第38話 弟子とり
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「あんた、弟子とったんだって!」
ラン・デルカが、店に駆け込んできた。
「お姉さま、お弟子をとられましたの?」
スー・デルカも、店に駆け込んできた。
ラン・デルカとスー・デルカは、色々な意味で、あたしの後任だ。
あたしが、カルト寺院を足抜けした際には、宣伝塔の後釜にねじ込んだ。
あたしとマルくんが、『
カルト寺院は、あたしにやられ放題である。
まあ、それくらい、いいだろう。それ以上の大きな貸しが、奴らにはある。
ラン・デルカとスー・デルカは、双子の姉妹だ。
緋色の
基本はオールマイティーだが、ランは、あたしと同じく、主に火炎系の呪文を、スーは、主に氷系の呪文を得意としている。
もちろん、回復呪文も使いこなす。
二人の息の合った連携には、あたしでもかなわない。
もっとも、一対一で負ける気はしなかったが。
チェッ。
「おまえら、何言ってんだ?」
デルカ姉妹に、あたしは訊いた。
「うちの娘が、ヴェロニカの弟子になったって、ラッキーが自慢してたぞ」
ランだ。
「かあさんてば」
ミキが、頭を抱えた。
「すみません。よく言って聞かせます」
ミキは、あたしに頭を下げた。
「いいよ、いいよ。遅かれ早かれ、ここで働いてたら、色々覚えてもらうことになるからさ。あたしの弟子で間違ってない」
「まじか」
ランが、あんぐりと口を開けた。
「おまえ、うまくやったな。こいつ、絶対、弟子なんかとらなかったんだぞ」
「ラッキーですか?」
「ラッキー、ラッキー、大ラッキーだ。本当なら、オレが弟子になりたいくらいだ」
へえ。ランが、そんなこと思ってただなんて、初めて聞いた。
「なに、あんた、あたしの弟子になりたかったの? なる? 二番弟子だけど」
「なるか、バカヤロ」
「あら残念。こき使ってやろうと思ったのに」
実は、『
紙のお
学習能力が高い、高位の精霊を宿らせるためのゴーレム核は、紙ではだめだ。
強度も足りないが、精霊の魂との親和性が、紙では弱かった。
俗に精霊石と呼ばれる、宝石の一種が理想とされている。
でも、お高いんでしょ?
ええ、とっても。
買えば、一財産だ。
言いずらいが、一粒で、『
そんな高価な宝石を複数持たせて、万が一、逃げられたならば大損である。
けれども、あの二人に限って、その心配はないだろう。
ミキに、ゴーレムづくりを手伝わせるため、と言ったら、手に職をつけてくれてありがたいと、感謝していた。
そのあたりから、ミキは、あたしの弟子という話になったのだろう。
ゴーレムづくりは、マルくんには内緒だと伝えてあったが、あいつら、大丈夫かな?
親バカなのか、ただのバカなのか、思ったより口が軽そうだ。娘は優秀なのに。
逃げられるより、全滅されるほうが心配だったが、二人とも、夫婦石を持っている。
最近は、パーティーに一つではなく、個人で一つ夫婦石を持つのがトレンドだ。
『
あたしは、ほくほくだが、マルくんの負担が増えている。
ゴーレムをうまく利用して、何か対応ができないだろうかと考えていた。
手遅れになってからでは遅いが、例えば回復アイテムが尽きて回復ができないため、うっかり動いて魔物と遭遇する危険を考え、動くに動けない状況になる時がある。
だからといって、そのままでは永久に事態は改善されないのだが、そこに回復アイテムをゴーレムが届けるというのはどうだろうか。
その役割をマルくんが担ってしまうと大変だが、ゴーレムならば、手間はかからない。
夫婦石を持った相手が予定の期日までに探索から戻らなかった場合、回復アイテムを持たせたゴーレムを迷宮に放って、自動で遭難者の元まで到達してもらう。
すでに全滅してしまっていなければ、回復アイテムで回復をして、自力で生きて戻ってきてもらう、というサービスだ。
必要ならば、ゴーレムに護衛をさせながら戻るとか、担架を引かせるのもありかもしれない。
名付けて『救急くん』というのは、どうだろう?
迅速に相手に回復アイテムを届けるためには、ゴーレムに、マップの把握が不可欠だ。
地下八階以深のマップを憶えさせる作業は、『
だが、そこまで潜れるパーティーは多くないし、深い階層は、階全体が踏破されているわけではないので、当面地下七階までの地図を憶えてくれれば、『救急くん』としての活動に支障はないだろう。
地下八階以深への出動の出番があるとすれば、現在、『
いずれにしても、ミスリル製の骨格と、精霊石のゴーレム核。
探索者垂涎のお宝である。
迷宮探索で手に入る稼ぎよりも、『救急くん』や『はいたつくん』を一体仕留めた方が、稼ぎは莫大だ。
獲物じゃないと、探索者にはっきりわからせるため、全身に大きくボタニカル商店のロゴマークを描いておく予定だが、誰も見ていない地下だ。わかっていて、倒せたらラッキーで攻撃してくる探索者がいないとは限らない。
盗難対策はもちろん、防御面でのゴーレムの強化も必要だった。
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