第40話 ドブ色の人形

 壊れた家屋を抜けた先は広場になっておりそこの中心に人がうずくまり、それと向き合う様にしてドブ川の色をした人形の何かがゆらゆらと揺れていた。その二人の周りにはアビサルの液体が一面に散っている。


 うずくまっていた人は立ち上がり顔が見える。うずくまっていたのはアランであった。アランは全身傷だらけで体から血が滴っている。


 重症のアランに向けてドブ色の人形は手を向けると手が針の様に鋭くなりアランに向かい伸びる。アランはそれを避けようとするが足を怪我しているのか上手く避けられずに脇腹を手が貫通する。貫通すると直ぐ元の大きさに戻り再びアランに向かい伸びる。


 アランに再び手が迫る中ルークは足を必死に動かして人形の手がアランを貫く前に彼の元に辿り着き彼を抱えてその場を飛び退く。ギリギリで伸びる手を避ける事ができた。


「ルークか……。何で戻って来た?」


「少しとは言えお世話になった村を見捨てれるほど薄情ではない。それよりもアランはこの場から離れて手当を」


「すまねぇ」


 アランはルークから離れると足を引きずりながらゆっくりとドブ色の人形から離れてゆく。ルークはアランを守る様に剣を構えて人形と対峙する。ちょうど燃えていた家屋が崩れて柱が人形へと落ちるがぐにゃりと曲がり人形はそれを避ける。その隙にアランは出来るだけ遠くへと逃げていく。


 人形は液体かゼリーかを思わせるような体をゆらゆらと揺らしながらゆっくりとルークに向かい足を進める。ゆっくりと足を進めながらルークに腕を向けると再び手が針のように鋭くなりルークに向かい伸びる。進む動きは緩慢であったが腕を伸ばすスピードはかなりの速さであった。


 アランに向けて放たれた手よりも早いスピードでルークに手が迫る。緩慢な動きからの超スピードに一瞬反応が遅れ顔面に迫る手を避けるタイミングが遅れる。タイミングが遅れたため手は頬を掠め、掠めたところから血が落ちる。


 避けた所に向かい人形は反対の手を針状にしてルークへと伸ばす。二度目の攻撃は無事にルークは避け針が通り過ぎる。


 通り過ぎた腕の一番ルークに近い部分から突如針が現れルークに再び襲いかかる。驚きながらルークは飛び避けるが針がまるで樹形図の様に広がりルークに襲い掛かる。


 剣で体を針から守る。急所は何とか防げたが全身の至る所が針で貫かれてそこから血が滴る。全身傷だらけであったアランは同じ攻撃をくらったのであろう。


 全身が痛むが剣を振るうのにも動くのにも問題ないルークは早めに決着をつけようと腕を伸ばしたままのドブ色の人形に向かい駆け出す。


 針を伸ばす以外の動きが緩慢なドブ色の人形の元へは直ぐに辿り着き、人形の頭から縦に真っ二つにする様に剣で人形を切る。


 人形は抵抗を感じさせずに簡単に真っ二つとなる。呆気なさすぎるがルークはアビサルの前例があるため警戒を緩めず細かくなるまで人形を切り刻んだ。


 細かく切り刻まれたドブ色の人形は溶けた様に地面に落ち水溜まりを作る。案外呆気なかったとルークが思っていると水溜まりが蠢き繋がりやがて再び人形の姿へと変わる。


 不死身。一瞬その言葉が浮かんだがそんな生物は居るはずがないとルークは思い再びドブ人形を切り刻む。切り刻まれた人形の破片は今度は地面に落ちる事なくそれぞれが針の様に鋭くなりルークに向かい襲い掛かる。迫る針をルークは後ろに飛び距離を取る事で回避する。


 地面に突き刺さった針は再び一つとなりドブ色の人形が姿を現した。切り刻んでも効果がないこの人形を倒す方法が思い浮かずに絶望する。しかし、よく見ると人形は小さくなっていた。切り刻めば刻むほど小さくなるだろうと判断したルークは再び人形へと迫る。


 剣が届く距離まで近づいたルークが剣を振りかぶり攻撃しようとした瞬間地面からドブ色の針が複数ルークに向かい伸びて来た。突如地面から現れた針に対応しきれなかったルークの体を針が貫く。体を捩り何とか急所を避ける事ができたがダメージは大きい。痛む体を無理に動かしてもう一度距離を取る。


 向かい合うドブ色の人形は嬉しそうにゆらゆらと揺れている。地面から現れた針はゆらゆらと揺れる人形と一つになり元の大きさへと戻る。アビサルと違い知恵があるようでかなりキツい相手である。


 ズキズキと痛む全身を動かしてルークは黒い刀身から赤い刀身へと切り替えるときにでる黒い破片をドブ色の人形へと放つ。放たれた黒い破片を人形は避けずに直撃するが穴が開くだけで直ぐに元へと戻る。


 黒い破片を遠隔で操作してドブ色の人形へと巻き付けて締め付けるが締め付けられた所が分裂するだけで直ぐに元の形へと戻った。


 ルーク自身もその攻撃に効果があるとは思ってもいなかったが実際にその光景を目にして強い焦りを感じる。ルークにはもう攻撃手段が残ってはいなかった。


 ドブ色の人形はゆらゆらとゆらめきながらゆっくり一歩づつルークへと近づく、近づいてくる人形と距離を取るようにルークもゆっくりと後ろへ下がるが倒壊した家屋により下がる事が出来ない所まで来ていた。


 ドブ色の人形は余裕のつもりなのか手を針状にして伸ばす事なくルークに近づき、手の触れる距離までやってくる。


 近くまでやってきたドブ色の人形はルークを飲み込むように変形してルークに覆いかぶさった。


 

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