第10話 化け物との対峙
翌朝、ルーク達は野営の後片付けをしてから国境に向かい出発した。
疲労が溜まり皆の足取りは重たいが問題がなければ今日中には国境に辿り着けるペースで進んでいく。
少し進むと異変が起きた。
本来凶暴性の少ない大人しいはずのダルネルヘラジカが興奮した様子でこちらに向かって突進して来ていたのである。
ヘラジカの突進に驚いたが騒ぐと余計に刺激すると判断したルーク達は木の影に隠れてヘラジカが通り過ぎるのを待った。
幸いヘラジカと衝突して怪我をした者は誰もいなかった。
「全員。ダルネルヘラジカが来た方を警戒しながら先を急ぐぞ」
ハラルトの言葉を聞いて足を速めながら先を急ごうとした時、それの足音は聞こえた。
ダルネルヘラジカがやってきた方向から明らかに別の大きな足音が聞こえた。
足音はどんどん大きくなりそれは姿を現した。5メートルほどに大きくなった一昨日見た化け物であった。
「全員!荷物を捨てて走れ!」
ハラルトが叫ぶと同時にルーク達は持っていた野営道具などが入った荷物を投げ捨てて走り出した。
化け物を振り切ろうと全力で走るが化け物との距離は離れるどころか少しづつ縮まっていく。このままでは追いつかれてしまうそう思った時急にミカルは立ち止まった。
「ここは俺が食い止める。お前達は足手まといだ先へ行け!」
「……頼む」
ハラルトは顔を悲しげに曇らせると皆を連れて先へ急いだ。
化け物は一旦立ち止まり、球場の体から腕を一本追加で生やすと凄まじい速度でそれをミカルへ伸ばす。それを紙一重でミカルは回避して伸び切った腕を帯刀していた剣で切り裂く。
切り裂かれた腕は血が出る事なくまるで何もなかった様にすぐにくっついた。つまり、化け物には一切のダメージが入ってないのである。
「ミカル!俺の遺物ならそいつにダメージが入るかも知れない。だから、俺も残って戦う」
「居ても邪魔だ!さっさと逃げろ!」
「何で一人で戦おうとするんだ!」
「弱者を守るのが貴族の勤めで俺の信念だからだ!」
無数に生え攻撃してくる化け物の腕を避けながら話すミカル。そんな彼は話すのに気が逸れたためか掴みかかってくる腕を一本見逃してしまった。
ルークはそれに気がつくと直様剣の遺物を取り出し地面を蹴った。常人では見切れないほどのスピードでルークは化け物に近づき腕を叩き切った。
ルークの斬撃により腕は斬り飛ばされ断面からは黒い煙の様なものが出ている。
ルークはミカルを掴むと化け物から距離を取った。
「ミカル。一緒に戦おう、俺は遺物に頼らないとお前に勝てないほど弱いかも知れない。けど、誰かが死ぬのはもう見たくないんだ」
「……」
ルークが化け物の方を見るとそれは先程斬り飛ばされた腕を別の腕で掴み自分の大きな口へと運び咀嚼している所だった。
「ルーク……。今まですまなかった。お前を俺は認めたくなかったんだ。けど、今はお前を認めるよ。俺も誰かが犠牲になるのは嫌だからな」
「ミカル!」
「作戦を伝える。俺が囮になるから隙をついてルークがあの化け物の本体を一刀両断しろ。腕をちまちま切っても意味はほぼない」
「囮って大丈夫なのかよ。遺物使ってる俺の方が丈夫だし俺が囮の方がよくないか?」
「俺では奴にダメージを与えられない。それに遺物での肉体強化後の体上手く扱えてないだろ?」
悔しいがミカルの言った通りだった。肉体強化をした後は上手く力の調整が出来ず直線的な動きしか出来ない。そんなルークでは避けながら隙を見て全力で攻撃なんて器用な真似は出来るはずもなかった。
作戦が大まかに決まると化け物は自分の腕を食べ終えたのかこちらに向かって腕を伸ばし始めた。
それを見たミカルは化け物へ近づきながら化け物の攻撃を避けていく。無駄に攻撃する事なく避ける事に集中したミカルは問題なく回避できている。
その間、いつ隙ができてもいい様に剣を構えてルークは集中する。
ある程度近づいたミカルはそこから化け物を中心に反時計回りに移動を始める。それに合わせて化け物も反時計回りに動き出す。
「やはりコイツ知能が低い。近くの獲物にのみ攻撃する習性があるみたいだ。俺以上にコイツに近づくなよルーク!」
ミカルは華麗に避けながらルークに注意を促す。
言われた通り化け物との距離を注意しながらルークはタイミングを待つ。
化け物は腕の数を増やしながら攻撃するがミカルはその全てを避ける。
避けているミカルを見て焦る気持ちはあったがそれを耐える。もし、ルークがミスをすれば全員の命が危ない。
ミカルは移動を始めてついに一直線状となった。この瞬間化け物は完全に前を向いておりルークは死角となる。
ルークは全力で大地を蹴り、化け物へ急接近する。
ルークはこの一撃に全力を注ぐと剣の遺物に異変が起きた。剣の赤い線が強く光ると黒い刀身が弾け飛び赤く光る剣が顕になった。それは6メートル程伸びる。
これなら真っ二つにできると思ったルークは腕に力が入る。
ギョロリ。そう音が聞こえた気がした。急に化け物から目が生えたのだった。ルークはそれと目が合い血の気が引いていく。
やばいそう思った瞬間化け物の体からルークに向かって一本の手が生える。
避けようにも今の状態では避けれない。剣を振りかぶった状態では剣で腕を防ぐのに間に合わない。
止めるわけにもいかなかったルークは先に攻撃が当たる事を祈りながら全力で剣を振るった。
化け物の腕はルークの鼻先数センチの所で止まり力なく地面に落ちる。それと同時に化け物は真っ二つに分かれた。
「助かった」
ルークは安堵の声を漏らした。
弾けた黒い刀身がいつのまにか戻っておりいつもの遺物の姿へと変わっていた。
一気に気が抜けたルークは力を抜いて座ろうとした時ミカルは叫んだ。
「まだ気を抜くな!そいつ生きてるぞ!」
ミカルの言葉にルークは再び構え直し化け物を見る。化け物の断面から黒い煙が出ているが、動いている。よく見ると切られた断面から無数の小さな手を出してくっつこうとしている。
「マジかよ……」
その悍ましい光景にルークは後退りをする。
二つの半球がそれぞれ姿を変えて球状になっていく。約5メートルの化け物が約2メートルの化け物2体となった。
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