第11話 絶望と遺物使い

 化け物が一体から二体となる絶望的な状況になってしまったルーク達。

 その状況に唖然とするルークだったが直ぐに切り替えて剣を握った手に力を入れる。


 手数が純粋に二倍になるであろう化け物が攻撃を仕掛けてきた場合ミカルでも捌ききれるか怪しい。動く前にケリをつけないと。そう思ったルークは剣の赤き刀身を出すと横薙ぎで剣を振るった。


 2体の化け物は上下半分になったが、直ぐにそれぞれが球状となり合計4体の化け物となる。


「そんなのありかよ」


 ルークは背中に冷たい汗が流れるのを感じながらつぶやいた。切っても増殖するだけの化け物を対処する方法を考えたが答えは見つからなかった。


 先程より素早く球状に戻った化け物はそれぞれ2体づつルークとミカルへ今までより速いスピードで襲い掛かった。


 化け物は足で地面を蹴り口を大きく開けて鋭い歯を覗かせながらルークに噛み付いてくる。それを上手く避けるが化け物はボールの様に木にバウンドし再びに襲い掛かる。


 ルークは一体なら対処できる自信はあったが二体のその攻撃は避け切る事が出来ずに脇腹を浅く噛みちぎられた。


 クチャクチャと味わうかの様に噛みちぎった服と一緒に軽く抉った脇腹を化け物は咀嚼して飲み込む。その間ももう一体の化け物はルークに噛みつこうと飛び掛かっていた。


 脇腹の痛みに耐えながらルークは避け続ける。食べ終わった化け物も再び攻撃に参加する。そして、どちらかの化け物の噛みつきに当たり浅く皮膚を持っていかれる。


 危機的状況の中どうすればこの状況を打開する事ができるか考えを巡れせる。しかし、良い案が思いつかない。そこでルークは一か八かの賭けを考えた。


 ルークは一体の化け物にわざと攻撃を掠らせて皮膚と服を食べさせた。そのおかげで少ない間だが化け物と一対一になる。


 飛びかかってくる化け物にカウンターで剣を叩き込む。剣が叩き込まれた化け物は二つに分かれると再び球状になろうと蠢く。


「うぉぉぉー!」


 ルークは雄叫びを上げ気合を入れながら球状になろうとする球体に何度も切り刻む。痛む全身を無理に動かし何度も何度も化け物が動かなくなるまで剣を叩き込んだ。


 何度も剣を叩き込まれた化け物は体がまるで液体の様になり黒い煙をあげて動かなくなった。


「やった!これで勝て……」


 喜んだのも束の間、全てを言い切る前に目の前にもう一体の化け物が迫っている事に気がついた。


 死んだ。ルークはそう確信して恐怖で体が硬直して動かない。


 そんなルークの視界に一枚の白い羽が空から落ちてくる。白い羽と化け物がぶつかるとまるで壁に衝突したかの様に化け物は後ろへ弾き飛ばされる。


 あまりの出来事にルークが呆気に取られてると弾き飛ばされた化け物に無数の白い羽が降り注ぎ、化け物に纏わりつく。纏わりついた羽は眩い光を発して爆発する。


 化け物は爆発により木っ端微塵となり飛び散った欠片が液体状に溶ける。ミカルの方を見ると同じように化け物は液体状になっていた。


「大丈夫かい君達?」


 空から声がし、そちらを振り向くとそこには白い翼を背に生やし金髪の長い髪を靡かせた男性が浮かんでいた。


「アダム スティーン」


 ミカルがそう呟いたのが聞こえた。

 ルークはアダムと言う名前に聞き覚えがあった。確かアダムは教国に所属する翼の遺物使いの名前だった。


「僕も有名になったみたいだね」


 アダムはそう言うと空から降りてくる。


「いやー。良かった良かった。国際問題になるって言うみんなの反対を押し切って来たかいがあったよ」


 アダムは緊張感のない笑顔と声でそう言った。その声に少し戸惑いつつもミカルが彼に質問をする。


「なぜ貴方の様な方がここに来られたのですか?」


 国境近くとは言え教国の重要戦力であるアダムが王国の領土であるダルネルの森にいる事が不思議であった。


「たまたま、国境の警備に来てたら王国の女学生がすごい顔して国境に来たから事情を聞いて文字通り飛んできたんだよ。そんな事より二人とも怪我だらけじゃないか早く治療をしよう」


 アダムはそう言うと応急処置をそこそこ行い二人を抱きかかえて国境に向かい飛んでいく。









 国境に辿り着くとそこにはペトラを含めた数人の学生が居た。ハラルト達の姿は見えない。


「化け物を足止めしてた俺たちの方が先に着いたみたいだな」


 ミカルは周りを見ながらそう言った。


「ルーク! ミカル! 無事だったのね!」


 アダムに運ばれているルーク達を発見したペトラが駆け寄ってくる。


「無事って言うにはボロボロだけどね」


「そうね。早く治療を受けないと」


 ペトラと軽く言葉を交わしたルーク達は治療のためにその場を後にした。


 ルークとミカルはちゃんとした治療を受けてベッドへと寝かされた。

 遠征訓練と化け物からの逃避と戦闘で疲れていたルークが眠気に誘われていると隣のベッドから声がした。


「ルーク……。改めて今まですまなかった。そしてありがとう。お前が居なかったらきっと俺だけでは救援が来る前に力尽きていた」


「ミカル……。こっちこそありがとう。ミカルが居なければ誰かが犠牲になっていた。ミカルが化け物に向かって行ったから俺も覚悟ができたんだ」


「そうか」


 ルークとミカルとの間に沈黙が流れる。ルークはミカルに聞いてみたかった事があったが中々言い出せないでいた。

 しばらく沈黙が続いたが居心地は悪く意を決してミカルへ質問をした。


「なんで俺をあんなに目の敵にしていたんだ?」


「俺は貴族しかも侯爵家の生まれだ」


「侯爵家!?」


 ルークはミカルが貴族の中でも上に位置する侯爵家である事に驚いた。


「話を続けるぞ。そこで弱者を守れるように厳しく育てられた。だから、俺にとって勉強も武術もろくに習っていない平民は守る対象だったんだ」


「それで何であんな対応なんだ?」


「騎士学校は戦う人間を育てる学校だ。ただ遺物を持っただけの覚悟も何もない平民が来て良い場所じゃない。だから、圧倒的実力差を見せつけて田舎に帰らして、戦いとは関係ない平和な暮らしを送ってもらいたかったんだ」


「もっと良いやり方があるだろ」


「そうだなでも俺にはアレしか思いつかなかったんだ。結局、ルークを帰らせる事も覚悟を見極める事も出来なかったんだから笑い物だよ。けど、一緒に戦ってわかったよお前は守られる側の人間でなく守る事ができる人間だって」


 ミカルに認められた。ただそれだけだったがルークにとっては大きいものだった。不思議と笑みがこぼれ落ちる。


 ルークとミカルは自分達の過去の話をしながらゆっくりと休み、いつの間にか眠りについていた。


 


 ルークとミカルが治療を受けている間に教国から連絡を受けた王国が調査隊を派遣して無事全クラスの学生及び生徒はダルネルの森を脱出する事ができた。


 心配であったハラルト達一行も無事に国境に到着した。化け物と交戦していたマルクスも隙をついて逃げ出しておりかすり傷一つなくダルネルの森を脱出していた。


 騎士学校の遠征訓練だがもちろんの事中止となりそれぞれが学校へと戻るのであった。

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