反射装甲を選択した。
ミスリル製の金属板の表面に、
鏡のように、ピカピカな見た目になることから、鏡面装甲とも言われている。
ミラーシールドと同じ仕組みだ。
ゴーレム自身が破壊される程の呪文の直撃を受けることを、反射の発動条件とした。
弱い呪文の場合は、直撃しても反射しない。
呪文の反射回数は、一回きりである。
呪文を受けたら、何でもかんでも反射してしまう仕様だと、浅い階層で、切り札である反射を使用してしまって、強力な呪文を受ける可能性が高い深部で使えない事態になる。
それは馬鹿らしい。
ただし、部位ごとに、それぞれ魔法反射の呪文を書き込んだため、例えば、右手に攻撃呪文を受けても、左手の魔法反射能力は、まだ残っている。
とはいえ、魔法反射は一度きりなので、同じ部位で二度呪文を受けることは不可能だ。
魔法を受け、魔法を反射した場合でも、魔法反射能力を失っただけで、部位としての機能を失ったわけではないので、普通に動ける。
同じ部位に、何度も魔法反射の効果を持たせたければ、呪文の書き込みとコーティングを複数回繰り返せば良いのだが、その分、コストがかさむ。
相手を倒すためのゴーレムではなく、荷物を相手まで無事に送り届けるためのゴーレムなのだから、魔法の攻撃を反射した隙に逃げだし、無視して先へ進めば良い話だ。
なので、各部位ごとの魔法反射は一度きりとした。
問題は、ミスリルスライムだ。
一切の魔法攻撃を受け付けないという、特殊な能力を持ったスライムだが、出現場所が地下二十階以深である。
出現頻度は、極めてレアだ。
あたしは、シャインに調達を依頼した。
新生『
とはいえ、マルくんとあたしの二人が抜けた穴を、あたしたちより腕が立つ爺様と、ラン・デルカ、スー・デルカで補ったのだ。真の実力は、以前の『
はたして、本気を出した『
そうして、つくりあげた『はいたつくん』で実験を繰り返すこと数度。
『はいたつくん12号』を、ラン・デルカとスー・デルカは、ギルドの訓練場から連れ帰った。
「わたくしと姉さんで、一通りの攻撃呪文をぶつけて効果を確かめました」
スー・デルカだ。
「あんたたち二人の一通りということは、ほぼすべての魔法を試したということね。結果は?」
「オレらが本気で倒そうとするならやりようはあるけど、ダンジョンの魔物には無理だな」
ランが言った。
ラン・デルカとスー・デルカの評価では、二人の本気の魔法の初弾を『ほぼ弾く』とのことであった。
合格だ。
欠点は、派手な見た目。
全身、ぎらぎらと輝いている。
およそ、ダンジョンに似つかわしい見かけではなかったが、『
どうせ、材料費は、全部、シャイン持ちだし。
ちなみに、ギルドの訓練場への行き帰りは、目立たぬよう、荷車体型にして、布を被せて往復させている。
あたしは、厨房兼調剤室に立つ『はいたつくん12号』を見上げながら、ランとスーに言った。
「ていうか、自動追跡で配達なんてさせようとせずに、このまま荷物持ちとして普通に連れて探索に行けばいいじゃない?」
「ばっか。シャインは配達って言い方したかもしれないけれど、オレらが遭難した時の備えだよ。浅い階ならヴェロニカの旦那様が助けに来るけど、オレらが潜っているような深いところまでは来てくれないだろ。だから、もし、いつかオレらが戻らない日があったら、この子にありったけ薬を持たせて配達してほしいんだ」
シャインの考えは、『救急くん』と同じ運用方法だ。
「シャインさん、意外と慎重なんですよ。地下二十二階で全滅しかけたのは、リーダーの自分の判断ミスだったって思ってるみたい。自分はお姉さまを犠牲にして生き残った、って悔いてます」
「そんなことないっ!」
あたしは、思わず、声を荒げた。
「あれは、あたしのミスだ。誰より、あたしがすぐ気づかなきゃいけない奴だった」
沈黙が店内を支配する。
「正直、そこはどうだっていいんだよ。誰のミスであっても、誰のミスでなくてもオレらには関係ねぇ。問題は、オレらが地下二十二階には行ってねぇことだ」
ランが言った。なぁ、と、スー・デルカに同意を求める。
「正直、いい加減、我慢の限界なんですよ。若い探索者たちから、地下二十二階ってどんなとこでしたか? って聞かれて、行ったのは前任者なんですって、へらへら否定するの」
「だから、シャインが、行かざるを得なくなるために、オレらは、ゴーレムづくりを手伝っている。リスクが減れば、潜る気になるだろう」
なんか、深い闇が見えた。
「そうなのか。苦労かけてすまん」
とりあえず、謝るしかない。
その時、店舗からハンドベルを鳴らす音と、「頼もう」という野太い声が聞こえてきた。
『調剤中のため、御用のある方は、呼び鈴を鳴らしてください』のメッセージと共に、カウンターに置いてあったハンドベルだ。
「いらっしゃいませー」と、ミキが叫んで、部屋を飛び出した。
いつもより、リアクションが若干早い。
ミキも、ランとスーのテンションの高さに戸惑いを覚えていたのだろう。
ほっとした様子がうかがえる。
だが、ミキは、すぐに来客を連れて戻って来た。
入って来たのは、
あたしの元同僚。『
あたしは、『しんちゃん』と呼んでいる。
地上にいる時、暇さえあれば、色街に入り浸ってしまうシャインと違って、しんちゃんは、一人黙々と修行に明け暮れていた。
朝から晩まで、仮想敵を思い描いてひたすら素振りをし続けていたかと思うと、座禅を組んで瞑想にふけったまま、いくら呼んでも、意識がこの世に戻って来なかったりする。
ストイックな修業バカである。
「あら。あんたが店に顔を出すなんて珍しいわね」
「百雲斎殿に言われて来た。強いゴーレムとはこいつのことか?」
しんちゃんは、『はいたつくん12号』の、ぴかぴかに輝いている胸を、こんこん叩いた。
「ミスリルか?」
「そ。その上に、魔法反射をかけてある」
「なるほど。では、参る。『一寸の虫にも五分の魂』」
しんちゃんは、自身に、攻撃力強化のバフをかけた。
同時に、居合抜き。
屋内なのに凄い技術だ、とか、感心している場合ではない。
『はいたつくん12号』は、頭頂部から、正中線で、ぴったり両断された。
ゴーレム核まで、真っ二つだ。
魔法による変質の有無を調べるため、中に納めてあった、様々な薬品の瓶まで切れている。
床が、薬浸しだ。
「これでは拙者に勝てんぞ」
アホか。
『
魔物にやられず、『
「馬鹿ぁ! 何で斬っちゃうのよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます