第39話 アビサル再び
ルークがこの村へ来てから3日目の朝、明日にはこの村をたつ予定だ。少しの名残惜しさを感じつつ目を覚ましたルークは村長一家とエリザベスと共に朝食をとっている。
「今日は狩に行くから二人も着いてこないか?」
村長の息子であるアランはルークとエリザベスにそう言った。断る理由もない二人は朝食をとり終わると狩の準備をする。アランは狩に行くだけとは思えないほどの荷物を抱えてやって来る。
そんな重装備のアランと共に村を出てしばらく歩き村が見えなくなった頃、彼は話始めた。
「村からの脱出計画だけど、今からにしないか? 後をつけてる人も居ないみたいだしこのまま行方をくらますのが一番楽だ」
「そうね。もう少し村を見ていたかった気持ちはあるけどリスクは犯せないわね」
「俺もそれでかまわない」
少しの寂しさを感じながらルークはアランの意見に賛成する。
「これ。お前たちの部屋にあった荷物と少しだが食糧と水だ。みんなに見つからない様に準備するの大変だったんだぞ」
アランは大荷物をルーク達に渡す。それを受け取り中身を確認してからアランへお礼を言う。
「アランありがとう。村にいる時も世話になったし食糧と水も助かる。また、何処かで会おう」
「またどこかで」
ルークとアランは握手を交わして別れを惜しんだ。黙り込んでいるエリザベスの方を見ると彼女は村のある方の空を見上げていた。
「エリザベス?」
「あれ、村から煙が上がってない?」
エリザベスに言われそちらを向くと黒い煙が上がっていた。アランもその事に気がつくと焦った表情をする。
「二人ともまたな! 俺は村へ急いで帰るよ!」
アランは直ぐに村の方へと駆け出す。取り残された二人は顔を合わせて頷き合う。何もなければ良いが優しく迎えてくれた村長達に何かあったのではないかそう思うと見捨てて帰ることはできなかった。
「俺は村にこっそり様子を伺いに行くよ」
「もちろん私も行くわ」
二人は共に村へ向かい走り出す。
村にたどり着いたルークとエリザベスが見た光景は酷いものであった。
鹿や熊などの様々な動物がぐちゃぐちゃに混ざった様な球体に脚が生えた化け物が村人を襲っていた。家ほどの大きさのあるその化け物は家屋を壊し人々を食べながら村を徘徊する。
「アビサル……」
ダルネルの森での遠征訓練で出会った化け物を思い出すルーク。若干混ざり合っている動物が違う気がするがアビサルで間違いない。
「あの化け物どこかで……確かフレイヤの研究資料にあった卵……」
「何か知ってるのか?」
何かを知っていそうな事を呟いているエリザベスにルークは詰め寄る。彼女は困った顔をしながら詰め寄るルークを押し返す。
「あまり言いたくわないけどアレは恐らく私の同僚が作った化け物よ。アレの計画は反対したからもう研究は辞めになってるはずなのに……」
「とりあえず村人を助けよう。見える範囲だけでも2体は見える。片方は任せるぞ」
「わかったわ。後、アレは斬撃で分裂する性質があるから気をつけてね」
「知っている!」
ルークは剣の遺物をエリザベスは血の槍を出してそれぞれアビサルに向かい駆け出す。
ルークの向かったアビサルは今にも村人へ噛みつこうとしているタイミングであった。村人は恐怖からか声も上げる事が出来ず涙を浮かべて絶望の表情をしている。村人が食べられるギリギリのタイミングでルークは蹴りを入れてアビサルを吹き飛ばした。
「今のうちに逃げてください」
「……はい!」
村人は転びそうになりながらもその場から離れた。蹴り飛ばされたアビサルは家に当たり家を潰しながら転倒する。ルークが蹴りを入れた部位は凹んでいたがダメージを感じさせ無い足取りでアビサルは立ち上がる。
ルークは黒い刀身から赤い刀身へと剣の姿を変えて構える。立ち上がったアビサルがルークに向かい突撃して来るがそのまま刀身を伸ばして横に薙ぐ。簡単に上下真っ二つとなったアビサルは上下それぞれが球体になろうとする。球体になる間攻撃行動をしないアビサルにルークは何度も何度も斬撃を繰り出した。
斬撃により分裂するアビサルだがそれには上限がある事は前回の戦いでわかっていた。細切れになるアビサルは球体になる力を失い液状に溶けてしまう。
「……勝った」
以前は二人かがりでも勝ちきれなかった相手に一人で勝てた事に嬉しさが込み上げて来る。ここ一年くらいでルークは確実に強くなっていた。
ルークは戦いが終わりエリザベスの方を見るとそちらも決着が付いていた。ある程度切り分けられたアビサルが血で囲まれ、圧縮されて殺されていた。流石は魔族のトップである。
「そっちも終わったみたいだな」
「えぇ。他にもアイツがいるかも知れないから手分けして村を回るわよ」
「わかった」
エリザベスの意見にルークは賛成する。それぞれが別の方向に向かい走り出す。
村からは既に人々は逃げた後なのか人の気配はほとんどない。壊れた家屋や火災が起きている家屋があるばかりであった。
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