第13話 魔族会議

 王国領から東の果て、荒れた大地に巨大な城が佇んでいた。その城の一室に人間ではあり得ない特徴をしている魔族が四人、円卓に座っている。


 一人目は2メートルはあろうかという巨体に黒い毛が身体中に生えた狼を模した姿をした魔族。獣鬼種のジョシュ。


 二人目は小柄な体格の女性でぱっと見は赤い瞳をした子供に見える。ただ、人間ではあり得ないほど尖り唇から犬歯をのぞかせる。吸血鬼種のエリザベス。


 三人目は赤黒い肌に額にはツノが二本生え強靭な筋肉がある上半身裸の男性。角鬼種のコスタス。


 最後に背中にまるで蝶の様な羽を生やして温和な表情を浮かべている女性。精霊種のフレイヤ。


 魔族の代表である上記四人が机を囲んで話し合いをしている。


 丸太の様に太い赤黒い腕を机に叩きつけて野太い声でコスタスが話す。


「ジュシュ! 貴様の部隊が遺跡の破壊に失敗したらしいな! どう責任とるんだ!」


「遺跡の破壊には成功している」


 コスタスの言葉にジュシュは居心地が悪そうにそれを否定する。その反論に余計に苛立ちを覚えたコスタスは更に語気を荒げて話し始める。


「新たな遺物使いが現れたのでは意味がない! 遺物使いが我々にどれだけ危険な存在か知らないわけでもなかろうに!」


「分かっている! 最近でも俺たち一族が遺物使いらしき奴らに村を襲われて何も残さずに消滅させられてるんだ! お前達の様に魔族領の奥地でのうのうとしている一族に言われたくない!」


 話し合いが一族の罵倒に変わろうとした時、その言い合いを聞いていたエリザベスは特徴的な赤い瞳を閉じて呆れた様にため息をつく。


「二人とも辞めなさい。今話すべきはこれからどうするかよ」


 エリザベスの言葉にジュシュは舌打ちをし、コスタスは鼻を鳴らして一旦は黙る。それを見て再びため息をつくエリザベスだった。


「あんた達ねぇ……。まぁ、いいわ。それよりこれからどうします? こっちは兵力が変わらず向こうは新たな遺物使いが産まれた。下手したらこの膠着状態が最悪な方に傾くわよ?」


「俺の部下の報告では新たな遺物使いはまだ弱いらしい、今のうちに王国を叩けば勝てる!」


「馬鹿か貴様は? そんな事をすれば帝国と教国が黙ってないわ。脳みそまで毛が生えてるのか?」


「何だと? この木偶の坊!」


「あん達いい加減にしなさい!」


 再び言い合いを始めたジュシュとコスタスに呆れて怒りすら湧いてきたエリザベスは言葉を荒げながら机を両手で叩いた。

 エリザベスが怒っているのを察した二人はバツが悪そうに黙り込む。


「フレイヤ、貴方はさっきから黙っているけど貴方はこれからの事どう思う?」


「私ですかぁ?そうですねぇ〜。研究さえできれば良いかなぁ」


 変に間伸びしたフレイヤの口調にエリザベスは更に苛立った。こいつらは本当に魔族全体の事を考えているのか。エリザベスは怒りを堪える様に机の下で拳を強く握りしめた。


「やはり、人類と和平を結ぶのも……」


「それだけは絶対にない!」


 エリザベスが言い切るまえに食い気味でジュシュは反論した。ジュシュの瞳は明確な憎しみと怒りが宿っている。その急な反論にエリザベスは面食らってしまう。


「あいつらが俺たちに何をしてきたか忘れたのか!」


 ジュシュの言葉を聞いて人類が魔族を殺してきた過去を思い出すがそれは魔族とても同じであるとエリザベスは思っている。だが、それを言った所で意味はないと感じて黙るのであった。


「それよりも、フレイヤ。御主の研究で遺物使いに対応出来そうな物はないのか? 少なくない研究費を使用して成果がないとは言わないだろ?」


 コスタスは話を変えてフレイヤに質問をした。質問されたフレイヤは妖艶に微笑むとその質問に答える。


「よくぞ聞いてくれましたぁ。斬撃が効かない生物を作り上げたのですぅ〜。まぁ王国領にあった試作品は廃棄したのと効かないと言っても細かく切られたら死ぬんですけどねぇ」


「ほぅ。それでソイツで遺物使いに勝てるのか?」


「十中八九負けますぅ」


「ふざけているのか!」


 フレイヤの言葉に頭にきたコスタスは机が壊れる勢いで叩く。机は何とかそれを耐えたが壊れる様な嫌な音がした。


「まぁまぁ、落ち着いて聞いてくださいよぉ。私たちはそれを卵と読んでますぅ。つまり次の段階、孵化した姿があるのですよぉ。王国領の試作品はその過程でちょっと事故があって破棄したのですがぁ、ちゃんとした改良型が孵化したら遺物使いにも対抗できる予定ですぅ」


「それは本当だろうな?」


 コスタスは訝しげながらフレイヤに問う。


「はいぃ〜。ただ、制御が上手くできないのでしっかりと誘導しないと魔族にも被害がでますぅ」


「ふざけんな!」


 それを聞いたジュシュは怒り机を叩く。散々叩かれた机はついにひびが入る。


「被害に遭うのは人類領の殆どと面している俺たち獣鬼族だろ!」


「でもぉ、今の所これ以外この状況を打破する方法はありませんよぉ?」


「私も反対ね。そんな制御出来ない代物今後どんな影響が出るか分かったものではないわ」


 フレイヤの作り出した生物の使用をエリザベスは反対した。どんな影響が出るか分からなかったのもあるが生物を作り出すというものに忌避感もあったためだ。


「お二人が反対するならわかりましたぁ。では、確実性は低くなりますがこの薬なら対抗出来るかも知れませんよぉ」


 フレイヤはそう言うと懐から謎の錠剤を取り出した。


「一時的に魔族の身体能力を引き上げるお薬ですぅ。ただぁ、副作用として効果が切れてたら酷い筋肉痛になりますけどぉ」


「安全何だろうな?」


 ジュシュはフレイヤを睨みつけながら薬の安全性を聞く。


「一日一錠のみという〜。用法用量を守れば大丈夫ですぅ」


 ジュシュは机の上に置かれた薬を取り上げると躊躇する事なく一錠飲む。飲むと直ぐに目を丸くしそして凶暴な笑みを浮かべる。


「これは良い! この力が有れば人間どもを皆殺しにできる! フレイヤ、これは量産可能か?」


「可能ですがぁ。まだ設備が足りないのでぇ、暫くは無理ですよぉ」


「量産でき次第人間どもを滅ぼしに行くぞ!」


 ジュシュは高笑いをしながら人間を滅ぼす宣言をする。

 

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