第48話 アダムとの戦い

「アダムさん! 何のつもりですか!」


「ただこの上に行かせる訳にはいかないだけだ。彼は口で言って聞くタイプではなさそでしたので仕方なく」


 ルークはアダムに剣を向けるがアダムはそれを気にもしない様子で翼の遺物は出しているが構えすらしない。


「一段でも登れば攻撃する。ただ、その場にいるだけなら何もしないから」


「何でそうまでして上へ行かせたくないんだ?」


「……世界平和のため」


 アダムから発せられた思いもよらない発言にルークは眉を寄せる。そしてルークはここに大量破壊兵器が眠っていると言う噂を耳にした事を思い出す。


「まさか本当に大量破壊兵器があると言うのか!」


「大量破壊兵器? ふっ、そんな物はここには無いよここにあるのは……増幅器だよ」


「増幅器?」


 アダムの言う増幅器というものがルークはピンと来なかった。言葉からして何かを増幅するのだろうけど一体何を増幅させて世界を平和にしようというのだろうか。


「君も世界平和を目指すなら僕達に協力するべきだよ」


「お前達は何をするつもりなんだ?」


「簡単だよ。杖の遺物使い聖女ザスキア様のお力を使うだけだよ。

 彼女の能力はリンク、他者と繋がることができるんだ。それを増幅させて全ての人類と魔族をリンクさせる。そうすれば人類の憎しみも、魔族の憎しみもみんなが理解して争う世界は無くなるよ」


 アダムの話す内容は一瞬魅力的な物に感じた。誰もが他者の痛みを理解すれば戦争など起きない。ルークはそう思ったがそれに賛成しきれなかった。


「憎しみはどうなるんだ! 憎しみに染まったヤツなんてそんなの関係ないだろ!」


「大丈夫だよ。リンクさえ成功すれば世界の意志は聖女ザスキア様を中心に一つになるのだから。皆が同じ心を持つ様になり統一された世界に憎しみなど無いはずさ」


 全ての人類も魔族も心が同じになると言うことをまるで素晴らしいことであるかの様にアダムは話す。その言葉に何処か光悦とした表情を浮かべる。


「さぁ、僕達と世界を平和にしようではないか」


 アダムはルークに近づき手を差し出す。ルークは差し出された手を叩いた。


「断る。俺が目指す平和とお前達の目指すそれとでは向かっている場所が違う」


「……なぜ嫌がるんだ? 世界は平和になるんだぞ?」


「その平和の中では人類は人類でいられない。魔族も魔族らしくいられない。全ての人が同じ心で同じ考えの世界なんて歪で可笑しな世界だ!」


「考えが……心が複数あるから人は対立する。魔族との戦いが終わろうとも今度は人同士で戦い合うに決まっている。ならば本当の平和はこれしか無いんだ!」


「そんな物平和とは言わない! ただのディストピアだ!」


「この崇高な計画の理念がわからないとは……。お前はここで消えてもらう」


 今まで構えていなかったアダムはゆっくり構えを取ると翼から大量の羽を飛ばす。大量の羽がルークの周りを飛ぶとそれらが一気に爆発した。


「遺物使いとはいえ所詮は学生か……」


 ルークがいた場所は爆発により焦げてルーク自身はそこには居なかった。アダムは落ちたのだろうと判断して再び天上へと戻ろうと足をすすめた。


 階段へ足を一本掛けた瞬間下から剣が生える。体を捻りアダムは避けるが避けきれず翼の遺物の方翼に剣が突き刺さる。

 剣が一度引っ込むと階段の裏からルークが姿を現した。


「所詮なんだって?」


「ふっ、それについては訂正しよう。だが、ここを通す訳には行かない」


 ルークは一気にアダムの近くまで走り剣を振るう。アダムはそれを飛び避けて距離を取ろうとするがルークは直ぐに肉薄する。兎に角ルークはアダムと距離を取らせない作戦をとった。


「これだけ近くなら巻き込まれるから爆発の能力は使えないだろ!」


 ルークの斬撃をアダムは翼で防ぐ。競り合い状態へとなり少しづつルークが押し込んでいく。


「僕の覚悟を舐めるな!」


 アダムが何かを覚悟して叫んだ瞬間競り合い状態の羽が全て爆発した。自爆覚悟で爆発してくるとは思っていなかったルークはモロにそれをくらい吹き飛ばされる。吹き飛ばされる方向が良かったため塔の壁へ激突するだけであった。


 爆煙が晴れると二人とも立ち上がって構えをとっていた。ルークは再び攻撃のためアダムへ近づくとアダムも同じように自分ごと爆破する。


「アダムさん! 何のつもりですか? 死ぬ気ですか?」


「そうだよ。僕はここを通す訳には行かないんだ! 例え命が尽きようともここを通させるつもりはない!」


「何でそこまでするんですか!?」


「もう誰も死んでほしく無いんだ! 平和を目指しながら魔族を殺す。そんな矛盾もうやりたく無いんだ。僕は本当は人類も魔族も殺したくなんかないんだ。だから死んでもここを通す訳には行かない!」


 アダムの心からの声であったのだろう。彼は僅かに目を潤ませながら叫んでいた。今までアダムはどれほど苦しみどれほど悩んだのかルークにはわからない。だからと言ってルークも譲る気はない。


 全てが同じ世界などルークは認めれない。違うからこそ面白いし、分かり合える。現に短い間だったが魔族のトップの一人エリザベスとも分かり合えた。


 それを否定するかの様な計画認める訳には行かない。何としてでも通ることを決意してルークは剣を構える。


 


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