第40話 真っ二つ

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『はいたつくん12号』が、概ね完成した。


 あたしは、『はいたつくん』の魔法対策として、魔法反射装甲を選択した。


 ミスリル製の金属板の表面に、魔法の巻物マジックスクロールをつくる要領で、魔法反射の呪文を書き込み、さらに特殊な材料ミスリルスライムでコーティングして磨き上げる。


 鏡のように、ピカピカな見た目になることから、鏡面装甲とも言われている。


 ミラーシールドと同じ仕組みだ。


 ゴーレム自身が破壊される程の呪文の直撃を受けることを、反射の発動条件とした。


 弱い呪文の場合は、直撃しても反射しない。


 呪文の反射回数は、一回きりである。


 呪文を受けたら、何でもかんでも反射してしまう仕様だと、浅い階層で、切り札である反射を使用してしまって、強力な呪文を受ける可能性が高い深部で使えない事態になる。


 それは馬鹿らしい。


 ただし、部位ごとに、それぞれ魔法反射の呪文を書き込んだため、例えば、右手に攻撃呪文を受けても、左手の魔法反射能力は、まだ残っている。


 とはいえ、魔法反射は一度きりなので、同じ部位で二度呪文を受けることは不可能だ。


 魔法を受け、魔法を反射した場合でも、魔法反射能力を失っただけで、部位としての機能を失ったわけではないので、普通に動ける。


 同じ部位に、何度も魔法反射の効果を持たせたければ、呪文の書き込みとコーティングを複数回繰り返せば良いのだが、その分、コストがかさむ。


 相手を倒すためのゴーレムではなく、荷物を相手まで無事に送り届けるためのゴーレムなのだから、魔法の攻撃を反射した隙に逃げだし、無視して先へ進めば良い話だ。


 なので、各部位ごとの魔法反射は一度きりとした。


 問題は、ミスリルスライムだ。


 一切の魔法攻撃を受け付けないという、特殊な能力を持ったスライムだが、出現場所が地下二十階以深である。


 青銀ミスリル色に輝いているだけではなく、実際に鉱物であるミスリルそのものが命をもって流動化したスライムだった。


 出現頻度は、極めてレアだ。


 あたしは、シャインに調達を依頼した。


 新生『白い輝きホワイトシャイン』隊は、地下十八階が最高到達深度である。


 とはいえ、マルくんとあたしの二人が抜けた穴を、あたしたちより腕が立つ爺様と、ラン・デルカ、スー・デルカで補ったのだ。真の実力は、以前の『白い輝きホワイトシャイン』隊より上のはずだ。


 はたして、本気を出した『白い輝きホワイトシャイン』隊は、あっけなく、部材として大量のミスリルスライムを持ち帰った。


 そうして、つくりあげた『はいたつくん』で実験を繰り返すこと数度。


『はいたつくん12号』を、ラン・デルカとスー・デルカは、ギルドの訓練場から連れ帰った。


「わたくしと姉さんで、一通りの攻撃呪文をぶつけて効果を確かめました」


 スー・デルカだ。


「あんたたち二人の一通りということは、ほぼすべての魔法を試したということね。結果は?」


「オレらが本気で倒そうとするならやりようはあるけど、ダンジョンの魔物には無理だな」


 ランが言った。


 ラン・デルカとスー・デルカの評価では、二人の本気の魔法の初弾を『ほぼ弾く』とのことであった。


 合格だ。


 欠点は、派手な見た目。


 全身、ぎらぎらと輝いている。


 およそ、ダンジョンに似つかわしい見かけではなかったが、『白い輝きホワイトシャイン』隊のためのゴーレムだと考えると、派手なほど相応しい気もする。


 どうせ、材料費は、全部、シャイン持ちだし。


 ちなみに、ギルドの訓練場への行き帰りは、目立たぬよう、荷車体型にして、布を被せて往復させている。


 あたしは、厨房兼調剤室に立つ『はいたつくん12号』を見上げながら、ランとスーに言った。


「ていうか、自動追跡で配達なんてさせようとせずに、このまま荷物持ちとして普通に連れて探索に行けばいいじゃない?」


「ばっか。シャインは配達って言い方したかもしれないけれど、オレらが遭難した時の備えだよ。浅い階ならヴェロニカの旦那様が助けに来るけど、オレらが潜っているような深いところまでは来てくれないだろ。だから、もし、いつかオレらが戻らない日があったら、この子にありったけ薬を持たせて配達してほしいんだ」


 シャインの考えは、『救急くん』と同じ運用方法だ。


「シャインさん、意外と慎重なんですよ。地下二十二階で全滅しかけたのは、リーダーの自分の判断ミスだったって思ってるみたい。自分はお姉さまを犠牲にして生き残った、って悔いてます」


「そんなことないっ!」


 あたしは、思わず、声を荒げた。


「あれは、あたしのミスだ。誰より、あたしがすぐ気づかなきゃいけない奴だった」


 沈黙が店内を支配する。


「正直、そこはどうだっていいんだよ。誰のミスであっても、誰のミスでなくてもオレらには関係ねぇ。問題は、オレらが地下二十二階には行ってねぇことだ」


 ランが言った。なぁ、と、スー・デルカに同意を求める。


「正直、いい加減、我慢の限界なんですよ。若い探索者たちから、地下二十二階ってどんなとこでしたか? って聞かれて、行ったのは前任者なんですって、へらへら否定するの」


「だから、シャインが、行かざるを得なくなるために、オレらは、ゴーレムづくりを手伝っている。リスクが減れば、潜る気になるだろう」


 なんか、深い闇が見えた。


「そうなのか。苦労かけてすまん」


 とりあえず、謝るしかない。


 その時、店舗からハンドベルを鳴らす音と、「頼もう」という野太い声が聞こえてきた。


『調剤中のため、御用のある方は、呼び鈴を鳴らしてください』のメッセージと共に、カウンターに置いてあったハンドベルだ。


「いらっしゃいませー」と、ミキが叫んで、部屋を飛び出した。


 いつもより、リアクションが若干早い。


 ミキも、ランとスーのテンションの高さに戸惑いを覚えていたのだろう。


 ほっとした様子がうかがえる。


 だが、ミキは、すぐに来客を連れて戻って来た。


 入って来たのは、五月雨さみだれ新兵衛しんべえだ。


 あたしの元同僚。『白い輝きホワイトシャイン』所属の侍である。


 あたしは、『しんちゃん』と呼んでいる。


 地上にいる時、暇さえあれば、色街に入り浸ってしまうシャインと違って、しんちゃんは、一人黙々と修行に明け暮れていた。


 朝から晩まで、仮想敵を思い描いてひたすら素振りをし続けていたかと思うと、座禅を組んで瞑想にふけったまま、いくら呼んでも、意識がこの世に戻って来なかったりする。


 ストイックな修業バカである。


「あら。あんたが店に顔を出すなんて珍しいわね」


「百雲斎殿に言われて来た。強いゴーレムとはこいつのことか?」


 しんちゃんは、『はいたつくん12号』の、ぴかぴかに輝いている胸を、こんこん叩いた。


「ミスリルか?」


「そ。その上に、魔法反射をかけてある」


「なるほど。では、参る。『一寸の虫にも五分の魂』」


 しんちゃんは、自身に、攻撃力強化のバフをかけた。


 同時に、居合抜き。


 屋内なのに凄い技術だ、とか、感心している場合ではない。


『はいたつくん12号』は、頭頂部から、正中線で、ぴったり両断された。


 ゴーレム核まで、真っ二つだ。


 魔法による変質の有無を調べるため、中に納めてあった、様々な薬品の瓶まで切れている。


 床が、薬浸しだ。


「これでは拙者に勝てんぞ」


 アホか。


白い輝きホワイトシャイン』隊に勝てるゴーレムを作ってるんじゃない。


 魔物にやられず、『白い輝きホワイトシャイン』隊の元まで辿り着けるゴーレムを作っているのだ。


「馬鹿ぁ! 何で斬っちゃうのよ!」

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