第47話 塔の遺跡

 マークの体へ突き刺さった鎌の遺物は完全にマークの体へと飲み込まれた。先ほどまでふらふらであった足が今ではしっかりとしている。満身創痍であるはずのマークははっきりと目でわかるほど元気になり拳を構えている。


 確実に手応えを覚えていたコスタスにとってその異様な光景に後退りをしてしまう。明らかな異常さに冷や汗をかき、汗が頬を伝う。汗が流れて地面へと落ちた瞬間、マークが大地を蹴りコスタスへ急接近する。


 マークはコスタスに向けて拳を放ち、コスタスは棍棒でそれを向かい打つ。先ほどまでは力でコスタスは押していたが今は拮抗する。拳と棍棒はお互いを押し合いながらその場で停滞。明らかにマークの力が数段上がっていた。


「これだから遺物使いとは戦いたくないんだ!」


「そう言うなよ。お互い戦いを楽しもうぜ!」


 苦しい顔をするコスタスとは対照的にマークは笑顔を見せながら拳を振るう。拮抗する二人であったがその拮抗は破られる事になる。


 マークの振るった拳が棍棒に当たると棍棒が砕け散る。驚愕に染まるコスタスの腹へマークは拳を振るうが両腕でそれをガードされる。ガードしたコスタスであったが殴られた衝撃で体は少し浮き後ろへと飛ばされる。


 飛ばされたコスタスは両足で地面に触れて勢いを殺し少し離れた所で止まる。ジンジンと両腕が痛むがそれでも無理に拳を構える。


「今ので仕留めたと思ったがやっぱり甘くないか」


「これでも角鬼族のトップ、そう易々と首はやらん」


 コスタスが拳を構えるとマークは胸に手を当てて何かを引っ張り出す動作をする。引っ張り出されたのは鎌の遺物であった。マークの表情を見ると額に脂汗を浮かべて辛そうであった。


 先程の力は鎌の遺物の能力で奪った体力を無理矢理自分に注入して一時的に強化する技であった。体力を注入されると傷などは治るがその後の体への負荷は高く長時間維持する事は出来なかった。


 武器を無くし両腕を痛めたコスタス対負荷の高い技で疲労が溜まったマークの戦いが再び始まろうとしていた。


 お互いが見合い今まさに戦闘が始まろうとした時、塔の遺跡が突如光始める。光り始めた塔の遺跡は音を立てながら揺れる。塔の遺跡が崩れ始めたのかと思ったが遺跡は崩れる事なく光りながら、ボロボロであった壁が修復されていく。そして、まるで出来た当初の姿と思わしき姿へと変わる。


「てめぇ! 遺跡で何をしやがった!」


「し、知らん! 我らとて何が起こってるか分からん。遺跡自体まだ調査は始まってはおらんからな」


「ならアレはなんだ! くそっ、嫌な予感がしやがるぜ。戦いは一旦お預けだ!」


 マークはコスタスに背中を見せて塔の遺跡へと向かう。コスタスはマークへと攻撃する事なくその背中を見送った。


 思ったより体が動かないマークは何とか塔の遺跡の入り口へと辿り着くとそこでルークと遭遇する。他にも多数の各国の人々が集まっていた。皆が一旦戦いをやめてここへ集まったのだろう。魔族も遠巻きにコチラを窺うだけで攻め込んできてはいなかった。


「マークさん! この遺跡どうなってるんですか!?」


「俺もわからん。ただ、嫌な予感がする。早く塔の内部を調べるぞ!」


 二人が塔の内部へと入るとそこは無数の魔族の死体が転がっていた。ここで教国と魔族が戦闘になったのだろう。


「ルーク! とにかく上を目指すぞ」


 塔の壁を這うように螺旋状となる階段を二人は急ぎながら登る。吹き抜けの中央から上を見上げるがかなりの距離があるのか天井は見えない。

 それでも二人は必死に足を動かして塔の頂上を目指す。この現象の原因が上にあるとは限らなかったが嫌な気配は上に行くほど強くなっていった。


 ついに天井が見えあと少しで到着すると言うタイミングで白い羽が二人の前に舞い落ちる。ルークは剣の遺物でそれを切り払った瞬間、羽は爆発する。


 爆発の衝撃でマークは階段から中央の吹き抜けへと吹き飛ばされ落下していく、ルークは何とか爆風を耐える事が出来た。


「いきなり攻撃してすみません。でも、ここを通す訳にはいかないのです」


 落ち着いた口調で一人の男がゆっくりと階段から降りてくる。その男は教国の遺物使いであるアダムであった。

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