第12話 ダルネルの森の調査

 ルーク達が化け物と戦闘して数日が経過した。ダルネルの森では王国が教国に依頼をし、合同で調査隊を結成して森の調査を行っていた。


 王国と教国は化け物をアビサルと命名。ルーク達が遭遇した他にも個体が存在しているか、何処から来たのか調査を行った。


 他の個体のアビサルが居るのかもどこから来たのかさえ分からないまま調査は難航していた。

 しかし、アダムがたまたま怪しげな洞窟を見つけた事により調査は進展する。


 その洞窟はぱっと見ただけでは見つかり難い様に隠されており空から見ていたアダムはたまたま見つけたのであった。アダムは一応外から中の様子を見たがただの洞窟に見えた。

 しかし、アダムは僅かな違和感を感じる。それはまるで人が通ったのを後から痕跡を消した様な気がしたのである。


 不審に感じて調査の為奥に進むとそこには直径1メートル程の大きさの円柱状の水槽が何本も並べられている。その中の一本は内側から破られたのか水槽に穴が開きその下にガラスが飛び散っていた。他の水槽には透明な水と底に黒い液体が溜まっている。

 アダムにはその黒い液体に見覚えがあった。それはアビサルを倒した時に体が液体になるそれの様だった。


 この施設でアビサルを作っていたのではないか。そんな生命を作るなどと言う冒涜的な行為が行われていたと考えると嫌な汗が頬を伝う。

 もしかして量産も可能なのではと最悪な考えも浮かんだが今はそれを考えている場合ではないと首を振るう。


 直ぐ様外へ出て教国の調査隊へ秘密裏に連絡を取る。そう時間がかからないうちに1人の女性がアダムの元へやってきた。


 その女性はこの場に似つかわしくない、修道女の格好をしており、手には杖が握られていた。


「聖女様。貴方様も来られていたのですね」


 彼女は教国の聖女の一人であるザスキアである。普段は教国の教会から外に出ることは稀である彼女達聖女だがザスキアは王国領に来ていたのである。

 おそらく無理を言って他国の領地まで来たのであろう。


「えぇ。おばばの予言が少し気になりましたので」


 おばばの予言とは水晶の遺物使いである大聖女ヨハンナの予言である。内容としては国境に魔族の気配ありという簡単なものだった。


「ここがアビサルの研究施設?」


 ザスキアは言葉を続けてアダムへ質問を行った。


「詳しい事はまだ調べていませんのでわかりませんがおそらくは間違い無いかと」


「そう。所でアダムはこの施設どこの誰が所有してたと思います?」


 ザスキアの質問にアダムは顎に手を当てて考える。場所は王国領であるため王国が秘密裏に研究していた可能性もあるが生命の冒涜を許す筈がない教国へ合同調査を持ちかけるのはリスクが高い。他国は場所が遠すぎてほぼ有り得ない。

 アダムは考えをまとめると聖女に向かって話す。


「魔族が一番怪しいかと」


「そうね。魔族領も遠いけどこっそり何かするのに適した種もいるものね。それに魔族だとしたらおばばの予言と合致するもの。ただし、王国の可能性や非公式の団体の可能性も捨てきれないから注意しましょう」


「わかりました」


 アダムは返事をしてザスキアと共に再び洞窟へ戻り調査を開始した。

 水槽の部屋の他にもここで寝泊まりしていた形跡も発見。しかし、この施設は廃棄されたのか誰一人おらず閑散としていた。


 アビサルの研究資料が無いかと探したがそれらしい物は見つからなかった。


「ここの研究員の手がかりもアビサルの情報もないわね」


 ザスキアは難しい顔をしながら一旦調査の手を止めて呟いた。


「完璧に処理されていますね」


「悔しいけど私たちではこれ以上は無理ね。王国の調査隊と合流して専門的な調査をするしか無いわね」


 そういうとザスキアとアダムは施設を後にした。

 

 王国に連絡を入れて王国の調査隊と合流して調査を行った結果水槽内の黒い液体はアビサルの死後の液体と同一と言う事が分かった。しかし、ここでアビサルが造られたであろう事以外判明はしなかった。

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